110 最悪の出会い
政明「……で、説明してくれんだろうな涼斗」
部屋を出てすぐ、俺は諸悪の根源に電話を掛けたのだった。
政明「金を積めば移動を代行してくれる【交換師】はともかく、誰だあの男」
涼斗『俺の古い知り合いだよ。まあ、かなり長い話し合いになるだろうし知ってる範囲で話そうか』
涼斗の話は、俺の予想を遥かに凌ぐ内容の話だった。
涼斗の姉の話。姉の初恋の話。穂塚という男のこれまでの軌跡。そしてハジメに挑むキョウギの話。
政明「――なるほどな。つまり、簡単に言や穂塚は好きな女を取り返すためにハジメと交渉してると」
政明(それは……残酷だな)
涼斗『そうだ。まあ、それに俺たちの目的も一緒に入れさせてもらったが』
政明「いや、クラウンゲームを手っ取り早く攻略するなら全面戦争は避けられねぇだろ。なら、あの宝具で代用するのが平和的だ」
【冥色の誓約書】
効果 ゲーム参加者との強制契約。
専用効果 キョウギの主催。
専用効果、キョウギの開催とはつまり『協議』と『競技』の意味だ。代表者が競技について協議し、決まったルールのもと争いをする。
互いの参加人数、賭ける宝具、競技の種類、それらを決めて行う。【解析者】のサイ曰く、なんでも【冥色の誓約書】には異空間を作り出すことができるらしく、決めたルールをその空間で行うことができるらしい。
決して安全というわけではないし、互いに死合いを望めば殺される可能性もあるだろう。平和的な競技になることを祈るしかない。
政明「それはそうと涼斗。お前、あのことを穂塚に言ってないのか?」
涼斗「どれのことを言ってるのかは分からないが――まあ、確かに言ってないね」
涼斗にしては珍しく脈絡が合わない返答をしてくる。
政明「分かってんだろ。夏芽さんとハジメさんの間には――」
そこまで言った辺りで、俺の耳が執務室のドアが開く音を聞き取った。
もう終わったのかとそちらを見れば、予想外の光景が映った。出てきたのではなく、入ったのだ。6歳ほどの少女が。
政明「やば」
―――
ハジメ「競技内容はこんなものか。まあ、貴様が約束を守るのならな」
穂塚「大丈夫です。競技開催まではありとあらゆる全ての妨害行為や攻撃が禁止されます。それが【冥色の誓約書】です」
フンッ、と息を吐きハジメは俺を睥睨する。
ハジメ「そうだな。まあ、この誓約書の効力は知っている。今、俺と貴様で誓約すれば問題ないだろう」
ハジメと穂塚は、互いの陣営が相手に対して攻撃・妨害を行わないことを約束した冥色の誓約書にサインをする。
ハジメ「もう一度確認するぞ。
競技開催は一週間後、5月15日。
登録可能な称号の数は10。
宝具の持ち込みは自由。
賭けるのは、互いの陣営が持つ全ての宝具。そして夏芽に関する全ての情報だ。」
穂塚「ええ、それで問題ないです。指定の時間に【交換師】の力でこちらにお邪魔します」
ハジメ「よし、ならばさっさと帰れ。こっちは忙しいんでな」
言われなくても、と思いながら穂塚は席から立ち上がる。その時、執務室のドアが静かに音を立てて開いた。
聞き耳を立てていた政明が入ってきたのかと思い、軽い気持ちで、俺はその方向を見た。
穂塚「……え?」
そこには、金髪赤目の一人の少女がいた。年は6歳ほど、肩までかかるセミロングの髪を靡かせて入ってきていた。
そしてなにより――夏芽さんに似ていた。
ハジメ「っ!? 成美、ダメだぞ勝手に入っちゃ!」
さっきまで垂れ流していた威厳はどこへやら、ハジメは慌てた様子で少女のもとへ向かう。
それに続くように、部屋の外から政明が入ってきた。
政明「悪い、ホルダーの気配がしてなかったから油断した」
政明は、少しばつが悪そうな顔をしながら俺の方を向く。
成美「ぱぱ~、遊んで!」
屈託のない笑みを浮かべながら、成美ちゃんはハジメの腕に飛び込む。
ハジメ「ちゃんと勉強はしたのか?」
成美「うん! ママが教えてくれたの~」
穂塚「……お、おい。……その子供は、もしかして」
ハジメ「ああ、悪いな。こいつは成美。俺の子供だ。今年で6歳になる」
政明は、穂塚の顔が見れなかった。一体どんな顔で彼の顔を見れるだろうか。ずっと探し続けてきた最愛の女性が結婚し、子供までいたなど、普通は脳が理解するのを拒む。
ハジメ「実はまだ、こいつのことは世間に発表してない。まあ、そもそも我の結婚相手の身元が不明だからな。とりあえず、ほとぼりが冷めるまで人目からは遠ざけてる」
夏芽との結婚発表で、かなり国内で賛否両論が分かれたのだ。出産報告は慎重にならざるをえなかった。
穂塚「そ、そうか……。その、名前は……君が決めたのか?」
ハジメ「変なことを聞くな? 成美という名前は妻が決めた。なんでもピーン!と閃いたらしい。――そういえば貴様も同じ名前……」
どこか気まずくなりそうな雰囲気、そんな時にまた空間に紫の輪が出現した。
弘人「じゃーん! 呼ばれて飛び出た【交換師】だ。話し合いは終わったのかね?」
政明に寄り呼び出された弘人が、空気を読まずに声を出す。
政明「必要な話し合いは終わった。帰るぞ……それでいいな? 穂塚」
穂塚「ああ……そうだね」
とても重苦しい空気を纏った穂塚を連れ、俺たちはその場を後にするのだった。




