3-8【レヴィアタン海戦】
お膳立てをしたと、そう告げてくるシロウ。レヴィアタンが俺達を狙ってやって来たのは、何かをした、そういう事で間違いないなさそうだ。
「何を考えてる! わざわざ呼び寄せやがって!」
「なんだ? 今更怖気づいたのか?」
「そんな事を言ってるんじゃない、相手にしないで済むならそれで良いだろう!」
「おいおい、相手は俺じゃないだろう。ほら、来るぞ」
シロウに掴みかかろうとするが、それをいちいち待ってくれるレヴィアタンでもない。空気を読まず再び突進しようとするレヴィアタン。
「海流操作でなんとかズラす事は出来ないか?」
人魚に聞いてみるものの、首を横に振るだけ。まぁ、あのサイズだ。多少の海流なんてものともしないだろうな。
再び衝撃にそなえ、船全体に障壁を張っていく。それに気付いたのかレヴィアタンは、首を上げ、顔の前に海水を集めていく。
「ブレスです! 気を付けてください!」
人魚がそう警告してくる。一点集中なら破れると踏んだんだろう。
放たれるレヴィアタンのブレス。集めた海水に魔力を込め直線上に放射する、単純だがそれ故に必殺の一撃だろう。並の船なら、木っ端微塵になりそうな一撃だ。
「ぐっ……おおおおお!」
障壁とせめぎ合うブレス。俺は追加で魔力を込め、破られまいと全力で抵抗する。余波で船は大きく揺れるが、何とか転覆する事も突き破られる事もなく耐えきれた。
「流石に連射は出来ないか。なら、お返しだ!」
紫電一閃、俺の手のひらからレヴィアタンに向け雷が迸る。
反撃など想定していなかったのか、直撃を受けるレヴィアタン。とはいえサイズがサイズだ。若干の鱗を削り肉を焼いたものの、さほどダメージは受けていないように見える。
「ふむ……やはりお主一人では荷が重そうじゃの」
魔王がそう言って魔力を込め始める。
「殺すなよ。逃げる程度で良い」
「おや、それで良いのか? まぁ、そこな狐の思惑に乗るのもシャクじゃしのぅ」
チラリとシロウを見るが、相変わらず飄々とした態度を崩さない。一体コイツが何を考えてるのかわからない。
「さて……厄災と呼ばれるならば、この程度、軽く耐えて見せよ」
魔王の放つ、光の奔流。それはレヴィアタンの眼前で分裂し、幾条もの光の帯となって突き刺さる。
一撃一撃が俺の魔法以上の威力。相変わらず底無しの魔力である。
さすがのレヴィアタンも無事では済まず、傷口からダクダクと血を流しつつ、その身を海中へと隠す。
「へぇ……ただの子供かと思いきや、とんだ隠し玉だったな。だが、まだ終わりじゃなさそうだぜ?」
シロウの言葉に呼応するかのように、船は大きく揺れ、取り囲むように海からはいくつもの水柱が上がる。
「ふむ、少し加減が過ぎたかの」
「余裕かましてる場合か! 来るぞ!」
水柱は船の上空で一つになり、その大質量を持って押し潰そうと降り注いでくる。先程のブレスとは比にならないサイズ、そして魔力だ。あるいは魔王の一撃にも匹敵するかもしれない。
「お主よ、いけるか? 無理ならばワシが防ぐが」
別に魔王からすれば何も含んでいない一言だろう。俺が駄目なら自分が代わる。その程度の話だ。実際その方が安全で、確実だろう。だが――
「そこまで言われてハイそうですかと代われるか!」
ただのプライドだろう。後から考えれば愚策でもあった。だが、それでも、自分で防ぎたかった。レヴィアタンを倒す事は難しくても、せめて船を護る位はしたかった。
障壁を上空に展開。二重三重に重ねていく。その上から、降ってくる水を逃がす様に障壁を展開し衝突に備える。後は俺の魔力との勝負だ。
「絶対に防いでみせるから、後は任せたぞ」
「カカッ、よう言った。たまには格好の良い所を見せてもらおうかのぅ」
そう言ってニヤリと笑う魔王。
決壊した堤防から濁流が流れる様に、全てを押し流そうと質量という暴力が、魔力を纏い押し寄せてくる。
そして障壁に触れた瞬間――その刹那にごっそりと魔力を持って行かれるのを感じた。
「ぐっ……!?」
左右に別れた水が轟音を立て海へと落ちていく。しかし留めどなく襲い来る水流は、容易に俺の魔力を奪い取っていく。
絶対的な力の差。それは子どもと大人に体力差がある様に、種としての、生物としての差。単純に体力勝負をした所で勝ち目は薄い。
ならば、その差を詰めるには、どうすれば良いか。
――内にある力が足りないなら、外から補えばいい。
魔力増幅剤という薬がある。製造法は不明だが合法的な手段で無いことは確かだろう。
かつて魔王を目覚めさせる時にも使用したアレだ。
代償は身体への負担だが、今この場においてそんな事を気にしている場合じゃない。
手持ちは三本。一度に複数使った際の代償はこの際覚悟する。
それを三本纏めて飲み干し、失った魔力を補う。増えた魔力を全て障壁に注ぎ込み、ギリギリの所で踏ん張ってみせる。
「いい……加減、終われっ……!」
それでも水流は尽きる事なく降り注ぐ。魔力が尽き、障壁が一枚、二枚と破られ最後まで迫った時、ようやく手にかかる重みが消えた。
「はあっ……はあ……」
増幅剤の影響もあり身体が鉛のように重い。レヴィアタンは依然健在だが、連続して撃ってくる様な事が無かったのが救いだった。
「良うやったの、後は任せよ」
「すまん……頼んだ……」
座り込んだ俺の頭を魔王がポンポンと叩いてくる。子供扱いされている様だが、振り払う体力も無かった。
「さて、次はワシが格好の良い所を見せねばの」
そう言うと魔王は手のひらから二つ、黒い塊のような球体を生み出す。それはくるりと魔王の周りを一周したかと思うと、爆発的な加速を持ってレヴィアタンに向かっていった。
レヴィアタンは危機を感じたのか避けようとするが、黒球は逃さないとばかりに追いかける。
そしてレヴィアタンに追いついた瞬間、巨大な闇が生まれ、海水ごとレヴィアタンを閉じ込めるように覆っていく。
「ふむ……ちと重いが、まぁ問題ないの」
魔王が腕を振り上げ、投げる様な動作をとる。連動するように、闇はレヴィアタンごと遥か彼方へ吹っ飛んでいってしまった。巻き添えでごっそりと削られた海面に、思い出したかの様に水が流れ込む。
「えええええっ! 何したのよ、ちびっ子!」
フィーナが魔王に詰め寄るが『やかましい』と頭を叩かれ甲板に倒れていた。加減をしてやれ加減を……。
「こんなもんかの。残念だったの狐よ……おや、狐の姿が見えんの」
魔王の呟きにザッと辺りを見渡すが、シロウの姿は忽然と消えていた。ウォルナックやフィーナに目配せし、船内を探してもらうが、シロウの姿はどこにもなかった。
「どこに消えたって言うんだ……」
「まぁ、良いのではないか? あ奴が何かを企んでいたのは事実。用があるならまた姿を現すじゃろう」
わざわざレヴィアタンを呼び寄せたシロウ。目的がわからずじまいで一抹の不安は残るが、のんびりとしていたらまたレヴィアタンが戻って来るかもしれない。
ともかく今の内にさっさとアストラに向かうとしよう。人魚に頼み、俺達はアストラへ船を進めはじめた――。
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