88 綾都からの斥候
「えっぐいなー。一体だれや、あんなむごいことする奴は」
地面の中から顔だけを出し、爆発の規模に戦々恐々としているのは、【綾都】お抱えの傭兵部隊、【ホーム】の【根元 俊介】だ。
『私たちが気にすることじゃないよー。それより、すぐボスに報告するね』
そのすぐ近く、木の上に登り、耳に手を当てた【森 薫】は綾都のバーで待機するボスに通信を行う。
俊介「毎回思うんやが、俺の脳内に突然しゃべりかけるのはどうにかならんのか?」
薫『無茶言わないでよ。わざわざ手で合図してから通信するの、すっごい面倒なんだよ?』
俊介は、地面から体を出し、その筋肉を見せつけながらやれやれと首を振る。綺麗な二重の瞳に、坊主頭の彼は筋肉を見せびらかすのが好きなのだ。
俊介「そうかい、そりゃ悪かったのー」
薫『そう思うなら、服を着てください』
俊介「そう言うなや。さっきまで俺、死にかけとったんやぞ」
あなたは【遊泳者】のホルダーになりました。
称号取得条件
道具を使わず10分以上潜水すること。
特殊能力
ありとあらゆる場所での遊泳を可能とします。
専用宝具
漆黒の布
【遊泳者】である彼は、先ほどのシャッフルの影響で地面に生き埋め状態になっていた。幸い、驚異的な肺活量で難を逃れたようだが、あのときはさすがに肝が冷えた。
薫は腰まで伸びた紫の髪を靡かせながら、スマホを凝視する。
薫『……なるほど。俊介さん、ボスからの指令です。あの爆心地に行って、ホルダーの確認と、宝具の回収をお願いします』
俊介「分かったわ。……それより、あんた【伝達者】なんやろ。わざわざスマホで連絡とらんと、あっちからの声を聴けばええんやないの?」
あなたは【伝達者】のホルダーになりました。
称号取得条件
声を失うこと。
特殊能力
マーキングした相手に声を届けることができます。
専用宝具
鈍色の鍵
薫『私の称号は一方的な通信なので、距離が離れている場合は電子機器が必須なんです。何度も言わせないでくださいよ』
俊介「あー、そういえばそんなこといっとたのー。俺は物覚えがわるいさかい、どうもな」
笑いながら、俊介は土の中へと姿を消した。
薫『言い忘れてましたが、最長5分で離脱です。それ以上は、追手が来る可能性があります』
土の中からオッケーポーズの指が出た。
―――
俊介「こりゃひどいのー」
俊介は爆心地の真ん中で呟く。
爆発は空で起こったはずなのに、その余波のせいで周囲の木々が軒並み倒されていた。この規模の爆発を至近距離で受ければ、ホルダーでも命はないだろう。
周りの安全を確認した俊介は地面から飛び出し、宝具を探す。
しばらく歩き回れば、刀の宝具を持った一人分の遺体が見つかった。
だが、損傷がひどすぎて、性別や年齢すら分からない。
なにかを大事そうに抱えていたのだろうか、腕がなにかを抱いていた形をしている。
手を合わせてから、宝具の刀を抜き取る。
死後、最初に触ったのは俺なので所有者も俺だ。
次によく分からないロープも回収する。ロープはかなり長くなっており、その先には計4名の死体があった。
俊介(ボスからの情報やと、こいつが【剣帝】でこっちが【浮遊者】それに【君主】と【勇者】か。意外と身なりでわかるもんやのー)
全員に手を合わせてから、俊介は【冥色の誓約書】と【丹のロープ】と【虹のルーレット】を回収する。
一通り見て回った俊介は地面に潜ろうと宝具を身に着け始める。だが、その時背後からホルダーの気配を感じた。
俊介「少し時間かけすぎたか」
涼斗「……だれだお前?」
追いついたのは、【道化師】だった。
涼斗「こちとら、【不死】をコピーして死に戻りして駆け付けたんでね。とっととそれを置いて帰りな」
俊介「それは難しいな。これは俺らのもんや」
俊介はすぐに逃走の準備を始める。だが、涼斗の顔をしっかりと確認したとき、その動きが止まった。
俊介(……? どっかで見たことあるような顔やな。誰や?)
涼斗「戦闘中に考え事かい?」
涼斗は一足飛びに俊介に飛び掛かる。それを紙一重で避けるが、その拍子に【冥色の誓約書】が空に舞った。
俊介「……やべっ」
風に乗ってあらぬ方向へ飛んでいく宝具を涼斗はキャッチした。
俊介「……まあ、そいつはくれてやるさかい。もう俺を追いかけてくんなよ」
俊介は地面に潜り込み、そのまま場を後にする。
ホルダーの気配はどんどんと下に下がり、ついには感知できなくなった。
涼斗「……あの効果は、【遊泳者】か。ってことはホームの連中。面倒なことになったねぇ」
昔のことを少し思い出しながら、涼斗は帰るのだった。




