35 二人の異常者
話を読む前に『9 ハニートラップ』を読み直していただけると、2倍楽しめます。
朱美「じゃあ、悪いんだけど君の家に上げてくれない? ちょっと長話になっちゃいそうだから。こんな寒いところじゃ大変」
「い、家に!!? もも、もちろんです。大歓迎です!」
鼻息を荒くし、わずかに歩くスピードが速くなる。そのあたりで自分の身だしなみに気づいたのだろう。しきりにひげを触りだした。
朱美「ありがと! じゃあ、よろしくね」
心の中でほくそ笑みながら、俺は彼女の前を歩くのだった。
―――
朱美「へ~、ここが君の部屋か~」
あまり家具がないところを見るにここへ引っ越したばかりなのだろう。もうすぐ3月で、新生活の時期だ。彼ももしかしたら今年で一人暮らしを始めるのかもしれない。実に都合がいい。
「じ、じゃあ早速、人を探そうか」
どこからか地図とペンを持ってきた彼を私はとびきりの笑顔で迎えてやる。
朱美「わあ、ありがとう!! じゃあ、そんな君にご褒美をあげないとね」
服を脱ぎつつ、私は彼の手を取ろうと近くに寄る。
「ッえ!? あ、その……そんなことしなくても……」
必死に前かがみになる彼の耳元で私は妖艶に囁く。
朱美「大丈夫。ホントは君も期待してたんでしょ? なら、一緒に気持ちよくなろうよ。ほらおっぱい触って」
豊満な私の胸をズズイと出す。
涼斗「じゃあ、遠慮なく」
その瞬間、私の胸から血しぶきが上がった。みるみるうちに服が朱に染められ、私は膝から崩れ落ちる。
朱美「ま……さかホルダー!?」
涼斗「この称号、ホルダーに触ったら強制的に上書きされるのがめんどくさいな。ま、もういいか」
俺は手にした心臓を握りつぶすと、携帯を取り出す。
涼斗「おい、終わったぞ政明。あとは一緒にいた男を探し出し――ゲポッ……」
喉を骨で刺しぬかれ、思わず涼斗は携帯を落とす。
朱美「いや~、まさかまさか。やられたよ、君。そういえば名前を聞いてなかったね。なんていうんだい?」
涼斗に骨を刺した人物――【六崎 朱美】(本名 倉田美紀)は笑いながら、携帯を拾い上げる。
涼斗は骨を抜こうとするが、ホルダーの力をもってしてもそれは抜けなかった。
朱美「無駄だよ。一度刺さったら抜けにくい構造になってるから。それにしても、意外と効果あるもんだね。余った脂質で作ったハリボテ心臓なんだけど」
【変態】の能力にはいくつかの制限がある。脳と心臓は複製、変形できないことだ。つまり、この2つを攻撃されれば死ぬ。
朱美「じゃあ、とりあえず四肢を切断して拷問するね。【黄金の粘土】や君の称号について知りたいし」
骨を糸のこぎりに変形させるが、その時違和感に気づく。
朱美「あれ? なんか君の首柔らかくなってる……?」
さらに追加で返しを作ろうと骨を操作する。だが、その前に男の首が180度後ろに回った。そして、後ろから刺している私の目と彼の目が合う。
涼斗「そうだねぇ、確かに俺の名前を言っていなかった。俺は【天水 涼斗】。全人類で最も神に近い存在だ」
そう名乗った彼は、喉に刺さった骨を根元から叩き折り距離を取る。
涼斗「ようやく君の称号にも慣れてきたよ」
いいながら彼は右腕を刃の形に変形させた。
それは、間違いなく私の称号――【変態】の力。
朱美(他人の称号のコピー――ってことは)
朱美「そっか、君が情報に出てた【道化師】なんだね」
涼斗「話を聞いてなかったのか? 俺は涼斗だ」
朱美「どうでもいいよ。そういえば、君がホルダーなら聞きたいことがあるんだ。最近【適応者】に会ったかい?」
涼斗「さあな、俺は俺以外に興味がない」
朱美「あっそ!」
朱美は手で銃の形を作ると、人差し指から胃酸を放出する。
涼斗はそれを避けつつ、腕の刃で反撃する。刃は朱美の腹を的確に捉えるが、結局刃が当たることはなかった。
涼斗「へぇ。その場から動かずに、体の肉だけを操作して効率的に避けてるのか」
まるで、切られた瞬間から治ったのかと見間違うくらいだ。
その場に立ったまま涼斗の攻撃を凌いだ朱美は静かに笑う。
朱美「コピーしたばかりの君にはできない芸当でしょ?」
涼斗「たとえできても、やりたいとは思わないね。君、かなりサイコパスだ」
いいながら涼斗は腕の刃を何度も朱美に振るうが、彼女は動かず、変形だけで対応してくる。
そして、朱美の返しの付いた骨が涼斗の心臓を狙う。彼はそれを腕の刃で受けるが、それは異様に軽かった。
朱美「残念、本命はこっち」
しっかりと重さの乗った彼女の右足が、通常では考えられないほどに大きく歪んで曲がりながら、涼斗の鳩尾を強打する。
涼斗「……ゴポッ!」
へんなうめき声を上げながら、涼斗は地面をバウンドしアパートの壁を破壊した。
吐血するが、すぐに変態の力で止血する。
涼斗(この称号、まじで操作がムズイね。自分の体が変形する生理的嫌悪も付随してか常識的にしか戦えない。彼女は脳や心臓の場所を変えてまで戦っているというのに)
涼斗「だからこそ、サイコパス……か」
アパートの外に投げ出され、涼斗と朱美は衆目に晒される。特に朱美は上裸の上に整った美貌を持っている。注目が集まるのは当然と言えた。
彼女はすぐに状況を判断すると、骨をしまい甲高い声で叫んだ。
朱美「た、助けてーー!! 襲われるーー!!!!」
今まで30分ずらしで投稿していましたが、本日の15時から30分おきにキリの良い39話まで載せる予定です!




