75 負け戦
改正が遅くなってしまい申し訳ありません。無事、順序を変えられました。
なお、今話は一昨日に投稿されたものになりますので、未読話は73,74話になるのでお気をつけ下さい。また、19:30に76話を投稿しますがこちらは昨日投稿されたものです。ご注意ください。
今後はこのようなことが起こらないよう、より一層気を引き締めて執筆活動を続けさせていただきます。
【女帝】VS【君主】【勇者】の戦いは一方的なものだった。
攻撃的な宝具を持たない久と湊だが、だからといって弱いわけではない。
現に、湊は剣で、久は【冥色の誓約書】で防御を担当しながら確実に静香を追い詰めていた。
湊の剣を静香はベルで受け止める。
だが、あまりにもリーチと技量に差があり、完全に流れは湊の方にあった。
そして、宝具のベルを意に介することもなく静香に傷を作る。
静香「…………く」
正直、湊だけでも完勝しかねないほど圧倒的だ。
それでも久がこの場にいるのは、【冥色の誓約書】にサインをさせるため。
彼女を無力化させ、これにサインをさせれば大幅な戦力ダウンにつながる。
久「これは、本人が署名さえ出来ればいいのでのう。最悪、腕の一本は覚悟してもらうぞ」
静香「冗談じゃないな。私の腕は軍を導くためにある。そんな紙切れの為に奪われるほど安くはない」
静香は、ベルの大きさを調節する。
自分の身長ほどまで大きくしたベルを持ち、それを大きく振る。
そのとたん、周囲に爆音が轟いた。
音が振動となり、周囲に拡散されていく。
ざっと130デシベル。
常人なら、鼓膜が破れて耳から血を吹き出すほどの音だが――。
久「少し、頭がグラつくのう」
湊「最近、耳が遠くなっているのが幸いしましたかね」
二人は、少し足をふらつかせながらもほとんど無傷だった。
静香(音響兵器でもダメか……)
やろうと思えば、もっと大きな音を出せるが、まずそれを許してくれるほど彼らは甘くないだろう。
だが問題ない。
本当の目的はこれではないのだから。
静香「今だ!」
私の合図と同時に、サイ率いる軍の別動隊が強襲する。
ホルダーであるサイは少し遠くで待機するが、一般兵である兵士は気づかれることなく二人に近づける。
私のベルに注意を向けていた二人は、少し反応が遅れた。
兵士の振った剣が湊の背中に傷をつける。
久の方にも攻撃が行くが、湊が腕を差し出しそれを受け止める。
静香「この距離なら、私の能力の範囲内だ。今の彼らは、常人よりもはるかに強靭な攻撃力を得ている」
久はすぐに現状を把握した。
そして、彼はポケットから紙飛行機を取り出す。
だが、静香とサイはそれが普通の紙ではないことが分かった。
宝具だ。
【冥色の誓約書】を折り紙として使っている。
久「さて、ぬしの部下たちは何人生き残るかのう?」
久は大きく腕を振り紙飛行機を飛ばした。
宝具は絶対に壊れない。つまり、紙の宝具で作った紙飛行機は絶対に壊れない。
常人なら紙の端に触るだけで切れてしまうだろう。
風を切って、紙飛行機の先端が部下の一人に当たる。その瞬間、紙飛行機が防弾ベストを貫きそのまま胸に大きな穴を空けた。
静香「まさか……紙飛行機で……」
久「バフをかけた兵士に効くかどうかは賭けじゃったが……案外強いのは力だけで防御の方はまあまあじゃの」
驚愕する静香とは対照的に、久は冷静に現状を分析する。。
未だ飛び続ける紙飛行機は、そのままもう一人に致命傷を与えた後、その機体を地面に着地させた。
【冥色の誓約書】は同時に10枚まで契約することができる。
もし、11回目の契約をしたいなら今までの契約書の内一つを破棄しなければならない。
現在、契約している数は6。
そして、【女帝】用に1枚使うため、余りは3枚。
久は手早く紙を折り、さらなる追撃をかける。
屋上で戦っていることもあり、突風により紙飛行機はでたらめな軌道を描く。
二投目でさらに3人が死んだ。
久「まだまだ行くぞ」
静香「やめろ!!」
静香は久に向けてベルを振ろうとするが、それは湊に止められる。
湊「あなたの相手は、私ですよ」
静香「クッソ……撤退しろF班!」
だが、静香の命令もむなしく3機めの紙飛行機は理不尽に命を奪っていく。
そして、遠くで待機していたサイが近づき紙飛行機を掴むまで7人が死んだ。
サイ「……んな紙切れで、命が」
いつもの、男勝りな迫力をなくし少し呆然としながら紙飛行機を握りつぶす。
久「ようやく炙り出せたのう」
だが、そんな隙を見逃すはずもなく、久はサイに肉薄する。
まともな武器は持っていない久だが、油断している【解析者】にダメージを与えるには拳で十分だ。
大きく振りかぶった右拳がサイの腹にクリーンヒットした。
サイ「ゲ………ポッ!」
変な声を出しながら、サイは後ろに吹き飛ばされる。
久「おや、意外とあっけないのう」
久は、地面に落ちている紙飛行機を拾い上げながらサイに近づく。
久「お主の宝具を鑑定する力は魅力的じゃ。ことが終わったら、貴殿とも契約をさせてもらおうかの」
サイ「悪ぃけど、先約があってな。お断りだよ」
【カーニバル】の顔を思い浮かべながらサイは久の前に立つ。
サイ(アタシじゃこいつに勝てない……。せめて、F班の奴らが逃げ終えるまで時間を稼ぐ)
完全なる負け試合を前に、アタシは足がすくんだ。
今まで、こんな絶望的な戦いはなかった。
【適応者】の時だって、最悪の場合の保険である【虹のルーレット】があった。
だが、今は何もない。
サイ(それがここまで怖いとはね……)
だが、後悔はない。
久の右拳を避ける。
アタシも負けじと反撃するが、それは簡単に受け止められる。
久「随分と軽いの。しっかりと鍛えてから出直してきたまえ」
久はサイの手首を掴み、そのまま地面に叩きつける。
屋上から一階まで大きな穴ができた。
静香「サイ!」
静香は思わず視線を逸らしてしまう。その一瞬を湊は見逃すはずがなく、剣の柄で静香の顎を強打した。静香の脳が揺れ、地面に膝をつける。
湊「申し訳ありませんが、しばらくそこで寝ていてください」
政明「悪いな、それはやれない」
後ろからの突然の声に、湊は反射的に剣を振るう。
だが、そこには誰もいない。
政明「常人だと思って、手加減しただろ。その心意気は嫌いじゃないがな」
急いで静香の方を見れば、高校生くらいの少年が立っていた。
湊「なんですか君は?」
政明は、久と湊が自分に注目しているのを確認してから口を開く。
政明「よく聞け、俺は【裏切者】、神村 政明。お前らも知らない、隠密系の称号を持つ人間だ」




