38 勝者はどっち?
二人の強者は、互いの勝利を確信しながら次の手に打って出る。
即ち、攻撃だ。朱美は骨の刃を涼斗に振るう。涼斗は鼻水で足場が悪いながらも避けつつ一歩前へと歩み出る。
朱美(こんな踏ん張りがきかない足場で突進するとは――一体何を考えているのでしょうね?)
だが、好機には違いない。私は、体のどこかに隠しているであろう心臓と脳にめがけて攻撃する。
涼斗は微動だにせず、ただただ刃を観察していた。瞬きを忘れるくらい朱美の攻撃を凝視する。
涼斗(左肩から右わき腹への袈裟斬り。若干迷いが見て取れる速度……問題ないな)
朱美の刃は空ぶった。涼斗へダメージを与えることなく地面へ直撃する。
乾いた音が響くと同時に、涼斗は血を霧状に頒布し朱美の視界を奪った。
たった一瞬、1秒にも満たない目つぶし。だが、それだけで十分だ。
涼斗は拳を針状に変形させ朱美の右肩に打ち込む。
朱美「なにするのさ!」
朱美は鼻水が分布するエリアから後退し、涼斗に問いかける。一撃貰ってしまったが、変態の力があれば修復など造作もない。
戦局は絶望的なはずなのになぜか涼斗は笑っていた。
涼斗「はっはっはっはっは! さて、これで俺の勝ちだ」
朱美「ふーん……へんなことを言うね。一発あてたことがそんなに嬉しかったの?」
朱美(まさか彼がこんなに早く【変態】の力を使いこなすなんてね)
さっき攻撃を空ぶったのは、私がやってみせた肉を移動させ効率的に回避する術を彼が行ったからだ。私が数か月かけて体得した技なのだが、どうやら涼斗はすぐにマスターしたらしい。だが、それがなんだというのか。
朱美「さて、そろそろ勝負を決めさせて……あれ??」
不意に私の鼻から血が垂れてきた。なぜか止めようにも、とめどなく垂れてきている。
朱美(ま……さか!?)
涼斗「気づいたか朱美君。先ほど君に打ち込んだのは拳じゃない、俺の血液だ」
血液には抗体と抗原がある。私はA型なのでA抗体とB抗原があるのだが、先ほど私のA抗体がB型の赤血球を攻撃した。
涼斗「正直運がよかったよ。君がAB型ならこんな作戦は取れなかった。まあ、それでも俺が勝っただろうがね」
【変態】を殺すには、なにも心臓や脳を破壊する必要はない。通常の攻撃が効きにくくなるだけであって、殺す方法など無限に存在する。
朱美「確かにこれは一本取られたね。ホント、人体ってのは奥が深いよ」
涼斗「随分と余裕だね」
朱美「そりゃあ余裕だからね」
朱美は手で銃の形を作ると、人差し指の第一関節を分離し弾丸のように飛ばした。
涼斗はそれを避けるが、少し驚いた顔を作る。
涼斗「あれ、君動けるのかい? 下手したら死ぬはずなんだけど」
朱美「まあ私、【変態】ですから。まさか抗体程度、操作できないとでも思っていたんですか?」
涼斗(俺は操作できなかったが……)
そこで涼斗は【道化師】の称号について思い出す。
あなたは【道化師】のホルダーになりました。
称号取得条件
常に人前で笑顔でいること。
特殊能力
自身が直接触れたホルダーの能力を劣化コピーします。
専用宝具
黄金の粘土
涼斗(……劣化コピーか。俺の称号じゃ完全なコピーは不可能。この場合は操作できる体の大きさに制約がついてるパターンか)
涼斗「まあでも、関係ないかな」
そう宣言したと同時、朱美は地面に倒れた。
朱美「あ……れ?」
朱美(動機と息切れがひどい。めまいもしてきた……この症状は――)
涼斗「貧血だ。君は今、重度の血液不足なんだよ。
君の体重と、無駄に大きいおっぱいを鑑みるに、総血液量は5~6ℓといったところだろう。
君が今までの戦闘で流した血液量はざっくり1500㎖。さらにさっき俺が針の拳を刺したとき、俺の血液を入れると同時に、600㎖ほど君の血を抜かせてもらった。そしてさらに、君が俺の血液を排出するときにさらに血を流したね。
致死量は総血液の半分。ホルダーはもう少しかかるだろうが、君はもう動けない。
チェックメイトだ」
朱美「へえ~、やるね」
確かに知識として知ってはいる。体重の13分の1が血液量だということも、血液の半分を失えば死に至ることも。
だがまさか、ここまで脳筋なごり押し戦法で来るとは思わなかった。
涼斗「そう悲観するな。確かに俺は神に等しき存在だが……君は俺よりも優れている部分が何か所もあった。
【変態】の練度も、人体への造詣も、生物への探求心も――。
だから俺は自分の強みを生かして戦った」
朱美「ふーん……体重かな?」
涼斗「その通りだ。俺がこの戦闘で唯一明確に勝っているのは質量だ。女の朱美君には体重を増やしにくいだろう?」
朱美「フフフ、どうでもいいよ。どうせ私はもうすぐ死ぬしね」
涼斗「そうか、楽しかったぞ【変態】。もう二度と会えんがな」
その言葉を受け、朱美は静かに笑う。
朱美「残念だけど、私たちはまだ死なないよ?」
涼斗「……どういうことかな?」
少し含みのある言い方に疑問を呈するが、それを答える前に朱美からホルダーの反応が消えた。
涼斗「……まあ、その時考えればいいか」
気を取り直して政明と合流しようとその場を離れる。
道中、朱美の遺体のある方から悲痛な叫び声が微かに聞こえたが、俺は気にせず歩き続けるのだった。




