表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【連載版】婚約者が死んだ――――社会的に。  作者: 笛路 @書籍・コミカライズ進行中


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/19

17:本心を知るのが怖い。




「クリステル、このあと少しいいか?」

「はい」


 終業の時間になって十五分経ったころだろうか、レンブラント様が机の前に来た。

 了承すると、ホッとしたような顔でありがとうと言われて、彼も今日一日緊張していたんだなと気が付いた。

 そういえば、今日は彼がドジをしたところを見ていない。


 レンブラント様は、毎日必ず何かしら小さなドジをしては、クールに対処している。ただ、集中したり緊張していると、彼はなかなかドジをしないのだ。ゼロではないけれど……。

 うん、それは横に置こう。


 なにごと!? という顔をした副団長に挨拶しつつ団長室を出る。明日出勤したら根掘り葉掘り聞かれそうだ。

 いつも通り、レンブラント様に丁寧なエスコートされ、馬車に乗り込んだ。

 

「あ、行き先を言っていなかった……ごめん。我が家でいいだろうか? もし嫌なら……」

「レンブラント様のお屋敷で大丈夫ですよ」

「ん、ありがとう」


 こういうときにふわりと笑うの、ズルいと思う。

 



 お屋敷に着いて、サロンに通された。

 初めはサロンの広さに驚いたものの、そのあと少しの違和感を覚えた。広さに対して、貴族特有の飾り気が少ないのだ。

 来客を迎える用として不足はない程度。

 なんとなく、簡素。


「紅茶のストレートで良かった?」

「ええ」


 メイドがお茶を持ってきて、私たち二人の前に並べ立ち去っても、私たちに会話はなかった。

 カップの中で静かに冷めゆく紅茶を眺めていただけ。

 冷めきる前に飲まなければメイドに失礼だと思い、そっとカップを持ち上げ口を付けた。

 ふと向かい側に座るレンブラント様に視線を向けると、彼も紅茶を飲んでいた。

 

 どうにも、会話を始める糸口が見つからない。


「っ――――クリステル、昨日はすまなかった!」


 急に大きな声で謝られたことで、ビクリと身体が揺れてしまい、カップとソーサーをガチャンとぶつけてしまった。


「怪我は!?」

「はい、大丈夫です。申し訳ございません……欠けさせてしまったかも」

「すすすまない、驚かせたよな。気にしなくていい、直ぐに替えさせる」


 新しい紅茶を淹れてもらい、メイドにお礼を言い、今度はちゃんと温かい状態で飲んだ。

 深い森の中にいるような、とても落ち着いた香りと味。


「……美味しい」

「ん」


 漏れ出た言葉にレンブラント様が小さく頷いてくれる。さっきもだった。大きな音を立ててしまった私に対して、一番に怪我の心配をしてくれた。とても優しい人。

 私ならきっと、割れたか割れていないかの確認のみするだろう。


 だからだろう。

 レンブラント様が私と婚約する理由が、その優しさから来ているんじゃないかと疑ってしまうのだ。

 登用面接のときのこと、私が騎士団で働き続けていること、彼はずっと気にしている。

 後悔と言っても良いと思うような感情だと思う。

 だから、受け入れたんじゃないのだろうか?


 私の中にいる狡いクリステルは、それで好きな人と婚約できたんだからラッキーだろうと言う。

 レンブラント様に恋をしている夢見るクリステルは、それは嫌だと言う。


 私は私の気持ちが分からない。どれが本物なのか、分からない。

 答えが見つからなくて、ずっと迷宮の中で彷徨っているようだ。

 

「昨日――」 

「っ、はい?」


 思考の渦に飲み込まれ、ぼーっとしていた。

 慌てて返事をすると、レンブラント様が眉尻を下げ、困ったように微笑んだ。


「昨日、クリステルを追おうとしたんだけどね、お父上に止められたよ」

「あ……」


 たぶん、レンブラント様にも時間を空けろと話したのだろう。

 追い返しちゃった、テヘペロ☆みたいには言っていたけども。


「愛しているよ」


 淋しそうな表情でそう言われ、心臓が止まりそうだった。

 なぜその表情で、なぜその言葉を言うの?


 怖い。

 本心を知るのが、怖い――――。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ