111 10の称号
政明・涼斗・穂塚は、3人で合流し鑑定事務所に来ていた。
交換師は帰っている。
穂塚「……もしかして、二人とも知ってたんですか? その……」
涼斗「ああ、夏芽に子供がいることは知っていた。まあ、そこまで重要じゃなかったから話さなかったが」
穂塚「そうですか……。そう……ですか。………………………クッソ!」
心から飛び出た愚痴を伴いながら、穂塚は地団太を踏んだ。それだけで地面に深い穴ができる。
涼斗「落ち着け……とは言わないが、台無しにするようなことはするなよ」
穂塚「……大丈夫だ。俺は冷静だ」
今にも血の涙を流しそうな穂塚だが、それ以降暴れることはなかった。
涼斗「よし、なら入りたまえ」
そして、現在に戻る
サイ「――で、綾都に戦争を仕掛けたってのは分かった。分かったが……なんでこんな急なんだよ!?」
涼斗「いい機会だったからさ。いつかは宝具を賭けて交渉なり戦争なりを仕掛けるつもりだった。それに、少し不快感を感じたんでね」
その発言にサイは眉をひそめた。
サイ(こいつが不快感を感じることもあるんだな)
政明「ちょうどよく【翻訳者】に会えたのも理由の一つだ。【冥色の誓約書】の専用効果は【翻訳者】か【賢者】しか使えないからな」
サイ「お前は帰ってきていいのかよ?」
政明「あっちからすれば、敵陣営の人間を側に置いてはおけないだろ。それに業務の引継ぎはすでに済ませてるから問題ない」
もともと綾都の現状を把握するためにタクトに頼んで俺は外交官になったのだ。今更必要ない。
政明「それよりも見ないホルダーがいるな」
凜はいきなり話を振られ、少し背筋が伸びる。
凛「は、初めまして。凛と申します。えっと……その、」
渚「ボクの新しい友達!」
凜が言いよどんでいるのを察して、渚は言葉を継ぐ。
涼斗「そうか、ようこそ世界の覇者の家へ。ゆっくりしていくといい」
凛「せ、世界の覇者!?」
凜は、渚の性格がこんなになってしまった大きな原因を発見した気分になる。
涼斗「それよりも、競技の内容だ。さあ、詳細を出したまえ」
穂塚に手を伸ばし、涼斗は誓約書を催促する。
穂塚「どうぞ」
涼斗「なるほど……競技内容は一旦おいておこうか。今確認すべきは――参加するホルダーの選定だな」
サイ「何人までなんだ?」
涼斗「何人というよりも、何個だな。称号数を指定している」
政明「今のところ、俺たちの抱えるホルダーは
俺、由美、涼斗、サイ、タクト、静香、秀二、穂塚、渚の9人か」
サイ「おい! うちの愛娘を頭数に入れてんじゃねぇよ」
渚「なんで!? ボクも戦いたい!」
政明「とりあえずで数えただけだ。今のところ参加できそうなのは8人か。あと二人いけるな」
そこで、全員の視線が一人のホルダーに向かった。
涼斗「凜君といったね。どうだい? キョウギに参加するつもりはないかな?」
凛「わ、私ですか?」
薄々感づいてはいたが、まさか誘われるとは……。渚さんが不機嫌になってますよ!
渚「なんでボクはダメで、凜はいいの!?」
涼斗「子供だからさ。さすがに小学生を戦いに巻き込むのは気が引けるからね」
まあ、正確には涼斗じゃなくサイが、だが。
政明(涼斗は年齢なんて気にしないからな)
穂塚「凜さんはなんの称号を持ってるんだい? 言わなくてもいいけど」
凛「【変態】……と【賭博師】です」
一瞬迷ったが、渚に隠し事もしたくなかったので打ち明ける。
私の称号を聞き、場の全員が目を見開いた。
穂塚「称号の2つもち……見るのは初めてですね」
涼斗「なら、凜君が出ればぴったり10の枠が埋まるな」
サイ「待ちな、勝手に決めてんじゃないよ」
サイは凜に近づき、優しく語り掛ける。
サイ「急な話でついていけてないかもしれないけど、凜は今戦争に巻き込まれようとしてる。当然、死ぬ可能性がある戦いだ。だから、この誘いは全然断ってくれて構わな――」
凛「いえ、全然参加しますけど」
サイの言葉を切って、なんてこともないように凜は参加を表明した。
凛(ホルダーだけで行う戦争には興味がありますし……それに、面白そうです!)
母親譲りの好奇心が後押しし、私は二つ返事でOKをする。
涼斗「よし! これで、メンバーは揃ったな」
未だに混乱しているサイのことなど気にせず、涼斗は早速タクトに連絡を取り始める
渚「ちぇー、ボクも出たかったな~。ボクが出れば絶対勝てるのに」
凛「さすがですね。では、当日まで皆さんを応援する役目を担うのはどうでしょうか?」
渚「確かに、ボクみたいな究極の存在に応援されたら絶対にモチベーション上がっちゃうね!」
もうすでに渚の扱い方をマスターした凜は苦笑しながらクッキーを食す。
政明「穂塚、この後レリウス総司令の【広瀬 静香】って奴が来る。やる競技の作戦立案はそいつとやるぞ」
穂塚「え、でも皆さんでやった方がいいのでは?」
政明「できるわけねぇだろ。脳筋フェスティバルだわ、俺ら以外」
サイや涼斗は血気盛んだし、タクトも考えるより先に体が動くタイプだ。唯一、秀二くらいは話を聞いてくれるが、もともと無気力なので頑張ってくれるか微妙なところ。
政明「それに、俺もけっこうこの戦争には思い入れがあるんでな」
6年前、やすやすと取られた【虹のルーレット】を思い出して俺は拳を強く握りしめるのだった。
政明「そういえば、凜が敵のスパイや寝返る可能性は?」
渚「アキ兄ちゃんは心配性だな~。大丈夫でしょ」
政明「けど、このタイミングで偶然ホルダーに会うなんて仕組まれているような――」
渚「大丈夫だよ!」
政明「しかし……」
渚「大丈夫!」
政明「……」




