81 共同戦線
涼斗が選んだ称号は【裏切者】。
涼斗(今までは俺が前線にいなきゃ戦線は保てなかった。だが、タクト君がいれば別のことができる)
久の相手は全てタクトに任せ、涼斗は死角に潜み虎視眈々とその背中を狙う。
久「……して、大丈夫なのかの? 称号の力無しで」
タクト「問題ないね。なぜなら俺は、そうやって戦って勝ってきたからな!」
タクトは、自分から久に特攻する。
武器は剣一本。
それだけを頼りにタクトは攻撃を仕掛けたのだ。
久「切って終わりじゃろ」
久は剣めがけて刀を当てる。
だが、それは当たることはなかった。
タクトが剣から手を離したからだ。
久「……マジ!?」
タクト「胴がガラ空きだぜ」
久の意識が剣に集中していたせいで、反応が遅れる。
タクトの正拳突きがタクトに直撃した。
久は少し吐血しながら後ろに吹っ飛ぶ。
タクト「そういえば自己紹介がまだだったな」
タクトは、この場にいるホルダー全員に聞こえるよう、大きく息を吸い込んで口を開く。
タクト「――俺は【菅原 拓斗】。この国で最強になる男だ!」
―――
政明(とか言ってるんだろうなあいつ)
王城まで全力で走りながら、政明は戦況を予想する。
j『せっかくの仲間の晴れ姿なのに、君は見ないのかい?』
政明(何言ってやがる。タクトが作ってくれたこの好機。逃すわけねぇだろが)
政明は王城にたどり着き、床に敷かれた絨毯を観察する。
政明(俺がホルダーを内密に隠すとしたら……人通りが少ない北東の食材保管室辺りか……)
小島は、腕を失っている。
もちろん止血しているが、それでも隠せない血痕が絨毯に付着していた。
政明(予測通り、北東に向かってるな)
血痕を頼りに、追跡を進める。
そして、北東の石畳廊下で俺は足を止めた。
政明「……ここか」
j『特に目立つものはないけど?』
政明(んな簡単にバレるとこに隠すわけないだろ)
頼りの血痕も、ここらで途切れていた。
つまり、ここで血痕をふき取った。
政明 (なにかあるはずだ……)
政明は、試しにあちこち壁を叩いてみる。
政明(……ここか!)
明らかに周りの壁とは音が違う、空洞がある音がした。
j『分かったからってどうするんだい? まさか、この仕掛けを解除できるとでも?』
政明「んな必要はねぇよ。――こうすりゃいい!」
俺は思い切り拳を壁にぶつけた。
それだけで、石から作られた壁はガラガラと音を立てて崩れ去る。
そして、地下へと続く階段がポッカリと出現した。
普段は、侵入者用になにかブザーでも鳴るのだろう。
だが、有事である今、それは何の意味もない。
政明「とっとと行くか」
少し足を進めれば、エレベーターと階段があった。
政明(時間を考えりゃエレベーターが望ましいが……)
暗証番号を入力しないと動かない設定のようだ。
政明(何メートルあるか分かんねぇ階段を降りろってことかよ……)
―――
誰かに名前が呼ばれたような気がした。
『……て。……きて…………起きて!』
半年の間、ずっと機械的な呼ばれ方しかしなかったのに、この呼びかけは愛情を感じた。
結奈『起きて!!』
そして、ついにボクの意識は覚醒した。
深玖「!? あれ? ボクは……」
直近のまともな記憶が思い出せず、思わず周囲を見回す。
由基人『起きたか! よかった……本当に……』
父の安堵した声を聴き、ようやく記憶が線になる。
深玖(お母さん……お父さん)
結奈『よかった……もう二度と深玖と話せないかと思ったよ』
深玖(えっと……ボクは今、捕まってて……。妊娠もしてて……)
深玖は今までのことを説明しようと、断片的に記憶を掘り起こす。
由基人『……大丈夫だ。大体のことは把握してる』
【鈍色の鍵】で声は封じられていたものの、視覚は共有されていた。
だからとりあえず、3人で脳内会議を開く。
結奈『とりあえず、今なら称号の力が使える。その間に早く脱出しよう!』
由基人『落ち着け。今、深玖の体には爆弾が埋め込めれてる。しかも、小島の野郎は任意爆破をさせることもできる』
深玖の体内の爆弾は、任意爆破以外にも、小島が死亡した場合や、部屋からの脱出を試みた場合も爆破されるように作られている。
それに……
深玖(それに今、ボクは身重だから……とても元気に走れるわけじゃない)
いきなり壁にぶつかり、3人は頭を悩ませる。
その時、牢獄の外から何かが落下する音が聞こえてきた。
深玖(……なんの音? まさか――)
小島が帰ってきたのだろうか?
あの冷徹な顔を、声を想像するだけで急に眩暈がする。心拍数も上がり、その場に立っていられなくなった。
だが、ホルダーの気配は一向にしなかった。
結奈『なにかゴミでも落ちた音だったのかも……』
由基人『……みたいだな。でも、そう時間は残されてない。早く対策を立てるぞ』
脳内の二人はすぐに話し合いを始めるが、ボクは牢の入り口を注視せずにはいられなかった。
さっきの音に、あまりにも違和感があったから。
そして、入り口のドアノブが傾いた。
深玖(……!?)
政明「――ったく、まさかこんなに深いとはな。おかげで痣ができたぞ」
ぶっきらぼうな口調に、理知的な瞳。顔は暗くてよく見えないが、どこか優しさがある声のトーンの持ち主は同年代くらいの少年だった。
深玖「……あ、あなたは……?」
ボクが声をかけると、少年はまっすぐにこちらを見て口を開いた。
政明「――マサアキ。俺は【神村 政明】だ。約束を守りにきたぞ、【巫女】」




