80 【鈍色の鍵】
小島(いったい何の音ですかね……)
深玖を捕えている地下牢に来た小島は思わず耳をふさぐ。
ここは、地下500メートルの深部だ。そうそう地上の音は聞こえないはずだが……。
小島「考えている暇はない」
パスコードを入力し、網膜認証、声帯認証を終え急いで深玖のもとへと向かう。
深玖は、どこか呆けた顔でベッドの端に座っていた。だいぶお腹が膨らんできているが、頬は痩せこけ、不健康そうな状態だった。
しっかりと空になった皿を見るに食事は摂っているようだが、それだけだ。
日の光を浴びず、一人でこんなところに幽閉されればこうもなるだろう。
小島「失礼しますよ」
小島は牢の鍵を開け、深玖の頭に刺さっている【鈍色の鍵】を抜いた。
深玖「……えっと、……………何の用……ですか………………?」
小島「あなたに構っている暇はないのでね」
小島は深玖の顎に一撃入れ、すぐに気絶させた後、地上へと踵を返すのだった。
―――
爆音が轟いた戦場では、しばらく誰も声を発せなかった。
いや、声を発しても誰も聞き取ることはできなかっただろう。
鼓膜は破れていないが、全員、一時的に耳が遠といている状況だった。
ただ一人を除いて。
秀二(えっと……皆大丈夫……だよね)
音響兵器により、脳みそをやられた秀二は本日何度目かの復活を遂げて、その場に立っていた。
秀二(確か……ちゃんとは見てなかったけど、あの時――)
静香元帥たちがベルを振ったと同時、久は刀を振ってベル本体に攻撃した。
だがそれは、ベルに多少の傷をつけただけで攻撃が中止されるほどではない。
秀二(殺した!)
そう思った刹那、久は口を開けた。
そして、大きく息を吸い込みバカでかい雄たけびを上げたのだ。
秀二(不可避の音響攻撃に、音響攻撃で返したんだ……)
そして、ちょうど二人の中間に転がっていた僕はそれをまともに受け、即死したと……。
うん、改めて思い返しても恐ろしい。
再度周りを見回してみる。
周囲のガラスは粉々に割れ、瓦礫もひびが入っていた。
静香さんたちは、耳栓をしていたのにも関わらず全員が膝をついている。
秀二「だ、大丈夫ですか!?」
静香「? ……ああ、問題ない。内臓をごちゃ混ぜにされたような気持ち悪さがあるがな」
静香は、上手く耳が聞こえないが読唇術で秀二に返事を返す。
静香「総員――といっても聞こえないか」
静香は壊れかけたベルを手のひらサイズに縮め、軽く振った。
それだけで、この場にいる全員に音を届けられる。
秀二(大きく3回……これは――)
敵に気をつけろの合図だ。
政明以外の全員が、戦闘態勢に入る。
j『君は軍の緊急信号なんて知らないもんねぇ』
政明 (たりめぇだろ)
釣られて政明も敵に視線を向ける。
久は、瓦礫に埋められていた。
高そうな指輪が嵌められた手だけが瓦礫から飛び出し、動かない。
タクト「……やったのか?」
だんだんと聴力が回復してきた辺りで、タクトが声を発する。
静香「いや、それは希望的観測でしょう。まだホルダーの気配があります」
静香の声を肯定するように、久が瓦礫を押しのけて起き上がる。
久「まったく、喉が痛いわい」
目立った外傷もなく、久はそこに立っていた。
サイ「バケモンが……」
この場にいる全員が心から同意する呟きだった。
涼斗「そうとも言えないだろう?」
タクト「うおッ、もう復活してたのか涼斗!」
全裸姿で背後に立つ涼斗は油断なく久を睨む。
涼斗「ついさっきさ。それにしても、こうしてゆっくり話すのも久しぶりだね」
コソ泥まがいの侵入を繰り返していた過去を懐かしながら涼斗は軽口をたたく。
タクト「そういやそうだな」
涼斗「あの時は、まさか君とこんな風に君と一緒に戦えるとは思っていなかったよ」
タクト「なんだ? 最終回みたいなこと言いやがって。らしくねぇじゃねぇか涼斗」
タクトは今までの戦闘を振り返ってそんな発言をしたのかと考えた。
涼斗「まさか、この俺に最後なんてないさ。俺は常に、『次』しか考えない。そして、さっきの発言は次に向けての激励さ」
涼斗は、後方からの援軍を確認してからタクトに笑みを送る。
タクト「……小島!」
二人の背後から、宝具を携えた小島が走ってきていた。
―――
政明は、王城での会話を思い出す。
政明「――なら、なんの宝具を持ってるかだ。俺は【鈍色の鍵】だと予想する」
タクト「ああ、あのあらゆる錠前を破れるやつか」
政明「それだけじゃない。一般には知られてないかもだが、あれの専用効果は称号の無効化だ」
タクト「そうなのか!?」
政明「なら、やることは分かんだろ?」
タクト「……?」
政明「【違反者】のお前が使えば、そのデバフ効果を消せるってことだ」
タクト「ッ!」
政明「そうすりゃお前は、また戦える。そうするには、俺たちが窮地に陥らなきゃいけない。だから、応援に駆け付け、機会があればピンチを演じる。小島に、鍵の使用を判断させるくらいのな」
タクト「それは嬉しいけど……そんな上手くいくか?」
政明「絶対無理だ」
タクト「無理なのかよ……」
政明「エンドは強敵だし、そんな演技しなくても俺たちは十分にピンチなんだよ。……だからこそ、この作戦は使える」
タクト「でも、それだけで勝てるのか? 負ける気はないけど、さすがに俺が戦線に復帰したって……」
政明「いや、小島が深玖のとこに行った時点で十分なんだよ。あいつが鍵を取りに行くことは、深玖のとこへ行くことだからな」
こんな一刻を争う状況じゃ、なにかしら痕跡を残しながら深玖のもとへ行くだろう。それを俺が追跡し、深玖を救出、エンドに引き渡す。
タクト「……確かにそれならイケるな!」
政明「ああ。だから、タクト。お前には俺が深玖を救助するまで時間稼ぎをしてくれ。任せたぞ」
政明が右拳を差し出す。
そこに力強く自分の拳を合わせたタクトは大きく口を開いた。
タクト「ああ、任せとけ!」
―――
久「その宝具を使わせるほど、わしは甘くはないぞ」
久は、斬撃を飛ばし小島を狙う。
だが、【解析者】によりいち早く作戦を察したサイがそれを防ぐ。
秀二「これ、防ぐって言わなくないですか!?」
もちろん、秀二を使った肉の壁で。
久は空を飛び、高速で小島に接近する。
久「三代目 改 燕切り」
運動エネルギーを無視した、でたらめな軌道で小島に肉薄する。
いくつかはサイ(秀二)や涼斗に防がれてしまうが、それでも小島にその一撃は届いた。
小島「……ぐぉッ!」
腹を切り裂かれ、少し内臓が零れそうになる。
小島(肉の一部を巨大化……これで止血する!)
だが、不屈の意志で一歩を踏み出し、小島はタクトのもとへたどり着く。
タクト「大丈夫か小島!」
小島「……相変わらず甘いですね。これをあなたに託します。……いいですか、私が死ねば、宝具の効果は切れます。くれぐれもお気をつけください」
小島はタクトの頭上に鍵を刺し、思い切り回した。
タクトは自分の体が急に軽くなるのを感じる。
さっきの【適応者】の時とも違う。
無理に体が重くなるわけじゃない。いきなり、無駄な力が手に入るわけでもない。
しっかりと体に馴染んだ、自分だけの身体。
タクト「久しぶりだぜ。こんなに自分を自分だと思えたのはよ」
涼斗「さて、では改めて。俺の人生、初めてのタッグバトルだ。足を引っ張るなよ?」
タクト「遅かったら、背中蹴とばしてやるよ」
昨日の投稿に不備がございましたため、本日19時30分(現在の30分後の時刻)より、第81話を連続して公開いたします。
投稿が遅れましたことを深くお詫び申し上げます。
度々お手数をおかけしてホントにすみません!




