108 【翻訳者】
クラウンゲームの称号には、取得することが困難なものや不可能なものがいくつかある。
その理由として真っ先に挙げられるのが、生まれながらの身体的特徴が称号取得に大きくかかわってくるからだろう。
例えば【聖女】。名前から分かる通り、女性でしか称号を得られない。【巫女】に至っては血筋まで要求される始末だ。
また、性別以外にも2m以上の身長が必要な【巨人】や赤子の頃から言語を習得しなければいけない【裏切者】など、当人の能力や個人差によるところも大きい。
それ以外だと、特殊な条件を満たす必要のある称号もある。一か月間一人でサバイバルしなければならない【適応者】、宇宙まで行かねばならない【浮遊者】、自殺しなければいけない【不死】など、達成が困難なものや達成する過程で命を落としかねないものもある。
さらに、ずっと人前で笑顔にならなければならない【道化師】や人外の力を持つホルダーをぶっ倒さなきゃいけない【違反者】など、常人にはまず不可能な条件を突き付けてくるものもある。
そんなクラウンゲームだが唯一、常人が死ぬリスクもなく努力だけで勝ち取ることができる称号が存在する。
それが【翻訳者】だ。
称号取得条件は『独自の言語を開発すること』。性別も身体的特徴も無理難題もない、シンプルかつ誰でも行えるのが言語開発だ。
だが、それ故にかなりの難易度がある。単語量や文法にもよるが、言語の開発には最低でも数年はかかる。
そしてこの【翻訳者】という称号、ただ数千個単語を作るだけではダメなのだ。
日本語や英語並みに語彙と文法を充実させねばならない。当然、生半可な出来栄えの言語では見向きもされず、ただひたすらその言語に向き合わねばならない。
それゆえにこの称号は真に努力したものしか得ることができないと言われている。
つまり何が言いたいのかといえば、この称号を持つ人間は世界有数のバケモンであり、命をかける覚悟を持つ者でないと得ることが出来ない称号であるということだ。
―――
時は少し遡り
涼斗はレリウス王都からかなり離れた小さな町に来ていた。
のどかな雰囲気と豊かな自然が売りのここで待ち合わせをしているのだ。
木製の温かみあるカフェに入り涼斗は辺りを見回す。
店員「いらっしゃいませ。何名様でしょうか?」
涼斗「待ち合わせをしている。穂塚という男だ」
店員「かしこまりました。こちらになります」
店員は笑顔を浮かべながら、目的の席へ案内する。
店員「ご注文の際はお呼びください」
そして、深々と頭を下げてから厨房へと消える。
俺はそれを見送って席へと座る。
涼斗「やあ、穂塚君。久しぶりだね」
穂塚「そうだね。集合時間ぴったりだよ涼斗君」
涼斗が来る少し前から待機していた穂塚は返事をする。
涼斗「それで、一体なんの用かな? あまり俺も暇ではないんだが」
呼び出しをしたのが家族や昔の友人ならにべもなく断っていただろう。だが、あの夏芽が認めた男、しかも用件がクラウンゲームについてだ。行かないわけにもいかない。
穂塚「そうだね、ところで驚かないのかい? 俺がホルダーになってることに」
涼斗「まったく? 君ならいつかホルダーになるだろうと思っていたさ」
穂塚「まったく……君たち兄弟は買いかぶりすぎだな」
苦笑しながら穂塚は本題を話す。
穂塚「用件は――綾都にいる夏芽さんに会いに行くことだ」
涼斗「……それで?」
穂塚「もう少し驚こうか、人として」
10年以上行方不明だった姉についての情報だというのに、なぜそこまで冷静なのか。
涼斗「夏芽が生きていることは予想がついていたからな。驚くことでもない」
穂塚「なら、これも知ってるかな? 夏芽さんは今、綾都の王族に嫁いでいる」
涼斗は若干眉をひそめる。
涼斗「……詳しく聞こうか」
穂塚「数年前に王位を継いだ【青鹿 一】の嫁として夏芽さんは生きてる可能性が高い」
涼斗「驚いたな」
夏芽についてではない。――穂塚君について、だ。
確か、穂塚君は夏芽に好意を抱いていたはず。それを、こうも冷静に話すか。
アラサーとはこういうものなのかな?
穂塚「だから、君の力を借りたい」
涼斗「具体的には?」
穂塚「君たちについて少し調べさせてもらった。どうやら、【冥色の誓約書】を持ってるらしいね」
涼斗「ああ、なるほど。確かアレの専用効果は――確かにそれなら比較的穏便だね」
【冥色の誓約書】
効果 ゲーム参加者との強制契約。
専用効果 キョウギの主催。
【冥色の誓約書】の専用効果はキョウギの主催。これを使えば、穏便にホルダー同士で戦争を行うことができる。まあ、比較的に、だが。
涼斗「で? つまりは夏芽を奪うために【冥色の誓約書】を貸してくれってことか?」
穂塚「いや、そもそも夏芽さんは俺の物だ。奪うんじゃなく、取り返す」
涼斗「いいねぇ。その顔が君の本音なのかな?」
穂塚君の顔は、出会ってから一番好戦的で覚悟に満ちた顔をしていた。
涼斗「面白い。せっかくだし、君の策に俺たちも一枚噛もうか。まあ、貸し出す条件みたいなものだよ」
穂塚「どういうことだ?」
涼斗「恐らく、穂塚君は【冥色の誓約書】を使ってハジメ君やら傭兵の【ホーム】やらと戦い、夏芽を取り戻すのが目的だろう?」
穂塚はなにも言わずに頷く。
涼斗「せっかくだ。夏芽だけを取り合うんじゃなく、この際すべてを賭けよう」
穂塚「全部……ってまさか!?」
涼斗「そう――こちらの宝具を全て賭ける。俺たちと綾都の全面戦争だ」




