64 再配置された称号
執務室に籠って数十分
タクトはあらかたの計算を終わらせ、一息ついていた。
タクト「……ふぅ、こんなもんか。さて、紅茶でも飲み――」
いつも通りの力加減で、タクトはカップの取っ手に手をかける。
だが、それは手に持った瞬間、粉々に割れた。
老朽化で割れたのではない、なにか外部から強い力が加わって割れたのだ。
というか――
タクト「これ、俺か!?」
思わず、机から立ち上がる。
その瞬間、椅子と机が思い切り吹っ飛んだ。幸い、3人には当たらなかったが何事かと懐疑的な視線を向けられる。
静香「ど、どうしましたかタクト王子? 紅茶が口に合わなかったでしょうか……?」
タクト「……いや、そういうわけじゃない。ただ、なんでか体が異様に軽く……。!? まさか――」
急いで脳内の称号の説明文を読み直す。
あなたは【適応者】のホルダーになりました。
称号取得条件
1年以上、一人で生き残ること。
特殊能力
ありとあらゆる環境で30日間生存することができます。
専用宝具
丹のロープ
※【賭博師】、五十嵐 勇の能力で一時的に称号がシャッフルされています。
残りシャッフル時間09:44
タクト「……称号が変わってる……!?」
タクトの発言に他3人も急いで、自分の称号を確認する。
静香「……本当ですね。一時的にですが、私は【剣聖】になっています」
サイ「アタシは【聖女】だな。由美はどうだ?」
由美「えっと私は……【遊泳者】? になってるね」
静香「ならば大丈夫だろう。【違反者】のようなマイナスの能力は今ここにはない。――助けに行きたいのでしょう?」
先ほどからソワソワしているタクトを見て、静香は言葉を続ける。
静香「ここには3人もホルダーがいる。宝具も持っている。行ってきてあげてください」
タクト「ありがとな静香!」
タクトは窓から身を乗り出し、森の方向を確認する。おおまかな位置を把握したタクトは急いでその場へ急行する。
先ほどみた地図の記憶を掘り起こしながら、俺は久しぶりに感じる風の強さをその身に受けていた。
タクト(風って、こんなに気持ちいいんだな)
すっかり忘れていて、諦めていた感慨を体中に受けながら、タクトは森を駆け抜ける。
地図に指定されていた場所の大分手前で、政明はいた。
筋肉の盛り上がった大男に政明は取り押さえられ、何本かの骨が折られていた。
思わず、足に力が入る。
タクト「……うおっ!?」
想像の何倍も体が上空に飛び、二人の頭上に到達する。
そして、遥か上空から降り立った衝撃で、地面からの砂埃が舞った。
勇「……誰だお前?」
恐らく、俺が五体満足で戦場に立てるのはこれが最後になるだろう。だから、なるべくかっこよく、威勢よく、堂々と、口を開いた。
タクト「お前、俺のこと知らないのか? じゃ、教えてやるよ。―――俺は、この国で最強になる男だ!」
政明「……よく来たな、タクト……!」
骨折して、縛られているというのに政明はこちらに笑みを向ける。
タクト「ああ。ちょっと待ってろ。すぐ、助けてやるから」
つま先に力を一点集中させ、爆発的な速度で勇に肉薄する。
そして、決闘者のその強靭な腹筋に思い切り拳をブチ当てた。
勇「……お前、はy――」
言い切る前に、勇の体は数十メートル後方へ下がり、腹には大きな黒い痣ができていた。
勇(……なんだ。なにが起こっている……【決闘者】だぞ!? 最強の称号と名高い、あの……。それがなぜ……)
勇は片膝をつき、腹を抑えながら、自分を殴った男――タクトを見る。
タクトは、俺の手から離れた政明を守るよう立っている。そして、油断なく俺を見据えていた。
タクト「言っとくけどな、お前は俺の仲間を傷つけた。だから俺は、お前を許さないからな」
拳を構えながら、タクトは宣言する。
勇「別に……許してもらいたいなんて思わないさ。そういえば、君の名前を聞いてなかったね」
タクト「そういえば、そうだな。俺は【菅原 拓斗】だ」
勇「……そうか。君があの【劣等者(仮)】のホルダーか。だからいち早くここにたどり着けたのか……」
シャッフルは持っている称号と異なる称号を完全ランダムで抽選する。そのため彼は、【劣等者】以外の称号をうけることになる。
タクト(【敗者】辺りが出てくれればよかったんだけど……)
だが、俺が【決闘者】で彼が【敗者】になる確率などあまりにも低い。贅沢はいえないだろう。
配られた手札で戦う以外にない。
勇「初っ端から全開で行くぜ!」
決闘者の圧倒的腕力に任せた、ただのパンチ。
だがそれは、大型トラックを彼方まで飛ばすほどの力だ。
それをタクトにたたきつける。
タクトは――受け止めた。
その場から一歩も動かず、片手だけで。
そして、受け止めた右手で俺の拳をジワジワと握りしめてきた。
急いで離れるが手の骨にはひびが入っている。
その事実だけで、ぞわりと嫌な予感が頭から足先まで突き抜けた。
タクト「俺、実は技とか洞察力とか、そういうもんは何もないんだよな。
あるのはただ、力だけ。子供の頃からひたすら全身の筋肉だけを鍛えてきて、戦うときは、それを使ってのごり押しだ」
実際、それだけで【女帝】や元【剣聖】のばあちゃんを下してきた。
だから、俺になにか得意武器はない。剣があればそれを使うし、銃があればぶっぱなす。
タクト「そんな俺だけどな、高校に上がるくらいで筋肉の限界を感じてたんだ。特に、【巨人】相手には力でのごり押しじゃダメだと突き付けられた」
でも、そのタイミングで俺は【違反者】になれた。一度、筋力が下がった状態での筋トレの再開。
そして、十分な筋肉を手に入れてからの【適応者】への転職。
元来持っていた俺の筋力+【違反者】時代での鍛えた筋力+【適応者】になった時の身体能力アップ=
タクト「――最強、って言いたいとこだけどな。残念なことに時間制限があんだよこれ。だから、俺はまだ最強じゃない。でも、仲間を助けるくらいならできる」
もはや、決闘者の筋力すらも超越した圧倒的な身体能力。
すべてを吹き飛ばすパワーも、筋肉の壁による圧倒的な防御力も、音速と同等の速さも――今のタクトには及ばない。
勇「……ヤバい伏兵がいたもんだ」
タクト「大人しくすんなら、これ以上危害は加えねぇ」
勇「冗談。時間制限があるのはこっちも同じなんだよ」
俺は、ポケットから宝具を取り出す。滑らかな手触りに、光すら飲み込む漆黒の宝具を。
勇「――【漆黒の布】起動」




