20:傲慢な恋
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「はい――――」
私は狡い男だと思う。
面接の日時を間違えてしまい、クリステルの未来を奪った。流石にそのまま『ではこれで失礼』とは言えず、とりあえず騎士団で働くことを打診した。
クリステルの能力が私たちが欲していたものと同じかそれ以上そうだったから。内部募集が出るまでの足掛けでいいと伝えて、引きずり込んだ。
それなのに、王城内で内部募集が出ていてもクリステルに教えなかった。クリステルは騎士団舎から出ることがあまりないので、教えなければ気付かないから。あえて言わないだけ、という言い訳を自分にしていた。
そうして二年もの間、そうやって騙して働かせてしまっていた。
クリステルは、とても気が利く子だった。
一を言えば、百を理解し、それをちゃんと私たちに分かりやすくフィードバックしてくれる。
書類を溜めがちだったときには、効率の問題だろうと、色々と知恵を絞ってくれた。
お茶汲みなどは仕事ではないはずなのに、私たちの飲み物が減ると補充もしてくれるし、休憩用の菓子もそっと添えてくれる。
クリステルは自分のついでだと真顔で言うけれど、クリステルの飲み物が減っていないときもやってくれているのを、私は知っている。
お礼を言うとふわりと微笑み返してくれるところが、とても可愛らしい子だ。
気が付いたときには、視線で追うようになっていた。
彼女の挙動を一瞬一秒見逃したくない、なんて気持ち悪い理由で。
彼女や婚約者がいなかったわけではない。ただ、ドジをするたびになぜか『別れたいからとそんなことをしないで』と嘆かれ、振られる。
告白され、お付き合いというものを始め、淡く抱こうとした恋も一瞬で消え去る。
だから、私は恋をしたことがなかった。
クリステルに恋をしていたのに、随分と気付かなかった。
貿易をする際、騎士団への護衛申請書類を出せば、騎士による増援を行っている。伯爵がそれに間違えて同封したクリステルの釣書を見て、クリステルが誰かと結婚するつもりがあるのだと気が付いた。
時期的に、王城で開催される未婚者のための夜会へ提出するものだろうから、婚約者はまだいないのだろう。
――――それならば、私で良いではないか。
傲慢だった。
クリステルには嫌われていないのは分かる。それなら、彼女を囲えばいい。時間をかけて私を好きになってもらえばいい。
初めての恋に恋をしていた。
彼女を失いたくない一心で、手違いと分かっていながら、釣書を婚約の申し込みと勘違いした振りをして、受理した。
「…………恋?」
「あぁ。君に恋をした。君を愛した」
一通り話し終えたあと、そう付け加えて、彼女の審判を待つことにした。




