11:レンブラント様の優しさ
仕事が終わり、レンブラント様の馬車に乗り込んだ。
「うーん。思ったより大騒動になってしまった。両親も隠居地から出てくるかもしれないなぁ」
彼の両親は早めに爵位を譲り渡し、別荘地で悠々自適に過ごされている。
社交シーズンや何かの用があるときのみ王都に来るようにしているとのことで、婚約式のときにご挨拶したきりだ。
私としては、またお会いしたい。お二人とも凄くお優しかったのと、母がいない私にとって、彼のお義母様はなんだか特別な感じがして、もっとお話したいなぁと思っていた。
ただ、レンブラント様的には会いたくないのかもしれない。
昔からドジなところを叱責され続けていたようで、いろいろと遺恨があるらしいけれど、副団長の言うことなのでいまいち信用は出来ていないが。
「はぁ」
レンブラント様の眉間にシワが寄っている。どうにか気持ちを軽くしてあげたいが、そういうのは得意ではないので、思っていることを素直に伝えた。
「もしいらっしゃったときには、私もちゃんとご説明いたしますので」
「ん。ありがとうクリステル」
ふわりと微笑んでくれたので、たぶんちょっと心の支えにはなれたのだろう。
レンブラント様のお屋敷に到着し、聞いてはいたけれど、途轍もなく大きなお城と言っても過言ではないお屋敷に放心していた。
「クリステル、ワインセラーまで一緒に来てくれるかな?」
「ええ、もちろん」
レンブラント様と執事に案内されるがままに地下にあるワインセラーに入ると、両側の壁にずらりとワインボトルが寝かされていた。
「奥に向かって左手側に老舗ワイナリーがまとめられてございます」
「辛口が好みと聞いたが、赤白の好みは?」
「白をよく飲んでいますよ」
牡蠣や海鮮と一緒に飲むのが好きで、牡蠣のあとに白ワインの辛口を飲んでは「くぅぅぅ、うまい!」とか煩いくらいに唸っている、という話をした。
「なるほど、牡蠣であれば海が近い地方で作られたものがいいだろうな。これはどうだろう?」
レンブラント様が執事と話しながら決めたボトルは、父が良く飲んでいるものだった。
家でよく見るボトルだと言うと、それなら違うものの方がいいだろうと言う話に。
何本か見せられたが、どれもよく飲んでいるものだった。
「旦那様、こちらはいかがでしょうか?」
「うん? あ! まだそれを残してたのか!」
「はい。先代様が何かのときのために隠しておけと」
「クリステル!」
バッと見せられたのは、父がよくちびちびと飲んでいる、特別な日用の白ワインでした。
「そちら、凄く貴重なものですよね? 確か、三本しか残っていないから、ゆっくり飲まないととぼやいていた記憶があります」
「三本も……まさか持っているとは。さすがは伯爵だ」
父は、様々な貿易に手を出して一大財産を築いている人なので、妙にレアなワインや食べ物を隠し持っている。
「これ以上に珍しい物はもうないよな?」
「はい。誠に残念ですが」
「どうするべきか……………………」
レンブラント様は、問題が起きたときは早期解決を重要視する人なのだが、ときおり長めに悩むことがある。
それは優柔不断とかではなく、なにか一つでも不満や不信感が残らないようにしたいという思いがあるようだった。見栄とは違う、他人への気遣い。
私はわりと現状取れる一番早い対策をし、そのときに出来なかったものは、後から再度対処するタイプだ。
レンブラント様を見習いたいところではあるが、ときには私の切り捨て力も彼のためになるのではないだろうかと思う。
「レンブラント様が、美味しかったなと思っているもの、お勧めだと思うものでいいと思いますよ。飲んだことがあるかないかよりも、そちらのほうが喜ぶかと」
「そうなのか?」
「はい。そうなのです」
……まぁ、あの父なら貴重なワインは大喜びで受け取るだろうけど。
美味しいものも同じテンションで受け取る人なので、たぶん相手の気持ちが嬉しいだけだとは思っている。
だからこそ、ここで長時間悩む必要はない。




