51 補講
2年生の夏。
すさまじく難しい期末テストとの格闘を終え、ボクは屋上で大きく伸びをするのだった。
由美「おつかれ深玖。どうだったテストは?」
深玖「なんとか7割は解けたけど……それ以外は全然解けなかった」
由美「それね! 数学の最後の問題とか、私、問題をよんですらないよ」
中学から英才教育を受けさせられた私でも、かなりの難問が多い印象だ。
由美「そういえば、信矢君の方はどうだったの?」
深玖「スポーツ組は筆記と実技の両方で成績を判断するから、多分大丈夫だよ。テストの難易度も進学クラスに比べて全然低いし」
勉強を教えるときに過去問を見たが、しっかりと中学を卒業していれば問題ない問ばかりだった。
深玖「で、ボクたちこれからエンドの定例会議に行かなきゃいけないから、ここでお別れだね。打ち上げ行きたいんだけど」
如何せん由美は一応王族なのだ。きっと監視がつくだろうし、ホルダーが見張りにつく可能性もある。
リスクが高すぎるのだ。
由美「そっか~残念。じゃ、私はその迎えの人が来る前に王城に帰るよ」
不要なエンカウントを防ぐため、由美は階段を下りるのだった。
―――
理香「お待たせしました、由美様」
相も変わらず、抑揚のない声にゴーグルをかけた姿の理香さんは学校の屋上に舞い降りた。
理香「?? 信矢さまがいらっしゃらないようですが……?」
深玖「えっとその~。実はシン君、赤点を取ったらしくて。今、補講の最中です……」
なぜあんな簡単な問題が解けないんだと聞きたくなるが、今ぼやいても仕方がない。
まあ、シン君の絶望する顔は珍しいのでメシウマだったりするのだが。
2学期のテストでの挽回を期待しよう。
深玖「一応、自分の足で行くから先に行って問題ないって言伝は預かってます」
理香「そうですか。では参りましょう」
深玖「ホントすいません……」
久しぶりに上空に飛び上がったボクは、とても申し訳ない気持ちになりながら目的地に向かうのだった。
―――
およそ3か月ぶりに入る【エンド】のアジトは何も変わらず、見事なものだった。
深玖(いや、よく見たらジュエリー系のゾーンが増えてるな)
多分、その辺の花瓶を盗んでも100万はくだらないだろう。
その時、スマホに連絡が入った。
深玖(えっと……理香さんは奥さんと旅行中の湊さんの迎え、久さんは時計店で買い物、シン君は補講か……)
理香さん以外、かなり時間にルーズだ。
かなり時間がかかりそうだったので、自分で紅茶を淹れてソファに座ることにした。
ダージリンのいい香りが鼻腔をくすぐる。
深玖「――誰ですか?」
突然、後ろにホルダーの気配がした。
気配は一人。
久さんが帰ってきたのかと思いながら後ろを振り返る。
勇「やあ、初めまして。久から話は聞いてるよ」
年は20代前半ほど、濁った眼をした彼は鋭い視線を向けながらボクに近づいてきた。
勇「俺の名前は、【五十嵐 勇】。【賭博師】って言った方が分かりやすいかもね」
結奈『うっそぉ、ビジュアル変わりすぎじゃない?』
勇は中学生の時とは打って変わって、浮浪者のように生気がなかった。服はよれよれでみすぼらしく、肌はカサカサに乾燥し、変な匂いも漂ってくる。
結奈『いや会ったのは10年くらい前だから変わってるのは当然なんだけどさ』
深玖「あ、えっと初めまして。ボクは【巫女】の日海 深玖といいます。えっとすいません、実は今エンドの人員の人たちが出払ってて……」
勇「知ってるよ」
勇はにたりと笑った。
勇「【剣聖】が補講ということも、湊のじっちゃんが旅行中なのも、理香が迎えに行ってることも、久が買い物してることも――」
深玖「へ、へー……。あ、あのなにか飲み物でも淹れましょうか?」
勇「そして、君があの人の子供だってこともね」
気づけば勇はボクの目の前にいた。
由基人『おい、こいつかなりヤバい奴じゃないのか?』
深玖「そ、それは母を知ってるってことですか!? 教えてください、母はどうして死んだんですか、誰が犯人なんですか?」
母の死の真相に迫れる機会を前に、ボクは父の忠告を無視してしまう。
勇「そうだねぇ、気になるよねぇ。でも、残念。君の冒険はここまでだよ」
深玖「?? それってどうい……」
深玖(あれ? なんだか眠く……)
下卑た笑いを浮かべた勇の姿を最後に、ボクの意識は途切れたのだった。




