105 血のつながった他人
外界では人知を超えた戦いが繰り広げられていた。
凛の腕が6本に分裂し、それぞれが刃物に変わったかと思えば次の瞬間にはそれが切断されていた。
渚(いや……ボクには見える)
ボクの体に憑依した信矢さんが鉄パイプを振り、それによって出来た真空波によって腕を切断したのだ。うん、自分で言っておきながら訳が分からない。
渚「なに……あの人。あんな剣術見たことない」
深玖「さすが、シン君の――あ、いや……さすが目が良いね!」
深玖の目にはなにか白いものが高速で動き回っているようにしか見えないが、渚の目にはその全ての動きがしっかりと見えていた。
渚(右からの袈裟切り、からの刺突、そして足払い――いやそれはフェイクで真空波)
あまりにも情報量が多い。一体、信矢とは何者なのだろうか? いや、そもそもそれらの攻撃を捌ききっているあの凛って人も相当ヤバい。
信矢「あまり、この体に負担はかけたくない。早く終わらせるぞ」
凛「へぇ、早漏なんだ」
信矢の斬撃に対して、凛はコラーゲン繊維と血小板を結合させ凝固させた血液を飛ばして応戦する。
信矢「チっ……二代目 連撃刺突!」
信矢は目にもとまらぬ速さで、鉄パイプを凛に向ける。だが、凛の表面に分泌された粘液によりまともなダメージは与えられない。
凛「そんな鈍器じゃ私にダメージは与えられませんよ。まあ、刃物を持っていない時点で君の負けは確定しているんですけど」
信矢「ピーピーうるさいな。混ざりもの癖に偉そうな口を」
信矢の悪態にも似た悪口に、凜は少し驚いた表情を作る。
凛「……どういう意味ですか?」
信矢「そのままの意味だ。さっきから、お前の体は妙に統一感がない。称号の力でごまかしてんだろうが、俺の目は誤魔化せん」
渚(うん。確かに変だった。真空波を迎撃したとき右足が1センチ後退しながら血飛ばしてたし、さっきも戦闘を回避しようと体が4度傾いたけど粘液で凌いでたし……)
違和感があったのは確かだ。
深玖「いや、ちょっと待って。なにかな? 君たちには一体何が見えていたのかな?」
どう見ても違和感なんてなかったし、あったとしてもコンマ1秒にも満たない時間でしょ。わかんないよ。
信矢「俺たちと同じように、お前の中にも誰かいるんだろう?」
凛「……面白いね。でも、それだけ観察眼が鋭いってことはこの戦いの結末も分かってるんじゃないの?」
信矢「…………」
信矢はなにも言わずに冷や汗を流す。
今までだましだましやってきたが、そろそろ限界だ。
信矢「……ゴパッ」
信矢の口から赤黒い血が吐き出された。口の中いっぱいに鉄の味が広がる。
凛「そっちは観察のスペシャリストかもしれないけど、こっちは生体のプロフェッショナルなの。さっきから体に負荷がかかる攻撃ばっかしてたけど、それじゃ体は持たないよ」
信矢(お見通しかよ……)
出来れば、さっきの連撃刺突で仕留めたかった。俺が生きてた頃と同じ感覚で技を使えば、未熟なこの体じゃすぐに限界が来るのは自明の理。
思わず手から力が抜け、鉄パイプが音も立てて地面に落ちる。
信矢「……投降する。見逃してくれ」
深玖『いや、交渉へたくそか!』
凛「無理でーす! そろそろこの子にも、人殺しをさせなきゃいけないと思ってたんですよ。さっきはもう少しのところで逃げられちゃったけど、君は逃がさないよ。まずは足の健を切って逃げられないように。そしてゆっくりと調理していかなきゃね」
愉快に笑いながら凛は手を刃物に変形させこちらに詰め寄ってくる。
渚『ちょっと代わって!』
どうしようもなく手だてがないこの状況で、渚は鶴の一声をあげた。
そして無理やり体の主導権を握ると、痛む体を無視して鉄パイプを拾い上げた。
信矢『な、なにをしてる!?』
渚「さっきからさ、なんかボクの体は限界とか、未熟とか、投降とか。なんでそんなつまらないレベルで君たちは会話してるの?」
凛「うん? そっか、また人格が代わったのか」
深玖『まって渚! まだ、間に合うかもだから。必死に謝ればきっと……』
渚「あなた……というか母には聞いてない」
渚の予想外の一言に、深玖は二の句が継げなくなる。
信矢『気づいてたのか?』
渚『そりゃ身内だもん。だから、父がボクの体を気遣って全力で戦えないのも分かってる』
渚「正直、むかつくんだよね。なんで、誰かが勝手に決めた尺度でボクの限界を決めつけるのか。ボクの限界はボクが決める」
完全にリョウトの受け売りだが、ボクはこの言葉が好きだ。やはり、自分のことは自分で決めたい。こんなピンチな状況だが、やっぱり最後は自分で締めたいのだ。
凛「残念だけど、その尺度は他人が勝手に決めたものじゃないんだよ。他でもない親が決めたこと。最近私も自覚してきたけど、やっぱり自分の子供は自分の予想の範疇を出ないよ。だって、誰よりも早く長く接してるから」
渚「……じゃあ、所詮血の繋がっただけの他人だってことを今から証明してあげよう」
尊大な顔を作り、ボクは一歩踏み出したのだった。




