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クラウンゲーム  作者: 好きな言葉は酔生夢死、家から3歩出ることで毎日の運動タスクを消化し、健康的課題の高血圧については24時間断食することで対策を完了させている、200歳まで生きることが超確定した、常識はずれのバケモン
適応者編
30/112

30 【丹のロープ】


 村は形容しがたいほど無残な状態になっていた。家々は破壊され、そのほとんどが原型を留めていない。


 そこかしこに血の跡がある。もはや近くに誰も生きている気配はしなかった。



政明(…………三分だ。たとえ人は心臓が停止しても蘇生できる。AEDは村にあるし、最低限の医療道具も――)


 そんな甘い考えを吹き飛ばすように、村の中心から血の噴水が上がった。避難場所である公民館がある位置だ。


 これで、避難している村民が全滅した。


 そして、諸悪の根源が目の前から歩いてくる。


 まるで生き物のように幾つものロープを操り、片手に住民台帳をもちながらマーカーで線を引いていく。


 その女は、まだ子供だった。中学3年くらいの背丈と顔。空色の髪をツインテールにした彼女は達成感からか、可愛らしくスキップしながら近づいてくる。人懐っこい顔には血の跡があった。



理子「えーっと、今のが103人目だから~。……あと一人っすね~。まったく探すのも一苦労っすよ」


 理子の操るロープは、先端を少し尖らせており、殺した村民の頭部だけを刺し連ねていた。


 それを、ずらりと目の前に並べなにかを確認している。


理子「今の時代、全員の顔を台帳に描いてくれるんで楽っすね~。えーっと、君は大槻くんか」


 残りの一人が分からないので、しらみつぶしに確認するつもりなのだろう。端から顔を確認し、線を引いたら頭を捨てる。いずれ、残りの一人――【神村 政明】にたどり着くのも時間の問題だ。



 政明は物陰から、必死に怒りを抑えていた。


 既に50メートルの範囲内だ。理子の位置は分かっている。今、暗殺を仕掛ければ成功する確率は高いだろう。


 だが、政明は動かない。


政明(……落ち着け……落ち着け!! 相手はガキ……危害は加えねぇ。約束は破るな)


 カーニバルの掟を思い出しながら、興奮を抑える。先ほど、両親や祖父母の死体を確認した。


 頭部だけ回収されては蘇生はできない。ここで無理してあの少女に復讐してもなにもない。


 近くにあった釘で4つほど腕に穴を開け、ようやく冷静になる。



 今、あの女は60まで数え終えた。俺が生きてると分かれば恐らく追ってくる。しかも厄介な宝具もちだ。


 なんとか、あの台帳だけでも盗み出す。


 フードを深く被り、顔を隠してから、政明は理子の死角に立った。そして、最速の距離で台帳に手を伸ばす。


政明(とった!)


 だが、台帳に触れた途端宝具のロープが俺を拘束した。フードが外れ素顔を見られる。


理子「おーっとっと!? 危ないなぁ。あっ、君が最後の一人? えっとお城に来てた政明君だね。よかったー、数えるの飽きてきちゃったんだよね」


 腕と足をロープで結ばれた俺は、宙吊りで理子の前に差し出される。


理子「ごめんねぇー。どうやら君の村の村長がクラウンゲームのことを村中に共有しててさ。悪いけど――死んで」


 俺を絞め殺そうと、ロープが俺の首を絞めてきた。それを無理やり腕力で脱出し、距離を取る。


 理子が興味深そうに声を上げた。


理子「えー、今の何ナニ!! 君、かなり力が強いっすね。それに早い……もしかして君、ホルダーかな? そんな気配もないけど」


 無数のロープを鞭のようにしならせ、風切り音とともに理子は間合いを潰してくる。いや、あの宝具に間合いなんて概念はないのかもしれない。


理子「このロープが気になる? これはね【丹のロープ】。私の専用宝具なんすよ。こいつは私をオートで守ってくれる最高の相棒っす!」



 宝具【(タン)のロープ】

 効果 ロープを無限に伸ばすことが可能になります。

 専用効果 ロープが意志を持ち、自在に操作することが可能になります。



政明(さっき、気配のない俺を捕まえたのは宝具の性能か)


 一度見つかった以上、隙をつくのはもう困難だろう。それ以上に顔を見られた。ホルダーである疑念も抱かれている。


 結果としては最悪だ。


 こうなった俺になす術はない。


 逃げよう。


 理子の気配を後ろに感じながら、俺は走り出す。


 もちろん、ただで逃がしてくれはしないだろう。四方八方から、ロープが迫ってくる。こんな暗闇では、満足に知覚できないはずなのに的確に俺の居場所を追尾してくるのは、ロープが意志を持っているからか。


 このままでは逃げ切れないと判断した俺は半壊した家の倉庫に転がり込む。



理子「隠れられてないっすよ~」


 だが、ロープはあらゆる障害を破壊し俺に迫ってくる。


政明「隠れるつもりはねぇからな」


 大抵の家の倉庫には冬に暖を取るための灯油がある。【丹のロープ】は灯油入りのポリタンクをご丁寧に貫きながら俺によって来る。すかさずライターを投げ、俺は離脱した。


 先端に引火した炎は灯油の力を受けみるみるうちに他のロープに広がっていく。


 当然、その中心部にいる理子はひとたまりもないだろう。


政明「ファイアーフェスティバルだ……ま、宝具を捨てて離脱すれば軽いやけどで済むだろ」


 どこか苦しむ挙動のロープを尻目に、森に逃げ込む。だが、そんなことはさせないとばかりに炎に包まれたロープが村全体を包囲した。


 今度は意志を持つ生物的な動きではなく、意志を持った人工的な動きだ。


政明(何メーター伸ばせんだよ……、つか、この状況で逃げねぇのか!?)


 相打ち覚悟の戦法に恐怖を感じつつ、とりあえず身をかがめ空気を吸わないよう辺りを確認する。


 煙と炎しかない死地に、理子は平然と立っていた。なにも意に介することはないように、俺の方へと歩みを進める。


理子「宝具ってのは、基本的に壊れないんす。私の宝具はロープで、確かに燃えやすいっすけど絶対に質量は増えも減りもしないっす」


 つまり、無限に燃える資源だと。それがあればエネルギー問題は解決だとツッコみたいところだが、今は宝具よりも肝心な事がある。


政明(この温度と状況下でなんであいつは平然と歩いてんだ?)


 ホルダーとは人外を表す言葉ではあるが、決して化け物ではない。


 常人に水や酸素が必要なように、ホルダーもそれがなければ死ぬ。怪我をすれば瘡蓋ができるように、当然、熱気を吸い込めば喉は火傷し上手く呼吸できずに窒息死する。一酸化中毒にもなるだろう。


 だが、彼女にその気配はない。


政明(……なにか他の宝具、もしくは称号の力か)


 なんにせよ、このままではなに出来ず俺は敗ける。どこかで攻勢に転じなければいけない。



理子「おーい! まっさアキ君!! いい加減出てきなよ。この環境だからいうけど、私はこんな炎じゃ火傷もしないっすよー」


 環境という言葉で、俺は1つの称号の可能性に気づいた。


政明(そういえば……確かこんな状況で真価を発揮する称号があったな)


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