37 贖罪
数刻前、涼斗は髭を伸ばし随分と軽装な状態で現れた。
政明「何してんだ?」
せっかくのカッコいい顔が台無しだ。……いや、これでも意外とアリか。
涼斗「ただの仕込みだ。いいか? これから俺はこの町で買い物をする。【変態】は容姿を変えて男に近づくのが得意だ。俺はそれを利用し、人目につかないところへ変態を誘導する」
政明「まあ、言いたいことはわかる。けど、どうやってここまでおびき寄せたんだ?」
涼斗「偽の情報と写真をエンドに流した。まあ、あっちも警戒してくるだろうし確実に複数人の手練れを送り込むだろうが」
確かに【黄金の粘土】の情報なら変態は来るだろう。
政明「なるほどな。俺の【裏切者】をコピーし正体を隠しつつ、倒すのか」
政明(俺が行けば、変態の見た目に惑わされる可能性のあるし、納得の人選だ)
涼斗「でだ、君にはエンドが複数人で来た場合のもう片方の追跡を頼もうか。あと、連絡がとれないよう引き付けておきな」
政明「構わないが、俺が【黄金の粘土】を持ってていいのかよ」
涼斗「俺には必要ないからな。政明君の保険として持ってな」
一部の宝具には再使用時間がある。宝具の効果や使い手によってピンキリだが、今回使用した【虹のルーレット】に限れば7日だ。現在この宝具は使えない計算になる。
涼斗「まあ。今日来るとは限らないが一応持ってお……意外と早かったな」
涼斗と俺はほぼ同時に上を見上げる。そこには高校生くらいの男女1組が雑居ビルの上で会話をしていた。かと思えば、女の方の体がみるみるうちに変形していく。
涼斗「あっちが変態か。じゃあ、男の方は任せる。新手が来る可能性もあるから気をつけろ。以上だ」
政明「待て。涼斗、お前はクラウンゲームを攻略すると言ったな。なら、【変態】をどうするつもりだ?」
涼斗「もちろん、彼女は殺す。
君も知ってるだろう? 彼女の悪行の数々を。少なくない被害が出ている。それに、あの女と俺の専用宝具は被ってる。いずれあの女は、俺にたどり着くだろう。だから、ここで間引いておく」
それだけ言って、涼斗はその場を後にする。
そしてすぐに涼斗は精肉店で買い物を始めた。
個人的にもっと言いたいことがあった俺だが、【変態】の連れている男を見た瞬間、今までの考えが吹き飛んだ。
政明(あいつは……結奈を殺した奴の近くにいたガキか)
そう、【巫女】である日海 結奈を殺した、【盗賊】の女が連れていた少年だ。勇と呼ばれていたはず。
少し心臓の鼓動が早くなるが、冷静に落ち着かせる。
政明(……一旦落ち着け)
とりあえず勇の後を尾行する
どうやらそこまで身体能力が高いわけでもないらしく、彼は商店街を歩いていく。唐揚げを買い食いしていくほどマイペースだ。
政明(特に怪しいところはない……)
だが、しきりにポケットに手を突っ込んでいるのを見るとどうやらそこに何かがあるらしい。
j『久しぶりに見たね。君は彼に復讐するのかい?』
政明(んな面倒なことするわけねぇだろ。そもそも、あいつは関係ないしな)
それより、
政明「おいそこの【賭博師】、俺を覚えてるか?」
ここで【賭博師】の能力を検証しておくべきだ。
勇「ん-っと、君は誰かな?」
俺は、勇が大通りから離れたタイミングで声を掛けた。
j『随分と特急だね!? そりゃ、そんな反応をするよ』
政明(いや? 俺の見立てが正しけりゃ、勇は俺を攻撃できない)
j『どういうことかな?』
政明(例えば、高校に入って友達が欲しいと思った時、一生ものの友人ができたらそれは幸運だと思うか?)
j『それはそうじゃないかな?』
政明(じゃあ、その友人が同窓会で怪しい宗教を紹介してきて、断り切れず破産したら、そいつと会ったことは幸運だと思うかい?)
j『……まあ、幸運ではないかもねぇ』
政明(つまり、あの【賭博師】も同じだ。奴はただ運がいいだけ。こうであったらいいな、そういう願望をただ叶えやすくするだけだ)
6年前【盗賊】と会ってるのがいい証拠だ。利用されるだけ利用され、結果的に犯罪の片棒を担がされている。正直、すでに称号を奪われて死んでるものと思ったほどだ。
奴にとっては盗賊になど会わない方が幸運だ。だが、彼が「ホルダーに会いたい」という願望を持って、彼女に会ったならそれは当時の勇にとってはどれほどの幸運だったか。
j『理屈は分かるよ。でも、それと君が攻撃されないっていうのはどうにも結びつかない』
政明(俺なりのプロファイリングだ。あいつは今贖罪の相手を探してる)
突然、目の前に現れた中学生くらいの少年に俺は少し警戒を強める。
勇(【賭博師】ねぇ……。とりあえず、ラス1の唐揚げを食べるか)
政明「6年前の夏、Q山の川原で【巫女】を殺したことだよ」
口に運ぼうとした唐揚げを思わず地面に落としてしまう。衝撃のあまり上手く声が出せない。
政明「その反応は覚えてるでいいな? お前は気絶してたが、俺はあの時あの場にいたガキだ」
その言葉に記憶が呼び起こされる。首トンによって意識は朦朧としていたが、確かに彼の声や口調は聞いたことがある。ずっと探していた贖罪の相手、その一人だ。
俺は人に見られることも厭わずに土下座を行った。
勇「あの時は本当に申し訳ありませんでした!!」
謝っても済む問題でないことは分かっていた。俺は目の前の少年と、巫女の子供からあの人を奪ったのだ。だが、それでも俺はずっと彼らを探していた。俺がクラウンゲームをやる理由なんてそれ以外に何もない。スマホに着信音が入るが俺は気にせずに頭を下げ続ける。
政明「そうだなぁ……、俺とあの人の間に血の繋がりはないが母親みたいなものだったしなぁ」
j『よく言うねぇ。数時間しか一緒にいなかったのに』
勇「……俺にできることならなんでもやらせてもらいます。死ねというなら喜んで死にます」
ポケットに入っている【漆黒の布】を差し出そうとするが、その前に政明が声をあげた。
政明「なら、祈ってろ。俺と俺の仲間に勝利が舞い降りてくるように、な」




