98 【道化師】の回顧
夏芽「――つまり、その3人がヤンちゃんを攫おうとしてると……。そういうことでいいのね?」
穂塚「そう! だから、なんとしても阻止したい」
浴衣から普段着に着替えて、階段を登りながら私たちは情報のすり合わせを行う。
夏芽「――確かにそれはまずいわね。急がないと」
穂塚「3人の中で、一番ヤバそうだったのがユッケって言われてた黒人だよ。イエスマンだった」
夏芽「ああ、あいつね。……でも、ホントの危険人物はあのガイドらしき青年かもしれない」
穂塚「……? あの優男のこと? 確かにロリコンはヤバいけど戦闘能力自体はそこまで高くないでしょ」
少なくとも、見た目だけなら彼はもっとも弱そうだ。
夏芽「いや、多分あれは涼斗と同じ人種よ。仕組みはよく分からないけど、あいつは常人には考えられないほどの力を持ってる」
ワンの拳を止めた時のあの表情、彼はまだ全力を出してはいない。
穂塚「ホテルには警備員がいるはずだけど、そいつVS警備員全員だったらどうなる?」
夏芽「多分、全員やられるわね。足止めになるかも怪しいわ」
穂塚「なら、どうすればいい?」
夏芽「簡単な話。私が倒せばいい」
穂塚「……はぁ? いや無理でしょ」
夏芽「詳しく話してる暇はないよ。簡単に作戦を説明する。まず、誘拐を阻止することは不可能。時間的には、今誘拐が行われててもおかしくない。私達には圧倒的に時間が足りないの。もし、まだ時間があったとしても相手にホルダーがいる限り、私達で守り切るのは難しい」
穂塚「なら、今すぐ警察に連絡すればいい。さすがの『ホルダー?』でも、何百人の警官が相手だと勝つのは厳しいでしょ」
夏芽「勝つのは無理でも逃げ切るのは可能だよ。そいつはヤンちゃんに異常な執着を見せてる。だから、いざとなれば仲間を見捨てて自分だけでも逃げ切るよ」
ただ、警察を呼ぶというのは良い判断だ。さすがのホルダーでも撤退を余儀なくされるのだから。
穂塚「なら、どうする?」
夏芽「私たちが今、階段を駆け上ってるのが答えよ。攫われるなら、奪い返せばいい」
―――
涼斗「……俺の姉の強さの秘密? そりゃ、君、一言じゃ言い表せないだろ」
記者「そこをなんとか、お願いしますよ~。なんせ時間はたっぷりありますから」
涼斗「というか、ここはどこだ?」
記者「本編とは関係ない回顧専用の舞台ですよ。あなたで二人目です」
涼斗「……? よく分からないけど、まあいい。無知な君に知恵を授けてあげよう」
涼斗「夏芽の強さだが……曲がりなりにも家族だからな、子供の時から俺たちはよく遊んでいた。というより、勝負をしていた。俺の勝率は9割といったところだ」
記者「……なるほど。本編の活躍を聞けば、その数字にも納得ですね。というか、ホルダー相手に1割も勝率があるとは、そっちの方が驚きです」
涼斗「さすがに、勉学の方では年の功がある夏芽の方が有利だからね」
記者「確かにそうですね」
涼斗「でもその勝率、両者が初見かつ初めて行う場合の競技に限り、数字が変動する」
涼斗「初見での俺の勝率は――0だ」
記者「……ッ!」
涼斗「――将棋、オセロ、チェス、花札、トランプ、ニムト、etc.……。その全ての初勝負で、俺は全敗している」
記者「そ、それは、涼斗さんが知らないうちに彼女がこっそり練習していたんじゃ?」
涼斗「まさか。そもそも俺が持ちかけたものもあるし、発売してすぐのゲームもある。その全てで俺は負けた」
記者「し、しかしそれは年上に有利なボードゲームだけの話。ホルダーの涼斗さんなら、力で……」
涼斗「負けたぞ、俺は。空手、柔道、ボクシング、剣道、ただの喧嘩、1on1(バスケ)、テニス、etc.……。その全ての競技の初勝負は負けた」
さすがに、地力の差が出るかけっこやボール投げは俺が勝つが、もし称号がなければ、それらでも夏芽が圧倒していたことだろう。
涼斗「夏芽が強いその理由は天才的な頭脳にある。あの女は、頭の中で理解し想像することができれば、現実で忠実にそれを再現できる。しかも、それどころか相手の動きまで予測する始末だ。まあ、2,3回やれば俺も慣れてきて勝てるんだが、実戦ならとっくに俺は死んでいる」
記者「夏芽さんは理論派で涼斗さんは感覚派なんですね」
涼斗「ああ。けどな、そんな夏芽にも弱点がある。そこが、俺と夏芽の明確な違いであり、俺が勝率9割を維持していた理由だ」
記者「ぜひ! 教えてください!」
涼斗「他人の弱点を安く教えるわけないだろう? あと、そろそろ俺を戻せ。育児の最中なんでね」
記者「わ、分かりました! 本日は貴重なお時間ありがとうございます。ここでの記憶はリセットされますのでイクメン頑張ってください!」




