66 シャッフル終了
タクトは足を地面に勢いよくめり込ませ、そのまま勇にむけて蹴り上げる。
地面に落ちている石や砂利を巻き込みながら、タクトは勇に向けて砂の波をけしかけた。
今までは、勇の場所が分からないため使えなかったが、位置を捕捉している現状ではこの策は有効だ。
津波のように地面の砂が勇へと迫り、一時的に勇とタクトの間に壁ができる。
勇はすぐに行動を開始した。
勇(タクトが蹴り上げた石とか、当たるだけで致命的だ)
とにかく距離を取ろうと後方に下がる。
だが、それよりも早くタクトは勇の後方に移動していた。
気配に気づいた時にはもう遅い。
タクト「捕まえたぞ。これに飲み込まれてろ」
後ろから勇のケツを蹴り上げ、津波の中心部に押し出す。
勇「……クッソが」
高さ10メートルはあろう巨大な砂の津波は勇を勢いよく蹂躙する。
十数個の石が全身を隈なく強打し、大量の砂が口や鼻へと流れ込んだ。
タクト「……残り二分。どうだ?」
15メートルほどに盛り上がった砂の山をタクトは観察する。
次の瞬間、砂の山が思い切り四散した。
勇が中から飛び出し、そのままタクトへと肉薄する。
右腕はもう使い物にならないのか、左腕だけで勇は攻撃を行った。
対してタクトも片足が使用困難であり、機動力を大きく落としながらも懸命に応戦する。
技も策もない、男二人によるただの殴り合い。
互いに何か決定打があるわけもなく、時間だけが無常に過ぎていく。
そして、タクトと政明を苦しめていた漆黒のカーテンが引いた。
勇「……クソ……が。時間切れかよ」
シャッフルの時間が過ぎ去り、タクトは【違反者】に、勇は――ただのヒトになった。
【決闘者】の能力が解け、勇の体はだんだんと小さくなっていき、筋肉は萎んでいく。
勇はその場に倒れた。
タクト「俺の……勝ちだ!」
度重なるダメージと【違反者】になった影響ですぐに膝をつくタクトだが、それでも勝利の雄たけびだけはしっかりと響いた。
勇は――泣いた。
好きな女の敵討ちすらこなせない自分の無力さに震えて、号泣した。
タクト「おい、勇。お前は国に連れてく。一応王族の俺に手を出したんだ。それに【巫女】誘拐の嫌疑もある。かなり重い罪になるから覚悟――なに笑ってんだよ」
何かを諦めたような、あるいは達観したような、そんな笑みを浮かべながら勇は口を開く。
勇「ああ……確かに。この戦いは、俺の負けだ……。でもな、どこかで俺はこうなることも予感してたんだよ」
タクト「そうかい。そういう話は国の方で聞くから、少し黙ってろ。今は政明の方を――」
勇「だから俺は、予め種を仕込んでおいたんだ」
タクト「……?」
勇「本当の戦いは――ここからさ」
勇は、奥歯の方を強く嚙み締めた。
タクト「おい今、何した。おい!」
勇「じゃあな、タクト王子。せいぜい頑張れよ」
歯に仕込んだ自決剤によって、勇は自殺した。
タクトは急いで口内を確認する。そこには、自決剤ともう一つ、なにか機械のような装置がついていた。
形状から察するに、遠隔でスマホやパソコンになにか動作をさせるものだろう。
例えば、特定のグループチャットにテキストメッセージを送るような……。
タクト「いや、今はそんなことより政明を……」
ここから王城までどのくらいかかるだろうか。いや、それ以前に今の俺では政明を運ぶことすら怪しい。
政明は重症だ。それこそ、一刻の猶予も許されないほどに。
手持ちのスマホは戦闘で使い物にならなくっている。
タクト「馬鹿か俺は! 泣き言を言ってる暇あんなら少しでも政明を病院の近くに運べ!」
片足を引きずりながら、タクトは政明のもとへ行く。
だがそこに、一人のホルダーの気配がした。
王城の方からだ。
由美「ま、政明ーーーー!!!」
長い髪に、ぱっちりとした瞳を持つ、ヤンデレ【聖女】、氷藤 由美が駆け付けていた。
由美「政明……ひどいけがしてる。待ってて、今すぐ治してあげるから」
由美は、すぐに政明に駆け寄ると、懐から宝具【純白の杯】を取り出す。
由美はなんの躊躇いもなくナイフで自分の腕に傷をつけ、その血を杯の中へと注いでいく。
タクト「やあ、由美さん。助かったぜ。どうしてここがわかったんだ?」
なんとか政明の方へと移動したタクトは息も絶え絶えになりながら由美に話かける。
由美「一応あの地図は私も見てましたから。シャッフルの効果が切れた瞬間、すぐに追いかけたんです」
杯に注がれた血の色が白になったのを確認すると、由美はゆっくりと政明の全身にかけていく。
千切れかけた両腕も、呼吸不全になっていた肺もみるみるうちに完治していく。
そして、政明の静かな息遣いを聞いてようやく、俺と由美の緊張の糸が切れた。
由美「……よかった。本当に……」
政明を抱きしめながら、由美は涙を流す。
タクト(ヤバいヤンデレって聞いてたけど、全然そんなことないな。まったく、政明には良いヒロインがい――)
邪魔しちゃ悪いと思い少し視線を離そうとするが、その時由美が地面から何か白いものを拾ったのを俺は見逃さなかった。
歯だ。
恐らく、俺を庇った時に飛んでしまったのだろう。
形状的に前歯だ。
由美「初めての乳歯以外の歯だね」
恍惚とした笑みを浮かべながら、由美は巾着袋を取り出し歯を入れる。その時、少し中身が見えた。
束ねた髪や歯、それからあれは――もしかしてへその緒だろうか。少し干からびたものが見えた。
タクト「………………………」
俺は何も見えなかったので、改めて由美に声をかける。
タクト「と、とりあえず由美さん。携帯貸してくれない?」




