67 前哨戦
とりあえず、俺の怪我も治してもらいながら、俺は静香に電話をかける。
静香『もしもし由美か! 勝手に行動をするなとあれほど――』
タクト「いや俺だ静香。悪いけど、今はそれより大事な話がある」
静香『タクト王子!? 申し訳ありません、失礼な態度を。どこかお怪我はしていないですか?』
別にそんなことで目くじら立てるような関係ではないのだが……相変わらずとても真面目だ。
タクト「ああ、由美さんのおかげで特に大きなけが人はいない。それよりも緊急事態だ。多分、今そっちになにかヤバいのが向かってる」
静香『それは、ミサイルや軍隊などの類のことでしょうか?』
タクト「そこら辺は分かんねぇ」
政明「……ホルダーだ!」
後ろから、政明の声が飛んできた。由美の肩を(嫌そうに)借りながら政明は電話を替われと手を差し出す。
政明「【女帝】だな。手短に伝える。今、そっちに向かってんのは恐らく【エンド】の構成員だ。勇が死に際にエンドの奴らに何らかのメッセ―ジを送った可能性がある」
静香『……ほう。そう言える根拠は?』
政明「んな説明はあとで死ぬほどやってやるから、とにかく軍を動かせ。このままじゃ人死にが出るぞ」
静香の本気の激怒を見たことがある由美は、少しビクつきながら政明を見る。
タクト「俺からも頼む! 初めての相手かもだけど、こいつは信用できる奴だ」
通話の向こうでは、恐らくサイも交渉してくれているのだろう。なにか話し声が聞こえた。
静香『…………いいだろう。すぐに、住民の避難と迎撃態勢をとる』
政明「ああ、是非そうしてくれ」
静香『敬語ができない君、名前は?』
政明「【神村 政明】だ」
静香『……そうか、君が由美の言っていた少年か。覚えておこう』
静香はそれだけを言うと、すぐに移動を開始する。電話の向こうの部屋にはサイだけが残った。
サイ『おい政明、お前もうちょい敬語を覚えた方がいいぞ』
政明「悪ぃが、サイ、お前とのお話をしてる暇もない。そっちで涼斗に電話をかけてくれ」
サイ『なんでアタシが……』
文句を言いつつも、サイは電話をかける。
涼斗「まったく、俺という存在に電話を掛けるとは……神に話をする時は供物が必要だということを知らないのかい?」
レリウス王国の端っこに構える鑑定事務所の屋上。綺麗な空が見えるここで、紅茶を飲む涼斗に電話がかかってきた。
マカロンをほおばりながら通話をする涼斗は随分と尊大な態度で口を開く。
サイ『あんたはマジで何年経っても変わらねぇな。……まあいいさ、緊急事態だ。とりあえず政明に代わる』
政明『おい涼斗、今からそっちに――』
涼斗「……ほう。待ちたまえ政明君。それ以上は言わなくていい」
他人の話はあまり遮らない涼斗が珍しく話を中断する。
政明『どうした? 今は緊急なんだが』
涼斗「すまないね。どうやらこっちも緊急みたいだ」
涼斗は電話を片手に空を見上げる。
そこには、空に浮かぶ4人のホルダーがいた。
涼斗「――一応、聞いておこうか。何者だい?」
久「我々は【エンド】。現在、仲間救出に向かっている最中だ。して君は、いったい何なのかな?」
涼斗「見てわかるだろう。人類最高傑作、神に近しき人間さ」
久「……そうかそうか、面白いね君は」
久は高らかに笑いながらも、油断なく涼斗を見据える。
久「実のところ、君の正体にさほど興味はない。問題なのは君が、敵かそれ以外か、だ」
涼斗「そうかい。一応聞いておくけど、君たちは誰を助けて何をするつもりかな?」
返答によっては、見逃してやらんこともないが……さて。
久「我々は【巫女】を助けるために、今からレリウス王国に戦争を仕掛ける。もちろん、王城にいる奴らは皆殺しだ」
刹那、俺の脳内にタクトとサイの顔が思い起こされる。
スマホをポケットに入れ、体を伸ばす。
涼斗「なら、交渉は決裂だな。そこには俺の仲間がいる。神の眷属に手を出したらどうなるか教えてやろう」
久「面白い冗談だ」
今度はニコリとも笑わず、久は戦闘態勢に移行するのだった。




