49 二人の入会者
道中――いや空中では特に問題ないフライトだった。
一度鳥の群れに遭遇したときは肝が冷えたが、宝具のロープがひとりでに鳥を撃ち落としてくれたので、特に何か困ったこともなかった。
深玖(いやあるじゃん! 今、冬だけど直射日光ガンガン当たってるし……。日焼け止め塗っておけばよかった)
結奈『分かる。シミって若いころから対策しないと年を取ってから目立ち始めるんだよね』
由基人『……そんなに日光が気になるか? 俺は全然気にしないが』
結奈『はぁ~、これだから男子は。乙女はそういうのけっこう気にするの!』
深玖(分かる。男子ってよく「女子のシミとか気にしないぜ!」とか言うけどそういう問題じゃないんだよね。自分が嫌だから対策してるんだっつーの)
由基人『なんか……すんません』
なんやかんやあったが、ボクたちは無事に目的地へと到着した。
そこは、レリウス王国とクセン共和国の国境付近。見事な山々が連なり、自然の雄大さをひしひしと感じる。そんな数ある山の一つ、その中腹に降り立った理香は周囲を警戒しつつ歩みを進める。数歩歩いた先にある茂みに手を突っ込み、何かを探し当てる。
理香「こちらが入り口になります」
それは地下へとつながる階段だった。ハッチの上に土や植物を被せ入り口を隠している。
理香「中には【君主】さまがいらっしゃるので、あとはその人についていってください。では、私は湊さまを迎えに行くので、これで失礼いたします」
ぺこりとお辞儀をしてから、理香はすぐに空を舞った。
信矢「よし行くぞ」
深玖「いや早いよ!」
躊躇いなく進もうとする信矢に遅れまいと、急いでボクも地下室へ進む。
深玖(ねぇお母さん、【君主】について何か情報ってある?)
結奈『そうね~。クセン共和国の王族に代わって、国をホルダーから守ったりしてるって噂で聞いてるけど、それ以外に情報はないね~』
深玖(じゃあいい人?)
由基人『それは知らないけど、【エンド】自体はあんま良い噂は聞かないな。情報統制のためなら人殺しも辞さないとか』
深玖(ころッ……!? でも、お母さんたちが色々教えてくれるってことは、お母さんたちを殺したのは、ここの人たちじゃないってことでしょ?)
結奈『アハハハ、一本取られたね』
そんなやり取りをしているうちに、広い部屋に出た。
見事なシャンデリアが天井にぶら下がり、壺や絵画など調度品がいくつも飾られている。
まるでお城の中にいるみたいだ。
そんななか、仕立てのよさそうなソファでふんぞり返ってワインを飲む男が目に入った。
紅く綺麗な刺繍を施された衣類を身にまとい、じゃらじゃらと指輪を嵌めた男はこちらに気づき手招きしてくる。
年齢は40ほどだろうか、イケてるダンディな雰囲気を醸し出しており、イケおじという言葉がぴったりと似合う。
久「そんなに警戒せんでもよい。わしの名は【青鹿 久】。【君主】の称号を持つものじゃ。担当直入に聞こうかの、ぬしら【エンド】に入らんか?」
信矢「入るわけないだろおっさん」
深玖(うおおおぉぉぉい!! すげぇなシン君、よくそこまではっきりと)
もはや尊敬を通り越して怖くなってくるところだ。
信矢「そんなどうでもいいことより、あのジジイをよこせ。俺の稽古相手にする」
久「早まるでない。まずは順序立てて話そうか。まず信矢君、君はクラウンゲームについてどこまで知っている?」
久はソファに座ったまま話を続ける。
信矢「道――いや空中で女から聞いた。大体は分かる」
久「なら話は早い。クラウンゲームを制するには人手が欲しいのだよ。数年前に2人の仲間を失ってからは、エンドも人員不足でな」
信矢「なら、別の奴を探せ」
久「一応、【賭博師】辺りを誘っているがいい返事は貰えなくてね」
結奈『……【賭博師】?!』
突然、脳内の母が驚きの声をあげる。
深玖(なに? どうしたのお母さん。まさか、【賭博師】ってやつがお母さんの命を……)
結奈『いや、そうじゃない。そうじゃないよ、うん!!』
慌てて冷静さを取り戻すが、ボクの疑惑はそう簡単に取り消せない。
信矢「俺はあのジジイと戦えればそれでいい。エンドには入らん」
久「これは久がいないと話が進みそうにないのう」
少し面倒そうに久は頭を掻く。
深玖「――入ります」
決意の固まった声で、私は手をあげる。
この場にいる全員が一気にボクを見た。
シン君がこんなに驚いた顔をするのは珍しい。
結奈『ちょっと深玖!?』
由基人『考え直せ!! てか、やめろ。【賭博師】は犯人じゃない』
深玖(でも、犯人に繋がってるんでしょ? なら、ボクは行くよ)
久は深い笑みを浮かべながら、懐から蒼い紙を取り出す。
久「契約内容をしっかりと読んでから、署名したまえ」
【冥色の誓約書】
効果 ゲーム参加者との強制契約。
専用効果 キョウギの主催。
久が飛ばした紙とペンをキャッチし、ボクは目を通す。
だが、それを信矢が奪い取った。
深玖「なにすんのさ、返して!」
信矢「お前こそ何をしている。こんなよく分からない誓約書にサインなど」
深玖「いやこれは宝具だから!」
信矢「尚のこと怪しいな。それに、このチームにいる奴が全員無害である保証はない」
びりびりに破いてしまおうと紙に力を入れるがそれは全く破れることはなかった。
久「勝手はよくないぞ、信矢君」
いつの間にか背後に回り込んだ久が耳元で告げる。
信矢「お前を排除してでも、これは渡さんぞ」
久「確かに、純粋な技量ならわしに勝ち目はないが……これはクラウンゲームじゃ。奥の手はいくらでもある」
信矢は動けない。
深玖(敵が、どんな宝具を持ってるか分からない)
深玖「大丈夫、ボクがエンドに入ればシン君は入らなくて済むかもだし、迷惑はかけないよ」
由基人『ダメだ! 一度入ったら戻れなくなる』
結奈『そうだよ、考え直して』
確かに、2人の言う通りなのだろう。ボクはまだ無害なネコだが、一度組織に所属してしまえばどんな目に合うか分かったものではない。
でも、いずれクラウンゲームを攻略したいと思っていたし二人の死因も知りたい。
ボクは契約内容にしっかりと目を通し、サインする。
【冥色の誓約書】は蒼く輝き、所有者である久のもとへと戻った。
久「ハハハハハ、潔いな。して、どうする【剣聖】。貴殿の彼女はサインをしたようだが」
信矢「彼女ではない。……誓約書を出せ」
舌打ちをしながらも、シン君はサインをする。
久「では改めて、ようこそエンドへ。我々は君たちを歓迎する!」
と言っても、今は3人しかいないがな、と付け加えながらソファに再度座り込む。
久「基本的には有事以外には無理に呼び出したりはせん。まあ、情報を共有するための互助会みたいなもんじゃ。安心せい」
まあ、誓約書にもそう書かれてたし問題はないんだろうけど……。それよりも
深玖「ちょっとシン君、何考えてるの!? 危ない組織だったらどうすんのさ」
信矢「黙れ、少し後悔しているところだ。そもそも、貴様が勝手にサインをするからこうなっている」
深玖「ボク、書かなくていいって言わなかった!?」
厳密には言ってない気がするが……シン君の性格的に書かないと思い込んでいた。
信矢「まあでも、これで分かりやすくなった。ここに入ればあのジジイと戦える機会もあるだろう」
かくして、新生【エンド】が今ここで爆誕したのだった。




