72 レリウスの二枚看板
信矢が戦場に投げられた直後、静香は油断なく3人を観察していた。
静香「さて、久しぶりだな湊殿。貴殿の奥方に、わが軍は大変世話になった」
特別指南役の極のことを想起しながら静香は声をかける。
湊「ええ、そうですね。極は国外にて待機させているので、あとでそう伝えておきます」
静香「気にするな。牢に入れたら面会に招待しよう」
しばらく睨み合いが続くが、先に提案を持ちかけたのは久だった。
久「わしらの目的は、レリウス王国城地下に囚われている巫女じゃ。彼女さえ奪還できれば、問題ない」
静香「言ってる意味が分からないな。レリウス王国は【巫女】の身柄を保護した記録も、するつもりもない」
静香(……いや、まさか………………)
一瞬、静香の脳内に小島の不可解な行動が思い起こされるが、さすがに違うかと首を振る。
久「話にならんのう。悪いがここは無理にでも通させてもらうぞ」
静香「やってみるといい」
静香は、懐から【桜色のベル】を取り出す。
対してエンド陣営は、理香が二人をビルの屋上に降ろしそのまま別方向に飛び去る。
静香「私相手に二人がかりとは……随分と高く買われたものだな」
久「面倒な駆け引きはやめたまえ。どうせ近くに別のホルダーがいるのだろう? 【解析者】辺りが妥当か」
湊「それにあなた、我々と本気で戦うつもりはないのでしょう? 現に今、戦うことよりも逃げることを想定している」
静香(……私が直接指揮しなければ、【女帝】の能力は発揮されないからな)
あなたは【女帝】のホルダーになりました。
称号取得条件
女性軍人であること。
特殊能力
自軍の兵士にバフを付与することができる。なお、バフの種類や効果は忠誠心により変動する。
専用宝具
桜色のベル
女帝の能力は自軍にバフをかけること。
だから、エンドを引き寄せたらすぐに撤退するつもりだった。
しかし、【君主】と【勇者】はそう簡単に私を行かせてはくれないだろう。
それどころか、殺される可能性すらある。
どうやら私の危険性を十分に分かっているらしい。
静香「……好都合だな。貴様ら二人をここに足止めしておけばそれだけこちらが有利になる」
久「勘違いするでない。お主を殺すのに時間はかからん」
過剰戦力ともいえる二人のホルダーが、静香に襲い掛かるのだった。
―――
理香(上からだと、随分とわかりやすいですね)
【浮遊者】の能力を利用し、戦場を俯瞰的に観察する理香は、何人かのスナイパーを見つける。
それらの狙いは、間違いなく信矢だろう。
理香(対戦車用のライフルですか……危険ですね)
高速で宙を飛び、全員の命を刈る。
理香「では、そろそろ援護に向かいましょうか」
【剣聖】の方に飛ぼうと、空中で体の向きを変えるが、その時ホルダーの気配が近づいてきた。
空中にいる自分には攻撃が届かないだろうと高をくくりながら、理香はゆっくりとその方向を見る。
次の瞬間、理香は巨大な手に収まっていた。
理香(こ……れは。まさか――)
小島「捕まえました」
その巨大な手は小島によるものだった。
あなたは【巨人】のホルダーになりました。
称号取得条件
2メートル以上の身長もつこと。
特殊能力
自分の体を巨大化させることができます。
専用宝具
鈍色の鍵
肝心の小島は、地面に立ち右腕だけを部分的に巨大化させ空中にいる理香を捕獲していた。
だが、小島は自分の手に収まる【浮遊者】に違和感を感じていた。
小島(なにか……少し変な手触りが)
そう思ったのも束の間、小島の手から理香が飛び出した。
見れば、全身を宝具のロープで包んでいた。
小島「なるほど……私に捕まる直前、全身を縄で包むことで摩擦係数を減らし、滑るように脱出したと」
無限に伸ばせる【丹のロープ】ならではの技だ。
理香「あなたは……【巨人】ですね」
小島「いかにも。して、レリウス王国に攻め込む逆賊たちよ、死ぬ準備はできているのですかな?」
理香「あなたが巫女の誘拐に関係してるのは知っています」
理香は、巫女から送られてきた写真を思い出しながら口を開く。
小島「……そうですか」
理香「こう見えても私、仲間に危害を加えられると憤りを感じます」
数年前、【適応者】が死んだとき、年甲斐もなく一晩泣き続けた。
もう二度と、あんな思いはごめんだ。
改めてゴーグルをしっかりと装着すると、理香は空中で加速を始める。
踊るように、3次元的に動きながら小島を翻弄する。
小島(上手く引き付けられましたね)
小島には、現状が少しだけ分かっていた。
恐らく、何らかの理由で王城にて捕らえていた巫女の情報が漏れたのだろう。だからエンドの者達が奪還しにきた。
小島(ですが、巫女を返すつもりはないのでね)
むしろ、今ここで国王様の敵になり得るエンドを潰しておけるのは幸運です。
小島「少し、本気を出しますか」
小島は体を巨人の姿へと変え、飛び回る理香に応戦するのだった。




