表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クラウンゲーム  作者: 好きな言葉は酔生夢死、家から3歩出ることで毎日の運動タスクを消化し、健康的課題の高血圧については24時間断食することで対策を完了させている、200歳まで生きることが超確定した、常識はずれのバケモン
賢者編
97/112

97 本音


 予想外の言葉に、俺は少し口ごもった。


穂塚「……えっと……」


 まずい、こう言った場合は『え、急に何の話? それよりも、ゲーセン行こうぜ』みたいに、即否定をしつつ他へと関心を向けさせるのが鉄則なのだ。


 なのに、先ほどの話といいのぼせた体といい、とてもまともな思考など出来るはずもない。


 この空気の中、否定することはできるだろうか?


穂塚「そ、そんな風に見えた!? まっさか~」


 あははと笑いながら、夏芽さんをチラ見するが彼女はいたって真剣だ。


 これはマズい。


夏芽「ごまかさないで。……別に怒ってるわけじゃない……ってわけじゃないけど、今はそんな話をしたいんじゃないの」


 どこか確信めいた態度に、俺は否定するのが得策ではないと悟る。


穂塚「……なんでそう思うの?」


夏芽「色々と理由はあるけど……きっかけは『なんとなく』、かな」


 随分と根拠が薄弱だ。これなら上手くごまかせるかもしれない。そう、淡い期待を持った俺を遠ざけるように、夏芽さんは話を続ける。


夏芽「他には、話してる最中に足先が出口の方向に向かってたり、話してる最中に随分と早口だったり、全然目が合わなかったり――多分、無意識だろうけど穂塚君の行動は私を敬遠してるように見えた」


 それを聞いた途端、ごまかすのは限りなく難しいと判断した。


 恋は盲目、という格言があるように人は恋に落ちると都合の悪い部分は全て見えなくなる。なのに、彼女は自分にとって都合が悪いはずの数々の事実を具体的に俺に説明してみせた。


 これが示す事実は、彼女は覚悟を持って俺に対話を求めてきているということだ。


 さすがの俺も、それをないがしろにするほど落ちてはいない。


穂塚「……そうですね。まあ、確かに俺は君のことがあまり好きじゃない。他人の事情を考えずにズカズカと踏み込んでくるところとか、遠回しに断っても馬鹿みたいに誘って来たり、ほぼ毎日連絡を寄越してきたり」


 夏芽さんはなにも言わなかった。俺は、彼女の顔が見れない。


夏芽「そ………っか。いや、うん……そうだよね。ごめんね……」


 どこか自分に言い聞かせるように、彼女はつぶやく。


穂塚「……逆に聞くんだけど、どうして夏芽さんは俺に構うんだ? 大学には俺よりも頭がよくて顔がいい金持ちなんて腐るほどいるでしょ?」


 自分で聞いておきながら、俺は自分の行動に戸惑いを覚えた。


 俺は、自分から質問を投げかけることはあまりない。


 業務上必要なことや、勉強で分からなかった箇所、もしくは相手が聞いてほしそうにしているときくらいしか質問はしない。


 いつもの俺ならば、『そんな謝らないでいいよ』的なことをクドクド言っていたことだろう。


夏芽「……なんだか珍しいわね。穂塚君の方から質問するなんて」


 夏芽さんも気付いたのか、少し驚いた顔をする。


夏芽「……何度も言ったことだけど、私には弟がいるの。さんざん卑下してたけど、あいつは天才よ。私にはない才能をたくさん持ってる。でも、特にすごいのはなんでも器用にこなせることじゃなくて、器用にこなそうとする努力なの」


穂塚「へぇ……。てっきり、努力なんてせずに一発でなんでも成功するタイプだと思ってたよ」


 一度しか会っていないが、彼は努力なんてものとは対極の位置にいるものだと思っていた。


夏芽「まあ、端から見たらそうね。でも、あいつはそうじゃない。穂塚君はスポーツって見る?」


穂塚「人と話せる程度には」


夏芽「なら分かると思うんだけど、歴史的な選手の中には他の種目から転向して才能を開花させた人が一定数いる。それは、もちろん彼らの努力や才能もあると思うけど、それ以上に他の競技をやっていたっていう事実が結果に出てると私は思うの。体の使い方っていうのはどれも似たようなものだからね。今までやっていた動きにほんの少しの工夫と知識を乗せれば、他の競技でも応用することができる。人によっては、それが適性ってことも……」


穂塚「……つまり彼は……」


夏芽「そう、生まれてからずっと、色んな知識や経験を蓄えてる。確かにあいつは傲岸不遜で自分主義でムカつくこともあるけど……努力をしてなかった時間は1秒でもなかった」


 たまに涼斗の部屋を覗いてみれば、参考書やスポーツ器具など様々な道具があった。『三角関数とか、三角比の応用みたいなもんじゃねぇか』とかなんとか言いながら、テニスの素振りをしていたし。


夏芽「それに気づいた時、少し尊敬したの。あいつは、ただ『出来る』んじゃなくて出来るように準備してるんだって」


穂塚「でも、『出来た』っていう結果を見れば、それは夏芽さんもじゃない?」


夏芽「まあ……結果だけ見ればね。でも、なんでも一発で出来る私には出来ることとできないことがはっきりしてる。その一つが言語の習得、かな」


 数学は公式の使い方を知ればどうにでもなる。社会も覚えるだけだ。でも、言語習得は違う。


 数多くの単語に文法、そしてその組み合わせ方。正直、覚えるだけでも面倒なのにそれに文法でも応用も重なってきたら、私には勉強など続けられない。


 母国語のように普段から使っているわけでもないのだ。絶対に覚えられない。


夏芽「時間と手間が絶対にかかる分野だと、私は絶対に無理。だから、あいつのことも尊敬してるし……穂塚君のこともすごいと思った」


 彼は母国語を含め7か国語を操る。噂によれば、自分で言語も作ったという話だ。とてもじゃないが、私には不可能。


 すぐに結果が出なければ、私は集中力が出ないのだ。



夏芽「これが、穂塚君のことが()()()理由。これじゃ、納得できないかな?」



 勢いに任せて、しれっと『好き』という言葉を混ぜてしまったが――まあ今更だ。


 穂塚君はあからさまに動揺した様子で、急にそっぽを向いてしまう。


穂塚「……いや、その。まずはありがとう。あんまり他人に褒められたことがなくて、ちょっとビビった。だから――」

夏芽「穂塚君はどう?」


 彼お得意の話題逸らしを感じた私は、有無を言わせず話を遮る。


夏芽「穂塚君は、私のことをどう思ってるの?」


穂塚「俺は……正直、そこまで夏芽さんのことが好きじゃなかった。さっき言った通り、あなたは少し自分勝手で配慮が足りなくて俺は苦手だった」


夏芽「じゃあ、()()?」


 過去形で喋り続ける穂塚君に、少しでも希望を見出そうと私は食い気味に問いかける。


穂塚「……よく分からない。さっきまでは苦手だったけど、今はそう感じない」


 今まで、他人の顔色を窺って生きてきた俺は、他人が自分を見てくれているということに慣れていない。しかも彼女の賛辞は、脳死の誉め言葉ではなく具体的な行動を挙げてくれている。


 いや、正直に言おう。垣間見えた彼女の本音を聞いて、俺は少しだけ気になり始めていた。


 しかし、それは言えない。


穂塚(今ここで好きなんて言ってしまったら、夏芽さんを巻き込んでしまう……)


穂塚「……夏芽さんの気持ちは嬉しいけど、今は少し考えさせてほしい」


夏芽「なにか危険なことをするつもり?」


 夏芽さんの予想外の言葉に、俺は思わず目を見開く。


夏芽「その顔は当たり、でいいのかな」


穂塚「なんでわかるんですか?」


夏芽「効率廚の穂塚君がのぼせるっていうのは少し違和感があってね。しかも、それを裏付けるようにさっき、3人の危険人物がいたし。――なにがあった?」


 一段声のトーンを下げて、彼女は俺に詰め寄るのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ