69 【天水 涼斗】という男
涼斗『まず、そっちに手練れのホルダーが3人向かった。うち一人の女は空を飛んでいた。目算だが、あと10分ほどで王城につくだろう。
確認できた宝具は――ッ!?』
そこまで言った辺りで、涼斗との通話が途切れた。
政明「おい、涼斗! 応答しろ!」
サイ『とっとと返事しな!』
カーニバルの二人がスマホに声をかけるが、なんの反応もない。
由美「えっと……どういうこと? あの人、負けちゃったの?」
由美は動揺しながらも、政明に声をかける。
政明「……いや、そう簡単にやられる奴じゃないが……」
だが、涼斗は途中で通話を遮断するような奴じゃない。
つまり、なにかあっちでトラブルが起こったのだ。
政明「……最悪を考えろ。今、もっともマズいのはエンドが国に攻め込むこと。全員が万全の状態でいることを前提に動け」
サイ『……そうだな。敵は涼斗と戦ってるホルダーを合わせて4人。加えて、宝具も複数所持してる』
政明「ホルダーの内一人は空を飛んでる。……【浮遊者】か。なら、航空部隊も編制すべきだ」
サイ『すぐ伝える』
サイは内線電話で静香へと連絡を取る。
タクト「でも、どうするんだ? 具体的な対策なんて……」
政明「いくつか案はあるだろうが……それは【女帝】の仕事だ」
実戦経験のある静香がやった方がはるかに合理的だろう。
それよりも、すべきことがある。
政明「とりあえず、王城に戻るぞ」
俺が王城に向けて、足を踏み出す。だが、二人の倒れる音が聞こえた。
慌てて後ろを向けば、由美は貧血で、タクトはダメージのせいで動けなくなっていた。
かくいう俺も、いつも通りに動けない。二人を抱えて戻るのは不可能だ。
政明「クッソ……」
タクト「悪りぃ、政明。実は由美さんに治し切ってもらって無くてな」
さすがに俺に血を使いすぎたのだろう。タクトの足は、まだグロイことになっていた。
政明「気にすんな。それより、安静にしてろ」
俺は、勇が使っていたカーボンチューブを使い二人を自分の前後に結び付ける。
由美「……ああ、政明の胸がこんなに近くに……。好き」
政明「冗談言ってる暇あんなら歩け」
さすがのホルダーでも、二人を運ぶのは精神的にも肉体的にもキツイ。【純白の杯】は傷は治せても体力までは回復してくれないらしい。
俺は、二人をおぶりながら、ゆっくりと歩みを進める。
政明「気晴らしに喋るぞ。さっきの涼斗の通話だがな、多分あいつは負けた」
由美・タクト「「!?」」
政明「あいつは絶対に約束は守るからな。恐らく、子供を庇って負けた」
由美「いやでも……あの人子供が巻き込まれても気にしないっぽい人じゃないの?」
政明「正解だ。けどな、約束を守る男でもある。多分あいつ、バトルフェスティバルの前に、子供が弱点だと言ったはずだ」
タクト「……なんでだ?」
政明「そう言っとけば、周囲への被害が抑えられるからさ。
あいつは強いからな。敵はいずれ、人質を取らなきゃ勝てないことを悟る。その時、周りの建物をぶっ壊しまくって子供がいなかったら詰み。
だから、最低限の破壊に留めて、積極的に子供を探させたはずだ。結果的に、子供の生存率を高めることになる」
事務所の近くには高齢者が多いが、帰省する孫が一人はいるだろう。そいつを人質にされて負けた。
十分にある結末だ。
由美「そっか……あの人、そんなにすごい人だったんだ」
政明「ああ。……まあイカレフェス野郎だが」
だが、自分に確固たる信念を持つ、強い人間だ。
タクト「そういえば、なんでエンドが攻めてきたって予測したんだ?」
勇の口内の装置を思い出しながら、タクトは疑問を投げかける。
政明「簡単だ。あいつの目的は、俺と涼斗に復讐すること。だから俺を呼び出して、俺を餌に涼斗もやるつもりだった。
でも、計画は狂い、敗北。
だから第二の選択肢、【エンド】を利用することを選んだ」
タクト「そこがよく分かんねえんだけど……あんな装置一つでなにができるんだ?」
政明「テキストメッセージを送るくらいできる。最近、エンド所属の巫女が行方不明になった。
もし、その巫女からメッセージが送られてきて、さらに場所まで添付されてんなら、俺ならすぐに助けに行く。
加えてエンドが向かってるのは、当初の巫女拉致予想現場のレリウス王国。
俺が巫女を見捨てられないことを理解してるなら、間違いなく俺はエンドとエンカウントすると予想できる」
それでも涼斗は釣れないだろうが、今回みたいに偶然エンドとエンカウントする可能性もあった。
由美「で、でも! 深玖を助けるって目的は一緒でしょ。なら、協力するっていえば……」
恐らく、無理だ。
由美には言えないが、俺は【適応者】と【変態】という二人のホルダーの死に関係している。
ホルダーであることがバレていなくても、なんらかの関係者としてアタリはつけているはずだ。
政明(最悪、見つかった瞬間に殺されるかもしれねぇ)
政明「協力はできねぇ。それに、国に攻め込むってことは、サイやタクトに攻撃するってことだ。それは見過ごせない」
だから、あくまで俺はレリウス王国陣営で戦う。
だが、それは表面上の話だ。
政明(巫女奪還が目的なら、巫女を探し出して差し出せばエンドは撤退する。……なら、俺がすべきなのは――)
勝利条件は王城のどこかにいる巫女を探し出し、救助&返還すること。
政明「……急ぐか」
もうすでに戦いが始まっている王城を目視で確認した俺は、拙い足取りで歩みを続けるのだった。




