70 【桜色のベル】
執務室から飛び出した私は、懐から宝具を取り出す。
【桜色の鈴】
効果 確実に音色を届けることができます。
専用効果 大きさを自在に調節できます。
綺麗な桜色のベルを取り出し、軽く一振りする。
その瞬間、レリウス軍の将校以上の階級の者全員の脳内に、ベルの音が響いた。
小さく一回の音。これは、緊急事態の合図だ。
非番の者も、休憩中の者も全員、軍服に袖を通し1分もかからずにその場から王城へと向かっていく。
そしてそのタイミングで2回目のベルの音。
今度は大きく三回。市民への緊急避難の合図だ。
管制室に常駐している軍人がすぐにアラートを発し、国全体に警報が発せられる。
そのタイミングでの、ベルの音。
今度は3・8・5。これは緊急避難対象である国民の地域を表している。
『緊急、緊急。ただいま、レリウス王国王都にて緊急事態が発生しました。これから読み上げる地域にお住いの方は非難を開始してください。対象地域は、○○地区、××地区、$$地区――。
繰り返します。ただいま――』
すぐさま国全体に緊急放送が流れる・
レリウス王国は戦争国家だ。
ここ最近はそこまでだったが、私が元帥になったばかりの頃は戦争は日常だった。
なので、国民の避難意識は高い。
特に慌てる様子もなく、全員が地下の通路に逃れ国境近くの避難先へ移動を開始する。
出来ることなら、民家には被害を出さずに戦いを終えたいところだが……エンド相手では厳しいだろう。
ならばせめて、近くに民家のない場所――王都の中心にある広大な軍事演習場に誘い込めれば、最低限の損失に抑えられる。
そのためには、ホルダーである私がエンドの前に姿を現し、上手く誘導するしかない。
死は怖くない。
そんなものは、軍人になるときに捨ててきた。
怖いのは――、
静香(いつまでもあの王子のことは忘れられないのも困ったものだな)
そんなタイミングで、内線電話がかかってきた。サイだ。
静香「どうした?」
サイ『新情報だ。エンドは4人。宝具を複数所持。なおホルダーの一人は【浮遊者】の可能性がある。あと9分ほどで到着の見込み』
静香「そうか了解だ」
浮遊者がいるのならば、制空権は必ず握らなければならない。
戦闘機を出すことになるが……はたしてそれだけで抑え込めるだろうか。加えて、宝具も所持しているとなると、恐らく少なくない死者が出る。
その時、部屋の扉が開いた。
私がいる会議室に一番に来たのは小島だった。
2メートルを超える巨漢が、鋭い視線で私を見る。
小島「何事ですかな?」
静香「エンドの敵襲だ。ホルダーは4人。うち一人は【浮遊者】だ」
私は小島の目を見据える。
小島「……なるほど。つまり私に、任せたいと」
静香「ああ、お前が一番適任だ。任せよう」
小島「拝命します。しかしよろしいのですか? 最悪の場合、クラウンゲームの存在が知られる可能性がございますが」
静香「そんなものより、国民の財産を守るのが軍人の責務だ」
そもそも、エンドが攻め込んでくる時点で、国民に疑惑を持たれることは確定している。
今更なのだ。
小島「おっと……、続々と他の者が集まってきましたね。では私は席に着くことにします」
部屋の外に数人の足音をキャッチした小島は自席へと向かう。
そして、全員が集まった。
静香「ここにいるものは、クラウンゲームのことを把握している。なので手短に終わらせよう。
現在、4人のホルダーがここへ向かってきている。目的は不明。
宝具を複数所持している。
我々は、国民へ被害が出ないよう軍事演習場で足止めしつつ、奴らに撤退を促す方針で行く」
エンドとホルダーの危険性を考えれば、撤退させるのがベストだろう。
古山「質問、よろしいでしょうか?」
静香「許可する」
古山「戦わないという選択肢はないのでしょうか? 話し合えば……」
静香「奴らは既に、国に攻撃を開始している。罪のない国民が既に何人も死んでいる。それに、ここへ向かってくる理由も不明だ。国家の威信にかけても、対話という選択は取れない」
被害を受けたのは、サイの事務所の近くだ。
被害を受けたのは、概算で300人超。
とても話し合いができる現状ではない。
静香は他に質問がないことを確認した後、具体的な策を数分で説明し、会議を解散させる。
そして、下に待機させた兵たちを連れて、将校たちは演習場へと姿を消す。
静香「……む。そういえば小島殿。【不死】、【立田 秀二】はどうした?」
静香は、最後まで会議室に残った小島に質問を投げかける。
小島「……ああ、彼はあんな性格ですからね。今頃部屋に引きこもっているのでしょう」
静香「まったく……未知の宝具とホルダーが相手だ。彼は絶対に引き連れていけ」
どんな状況でも死に覚えをしてくれる彼は、このような状況でこそ真価を発揮する。
指示を飛ばした後、私は時計を見る。もうすぐ、サイの連絡から9分経とうとしていた。
静香「さて、私もそろそろ出陣するか」
エンドを誘導するため、私は最前線へと身を差し出すのだった。




