112 孫
夏芽「な、なにがあったんです!?」
夏芽は、夫の執務室に置かれた大量の紙束を見て愕然とする。
ハジメ「ん? ああ、夏芽か。少し考え事をな」
夏芽「えっと……つまり?」
麦「――戦争だよ」
随分と低い声の中年の声が後ろから聞こえてきた。【ホーム】のボス、【亡霊】の称号を持つ麦だ。
麦「ついさっき、【カーニバル】とかいう連中がホルダー同士でのキョウギを申し込んできやがった。で、旦那はそれを受諾。今まさに人員集めで忙しいのさ」
麦は豪快に笑いながらタバコを取り出す。
夏芽「ここは禁煙です」
麦「いいじゃねぇか一本くらい」
夏芽「成美に受動喫煙させるつもりですか?」
ワントーン下がった音程で夏芽は麦を睨みつける。
麦「おっかない顔するね君」
麦は観念したようにタバコをしまい、ハジメの資料を一つ手に取る。
麦「戦争だが、当然【ホーム】からも人員を出す。金は貰うがな」
ハジメ「分かっている。それと、我が国に所属しているホルダーも動員する。今のところのメンバーは――
【君主】【賢者】【亡霊】【遊泳者】【伝達者】【盗賊】【決闘者】【勇者】【剣聖】だ。数年前なら【翻訳者】にも連絡を入れてたんだがな」
今のところ、アポが取れているホルダーを確認する。
麦「あのイカれた女に連絡が取れたのか」
ハジメ「基本的に金さえ積めばなんでもする傭兵みたいな女だからな、約束を取り付けるのは容易い」
夏芽「でも、今のままじゃ9つの称号しかありませんよ?」
麦「いや、参加できる限度が10ってだけだからな。最悪9つでも問題はねぇ」
ハジメ「そのとおりだ。だが、その点については問題ない。既に最後の一人については目星をつけている」
ハジメは夏芽に一枚の紙を渡す。
夏芽「えっと……綾都最大の樹海に巨人の目撃証言――これってまさか」
ハジメ「ああ、恐らく【巨人】のことだろう」
数日前にSNSの話題をかっさらった事例をまとめたレポートを前に夏芽は目を大きくする。
ホルダーの中でもトップの怪力と巨体を兼ね備える巨人。当然、仲間に引き入れたいところだ。
麦「残念なことに、他のホルダーは見つからなかった。【浮遊者】なんかは確保しておきたかったがな」
ハジメ「今更気にすることはない。それよりも、なんとしても【巨人】を確保する」
麦「任せときな旦那。うちの部下を行かせよう」
ハジメ「いや、悪いが既に手を回してある」
麦「お? まさか、国の軍隊を出したんじゃねぇだろうな。やめとけ、どうせ役に立たん」
ハジメ「阿呆が。そんなわけないだろう。まあ、軍人であることに変わりはないがな。ホルダーにはホルダーだ」
夏芽「――ああ、そういえば昨日から彼の姿を見てませんね」
どこか納得したように夏芽が手を叩く。それに釣られて麦もなにかに気づいた。
麦「なるほどな。確か今年で16とかだろ、あのガキは」
ハジメ「今では優秀な我が国の軍人だ」
麦「ま、確かにあいつなら問題ねぇだろ。なんせ、あのイカれた女に次いで史上二人目だからな。二つの称号を持ってるのは」
ハジメ「ああ、彼なら問題なく仕事をこなしてくれるだろう。あの男の孫だ」
夏芽「いえ……もしかしたらそうはいかないかもしれません」
どこか楽観的に考える二人とは対照に、夏芽は雲行きが怪しくなる空を見上げてそう呟くのだった。
読者の皆様、ここまでお付き合いいただき誠にありがとうございます! 常識外れのバケモンです。
突然の報告となりますが、次回の準備・執筆に集中するため、今話をもって少しの間、連載を休憩させていただきます。
現在、皆様に楽しんでいただけるよう鋭意執筆中ですので、どうか気長にお待ちいただけると幸いです。皆様の応援のおかげで、ここまで書き続けることができました。いつも本当に感謝しています。
また次の話でお会いしましょう!




