61 無節操
俺は30秒の無敵時間を利用し、勇に肉薄する。
勇は、ガスマスクを装着し、火薬や毒ガスを出しまくっているがそんなのを気にしている暇はない。
j『なんだい? 君はルーレットを止めないのかい? 1か2が出れば【裏切者】と【黄金の粘土】で武器と力が手に入るよ」
政明(【賭博師】相手に運ゲーなんてできるわけねぇだろ。あと、邪魔だから黙ってな)
俺は混乱している勇に向け、渾身の一撃を打ち込む。格闘術などなにも習っていない、不格好なパンチだが、それでも勇を吹き飛ばすには十分だ。
勇「……痛いな。でも、それだけだ。君に勝負を決め切るほどの決定力はない」
それは真実だろう。宝具や仲間がいなければ、政明は少し体が頑丈なだけのパンピーだ。
殴られた箇所を抑えながらも、勇はさらなる兵器を次々と取り出す。
政明(まずい……もうすぐ無敵時間が終わる)
そうなれば【虹のルーレット】のリキャスト時間である1週間、ルーレットが使えなくなる。
せめて、骨の一本でも折らなければ負けは必至。
吹き飛ばされた勇のもとへ向かおうと一歩を踏み出す。
だが、足は動かなかった。
視界が歪み、咳が止まらない。
政明「ゲホッガホッ!! …………う……っぷ」
吐きそうになるのを、なんとか堪えるが片膝が地面をついた。
政明(これは……まさか――)
勇「塩素だよ。簡単に言えば毒ガスだね」
ガスマスクを装着した勇は慎重に俺に近づく。
勇「俺が無策で君を呼び出すわけないだろう。当然、いくつもの奥の手を隠し持ってる」
政明(さすがの無敵時間でも、毒ガスまでは防げねぇか……)
そうこうしているうちに、俺の周りをまわっているルーレット盤が消失した。
うまく前が見えないが、とりあえず俺は足に力を込める。
立ち上がらなければ何も始まらない。だが、立てなかった。
勇「うまく前も見えてないのによくやるね。でも、もう終わりだ。足の健は切らせてもらうよ」
俺はポケットから刀を取り出し、ゆっくりと政明の足に刃を押し当てる。
政明「そう簡単にはやらせねぇよ」
言いながら俺は、ポケットからきらめく宝具――【黄金の粘土】を上空に投げる。
ホルダーである勇は一目でそれが宝具であると理解した。
勇(爆発物か!?)
急いで、その場から離脱しようとする。だが、政明は勇のズボンを掴んで離さない。
勇「自爆に巻き込まれるのはごめんだ」
ズボンの裾を引きちぎり、すぐに距離を取る。だが、粘土は地面に落ちただけで何も起こらない。
政明「ハッタリだよ。わざわざ宝具を晒した甲斐があったな」
勇「そうかな? ただの時間稼ぎにしかならないでしょ。それとも、助けを待っているのかい」
政明「いや違うわ。誰か来ても、この毒ガスじゃ役に立たねぇよ」
勇「なら、何のため……」
言い終わらないうちに、勇はポケットに宝具がないことに気づいた。
政明「お前が、粘土に気ぃ取られた時にな。随分と良い手触りだな」
政明は【漆黒の布】を見せびらかしながら、笑みを浮かべる。
そして今度こそ、ゆっくりと立ち上がった。
政明「形見は返してもらうよ。さて、形勢逆転だ」
勇「なにがかな。君じゃその宝具を使えないだろ」
確かにと笑いながら、政明は布をポケットへと入れる。
政明「でもな、形勢が変わったのはマジだ」
【黄金の粘土】をガスマスクへと変え、政明は久方ぶりに深呼吸をする。
【黄金の粘土】
効果 生物以外のすべての物を再現。
専用効果 宝具の再現。
政明「これで、厄介な兵器は使えないだろ」
勇「なるほど、なんでとっととガスマスクを作らないのか疑問だったけど、単純に俺の持ってる兵器に何があるか分からなかったからか」
後出しで対策道具を作れる粘土はかなり使い勝手がいい。
勇「でも、また奪い返せばいいだけでしょ」
政明「分かってねぇな。お前から武器庫を奪ったんならすることは一つだろ」
勇「……まさか?!」
政明はわき目も振らずに森の出口まで疾走した。
二人の身体能力にそこまでの差はない。毒ガスで多少弱っているとはいえ、互いが全力で走ればレリウス国内までは追いつかれることはない。
政明「ここに【巫女】がいない時点で、お前に用はねぇ」
勇「……クソッ! お前は悔しくないのかよ。俺は、【巫女】の殺しに加担して、そいつの娘も誘拐したんだぞ」
勇は、無駄だと知りながらも、政明の後を追う。
政明「だから俺はお前が嫌いなんだよ。俺のクラウンゲームの目的は、結奈への恩返しだ。お前みたいに、目的がコロコロ変わる無節操じゃないんでな」
j『でも、恨みがないわけじゃないだろう?』
政明(黙ってろっつたろ)
勇「そんなの、俺が一番わかってんだよ!! でもな、ここまで来たらもう引き返せない男のプライドがあるんだよ!」
政明「女に誑かされたら変わる、やっすいプライドだろ」
勇は何も言えなくなる。だが、相変わらず追うのはやめない。
政明(なんのつもりだ? 俺が転ぶのを待ってるのか?)
あまりにも起こる確率が低ければ、いかに豪運でも関係ない。
確かに足元はフラフラするが、それでも俺はホルダーだ。万に一つも転ぶことはないだろう。
その時、勇が小声でボソリと、しかし確実に言葉を発した。
勇「――再配置」




