57 突然の来訪
高校2年生の冬
相も変わらず、鑑定事務所の掃除をしながら、俺は身を震わせる。
政明(今日はやけに寒いな。とっとと玄関前の掃除終わらせっか)
箒を持って外に行こうとした辺りで、外にホルダーの気配を感じた。俺はすぐに涼斗に触れる。それだけで察したのだろう。
ぬくぬくとこたつに入っていた涼斗が飛び起きた。
涼斗「一体、どなたかな?」
一応、50メートルに入る前に触ったのでバレてはいないはずだが、その人物はゆっくりとこちらに向かってくる。
政明「まあ、3パターンだろ。
1:レリウス王国の軍関係者
2:他グループの斥候
3:通りすがりのホルダー」
涼斗「いや、斥候なら1人でアポもなくこんな堂々と来ないだろう。俺的に言えば、レリウス王国関係者が1番確率が高いね」
そうこう言っているうちに、その人物は事務所の入り口に立った。
こういった場合の対処法は考えている。まずは、俺が一般人のフリで応対し隙を見て―――
由美「おーーい!! 会いに来たよ、政明ー!」
一気に血の気が引いていくのを感じた。
由美だ。あの、メンヘラ激ヤバフェスティバルの【聖女】だ。
涼斗「どこへ行くんだい政明君?」
いの一番に逃げようとする俺の服を涼斗はつかみ取る。
政明「俺は今日いない。いいな?」
涼斗「どうやらもう無理らしいようだけど」
時すでに遅く、俺の前には扉を開けて満面の笑みを浮かべる由美がいた。
由美「久しぶり、とっても会いたかったよ!」
政明「マジかよ……」
昔――というか数か月前、俺は涼斗から質問を受けていた。
涼斗「なぜ君は、聖女に嘘を吐いているんだい? 素直に嫌いだといえば彼女は傷つくかもしれないが、それ以上関わることは避けられるだろう?」
政明「出来ねぇんだよ。あいつが【聖女】になってから、幾つか質問を受けてな、その受け答えの中で今更否定できない内容があんだよ。
あいつは、全部覚えてんだろうから矛盾のある返事は出来ない。俺がホルダーだと気づかれる恐れがあるからな」
涼斗「へぇ……ちなみにどんなことを聞かれたんだい?」
政明「特にまずい奴だと……『今まで嘘を吐いたことはある?』だな。俺はないと答えた」
涼斗「早速嘘を吐いたわけだね」
―――
とりあえず、由美を来客用のソファに座らせ紅茶を出す。
政明「で、何しに来たんだ?」
由美「そんなの決まってるじゃん! 政明に会いに来たんだよ!」
なんでも、今日から刀時高校は冬休みに入るらしい。
制服に身を包んだ由美は、お淑やかに紅茶を飲みながら口を開く。
涼斗「ちなみに、どうやってこの場所が分かったんだい? 軍の関係者にもバレてないはずだが」
由美「……え? サイに聞いて」
俺は脳内でサイに悪態をつきながらもとりあえず話を続ける。
政明「そうか。じゃあそろそろ帰っ――」
由美「じゃ、連絡先交換しよ!!」
スマホを取り出し、由美は身を乗り出してくる。
由美「ここ数年、全然会えなかったじゃん? だから、いつでも通話できるように」
政明「えーっと……だな。それはちょっと……」
絶対に面倒なことになる予感がしまくる俺は、なんとか回避できないかとあれこれと思考を巡らせる。
政明「そ、そういえば由美。お前、国お抱えの王族なのに護衛もなしでいいのか?」
由美「?? 手紙で書いたじゃん。今日から一週間は自由に行動させてくれる約束になったって。
もしかして手紙読んでないの?」
政明「あー……手紙が届いてないだけだろ。この辺誤配送が頻発してるから」
苦し紛れの言い訳だが、【聖女】である彼女はすぐに納得する。
由美「そっかー。じゃあしょうがないね、それよりも連絡先交換しよ! で、この後は大通りのショッピングセンターでデートしてー、カラオケも行きたいな~。あッ、興味があるなら刀時高校にも案内するよ!」
涼斗「いいじゃないか政明君。遊びにでも行ってきたまえ」
なぜお前が口を挟む。
由美「分かってるねそこの人。一週間、こーんな美少女を連れまわせるなんて、政明は役得だよ」
政明「いやでもさすがに一週間は長いだろ。高校の友達とでも行ってろよ」
由美「それなんだけどね~。深玖達が失踪してからこれと言って仲のいい友人が出来なくてさ」
政明「そうかよ。そりゃ大変だ……な? ―――今、なんつった?」
先ほどよりも、少し声のトーンが下がりながら政明は由美に聞き返す。
由美「……えっと? 深玖達が失踪したこと?」
政明「その深玖って奴の名字は?」
由美「【日海】。日海 深玖だよ」
その名前を聞いた途端、政明はソファが倒れるほどの勢いで由美に詰め寄った。
由美「え……ちょっと政明。こんな時間にいきなりは………………」
なぜか目をつむる由美の瞼を無理やり開きながら、俺は矢継ぎ早に質問を続ける。
政明「いつ、どこでだ!? どうやって失踪した?」
由美「え? いやそこまでは分からないけど。そんなに深玖のことが気になるの?」
少し頬を膨らませる由美を捨て置き、俺は紙とペンを用意する。
政明「説明は後だ。由美、お前の持ってる情報を全て教えろ」




