103 涼斗さん、あなた確実にお子さんに悪い影響を与えています
涼斗(懐かしい記憶だな)
高校生の頃の出来事を思い出して、俺は夢から覚める。
涼斗「……今日も7時きっかりだな」
あの戦争から6年。窓を開け、すっかりと街の外観を取り戻した鑑定事務所の外を眺める。
涼斗「なーんか変な記者から質問を受けた気もするが……まあ気のせいだろう。それよりも、朝ごはんだな」
事務所のリビングに降り卵焼きとご飯をよそい、弁当も用意する。
涼斗(慣れれば10分もかからないな)
そして、全ての準備を終えた辺りで俺の部屋とは別の部屋から、寝巻姿のサイと【巫女】の称号を持つ6歳児の渚が手をつないでやってきた。
野性的な威圧感を持つサイは寝ぐせを気にも留めず欠伸をする。
サイ「相変わらず、とんでもなく上手そうな朝飯だな」
渚「ま、ボクが作った方が絶対美味しいだろうけどね!」
『ふふん!』と鼻で息をする幼女【渚】は足を組みながら、箸を手に持つ。
小さいながらも生命力にあふれた瞳に、ボーイッシュな髪型の渚は目を輝かせながら美味しそうにご飯を食べ勧める。
サイ「……この尊大な態度は誰に似たんだろうな」
涼斗「なぜ俺を見る。自身があるのは素晴らしいことだろう。親としては誇らしい」
サイは内心で大きくため息をする。
サイ(なんでアタシがこいつと夫婦になってんだよ)
6年前の、保護者を決める大会。
渚に一番懐かれた者が親になるルールで涼斗は見事に選ばれた。いや、選ばれたというより多分顔で判断されたな。
あの場で唯一、政明以外にだっこをしたのがこいつなのだ。赤ん坊だった渚にとっても知った顔である涼斗を選ぶのが定石だろう。
そしてそれから数年、皆が心配していたような病気が合併症を引き起こすこともなく、すくすくと健康に成長してくれている。
サイ「ああ、まあ確かに自信があるのはいい。けどな、限度があるだろ! お前の悪いところを完全に真似してるぞ!」
涼斗「真似のなにが悪いんだい? 人類はそうやって学んできた」
サイ「まねる相手がお前なのが悪いんだよ。もっと適任がいるだろ」
涼斗「恐らく、渚も本能的に分かっていたんだろう。俺が生物として最も優れていることを。優秀な生物の真似をするのは癖のようなものだ」
ダメだ、話が通じない。
サイ「そうかいそうかい。これ以上は無駄話だな」
アタシも席に着き、まあまあ――いや店で出るレベルの朝ごはんを頂きながら今日のことについて考える。
サイ(由美や静香たちは城の公務で忙しいし、政明は綾都に出張。明日から小学校はゴールデンウイークだから、色々と準備しないと)
涼斗「……ああ、そうだ。俺はこの後用事があるから、あとのことは頼む」
思い出したように涼斗は身支度を進める。
渚「え……パパ行っちゃうの?」
消え入りそうな声で渚が涼斗の足にしがみつく。こういう可愛いところまで涼斗に似なくてよかったと本当に思う。
渚「いつ? いつ帰ってくるの!」
涼斗「落ち着きたまえ渚君。明日には帰るさ。作り置きのご飯があるからそれでも食べて、夜はしっかりと歯磨きしろよ」
渚「わ、分かった……。ま、まあ全然ボクは寂しくないけどね。なるべく早く帰ってきたまえ」
『ニパー』と笑顔を咲かせて渚は自席に戻る。
サイ「おい、用事ってなんだ?」
涼斗「別に、そこまで大したことじゃないさ。まあ、もしかしたら長引くかも程度のことさ。それとも、俺の手料理が食べれなくて悲しいのかい?」
ギクリとしながらも、アタシは平静を装う。
サイ「別に、ただ渚が悲しむと思ってな」
涼斗(……? なぜ渚が悲しむ程度のことで俺が配慮しないといけない?)
などと涼斗は心の中で考えるが、それを言ってしまうのは渚の教育上良くないのは学んでいるので、心の中に留めておく。
涼斗「まあ、それなりに早く帰ってくるさ」
涼斗の出かける姿を見送ってから、アタシはリビングに戻る。
サイ(っていうか、なんでアタシが見送りに行ってんだよ。夫婦か!)
いやまあ実際法律上は夫婦なのだが。だが、お互いにそんな特別な感情など抱いていない完全にドライな夫婦だ。
こんなかりそめ家族で渚がしっかりと育つのか、今の心配事はそれだ。
渚「あ、ママ! ボク洗い物しておいたよ」
渚が褒めてほしそうな顔をしながら、小走りで駆けよってくる。可愛すぎないかマジで。
サイ「え、ありがとう! 助かるよ!」
めちゃくちゃに頭をなでながら、アタシは心の充電を満タンにする。これで一週間はなにがあっても頑張れるな。
撫でられた渚は、顔を綻ばせながら抱き着いてくる。
渚「じゃあ、そろそろ行ってきまーす!」
渚はランドセルを背負い元気よくドアを開ける。
サイ「車に気をつけろよー」
渚「うん!」
まあ、もし事故に会ってもホルダーである渚にけがはないだろう。
だが、大型トラックなど質量の大きいものはそうでもないので注意を促して損はないのだ。
サイ「アタシも仕事を始めないとね」
看板を出して、鑑定事務所の営業を始めるのだった。




