60 三度目の【賭博師】
同封されていた地図に記されていたのは、レリウス王国に広く分布している【暗冥の樹海】の位置情報だった。
俺は、ポケットに隠し持った【虹のルーレット】と【黄金の粘土】を確認しながら森へと進んでいく。
そして、目的の場所に到着した。
そこには、4年前に見た【賭博師】とは似ても似つかない、浮浪者のような青年が切株に座っていた。ぼろぼろの衣服に、生気を失った目。パッと見30代にも見える。
政明「おい、来たぞ」
勇「やあ、けっこう早かったね。ちゃんと、一人で来たのには感心するよ。てっきり、【道化師】が一緒に来るものだと思ってたからね」
政明「まさか。あいつは誰かにお願いされて動くような奴じゃない」
俺を助けてくれたのだって、単なる約束事。あいつはどこまで行っても、自分本位だ。
政明「そんな世間話しに、来たわけじゃない。深玖はどこだ?」
勇「もう少しだけ話そうよ。そうだね……俺がタイミングよく君たちに接触できたのはなんでだと思う?」
政明「おおかた、あの城の中に協力者がいんだろ。小島辺りが妥当か……」
勇「そうだよ。じゃあ、俺の目的にも気づいてるのかな?」
政明「ピエロの名前を出してる辺り、【変態】のかたき討ちってとこか?
それなら無駄だ。あいつは俺を助けにきたりはしない男だ」
そういうところが美徳だったりするのだが……。
勇「問題ないよ。君を使えば、聖女や他のホルダーも釣れるだろう。俺はそのために君を呼び出したんだよ」
政明「論理的じゃないな。俺は深玖を助けるためにここに来てんだ。とっとと出しやがれ」
勇「ここにはいないよ」
だろうな。
周囲にホルダーの気配がないから薄々感づいてはいたが。
政明「なら、ここに用はない。帰らせてもらうわ」
俺は後ろを向き、帰ろうと足を進める。
勇「残念だけどそうはいかない」
拳銃を俺に向け、勇はどこからか縄を取り出した。
勇「君のことは拘束させてもらう」
気にせずに歩こうとすれば、小さく発砲音が響いた。足元に銃跡ができる。
政明「へぇ……これが【巫女】を殺して攫った奴のやることなんだな」
勇「次に動いたら、足を狙うよ」
政明「好きにしろ」
俺は180度回転して、勇に向き合う。そして躊躇いなく、一歩一歩踏みしめながら勇に近づく。
勇(とりあえず、右足をもらうよ)
勇は照準を合わせ、引き金を引いた。
火薬によってはじき出された銃弾が政明の右太ももに吸い込まれていく。
しかし命中した途端、弾がはじけてどこかへ行った。
勇「…………はぁ?」
困惑の声を上げるが、勇はこの現象を知っている。
ホルダーに向けて発砲したときと同じ現象だ。
強靭かつ、弾力のある肉に当たった弾は軌道がズレてあらぬ方向へと飛ぶ。
勇(まさか……ホル――)
そこまで考えた辺りで、政明の右拳が勇の頬に直撃した。
政明「あー、すっきりしたわ。正直、お前のことはちょいムカついてたんでな。自分で考えてる風でいながら、その実周りに流されやすい。マイペースな行動だって、ただ興味の心を抑えられないガキの習性だ」
勇「言ってくれるね。でも、君には分からないだろう。俺にとってあいつがどれだけ大切な存在か」
頬を抑えながらも勇は勇は立ち上がる。
政明「お前も、俺にとっての【巫女】がどれほどか知らねぇだろ。まあ、俺はお前の事情に興味ねぇがな」
勇はぽっけから手榴弾をいくつも取り出すと、俺に投げつける。
政明(【漆黒の布】か)
面倒な宝具だ。だが、対策のしようはある。
投げられた手榴弾は音とともに爆発していく。俺はそれを回避しながら思考を巡らせる。
政明(煙幕と威嚇が目的の手榴弾。本命は、恐らく別にある)
それなら、そいつを出す前に叩く。
ホルダーの気配を頼りに、俺は炎と煙の中へ飛び込んでいく。
政明(? 足裏に違和感……)
煙幕でよく見えないが、足元にはマキビシのようなものが敷かれていた。
ダメージはないが、乗るだけで足裏をマッサージできるあれのようで、大変歩きにくい。
勇(先端を尖らせずに球形にすることで力を分散させ、足止めさせる)
一般人ならば、靴のおかげでそこまで苦ではないだろう。しかし、並外れた脚力を持つホルダーが踏めば簡単に足裏へと届く。
勇「俺は戦闘が苦手なんでね。こういう戦いしかできないのよ」
政明「そうかよ。そりゃ奇遇だな、俺もだよ」
政明はポケットから【虹のルーレット】を取り出し、思い切りルーレットをぶん回した。
軽快な音楽と共に、二つのルーレット盤が出現する。
[タイムゥゥゥぅぅぅ、ルーレットオォォォ]




