閑話2【お使いパニック】
閑話その2です。
スライム騒動から暫く経った頃、街がにわかに活気付き出した。少し遅いが、国王戴冠の祭りが行われるらしい。
久しぶりの祭りな上、一度国王を引いた件や、住民を不安にさせたお詫びも含め、今回の費用は国持ちという事で皆張り切って準備を進めている。
俺達は特に店を出すわけでも無いので、素直に楽しむつもりだ。
魔王は出店を制覇するなどと言って、出店予定地のルート確認に余念がない。どうでもいい……いや、良くはないが、その金は誰が出すんだろうな。俺か?
「うーむ、素直に順番通り行けば漏れは無いじゃろうが、万が一売り切れでもしたら悔やみきれん……。やはり先に有名店に行くべきか……」
「でもリリィちゃん、有名店は並ぶでしょうから、先に周りを攻めるのも良いんじゃ無いですか?」
ティナも一緒になってウンウン頭を悩ませている。城から帰って以来、妙に仲が良い。いや、別に除け者にされたからって寂しい訳じゃ無いぞ?
「やはりアヤツにに並ばせておいて、その間にワシらは周りを攻めるのが得策かのぅ」
魔王が横目でこっちを見ながら物騒な事を言ってくる。
いや、面倒な所だけ押し付けてんじゃねぇよ……。
「流石にそれはアレウスさんが可哀想じゃ……」
ティナの優しさが心に沁みる。どこぞの魔王にも見習って欲しいもんだな。
「ふーむ……全て回るには人手が足らんのぅ。かと言って他に知り合いもおらんしな……ん? そうか、足りないなら増やせば良いか」
「増やす……ですか?」
「うむ。まぁ見ておれ」
そう言うと魔王は、先日偶然生まれてしまった例のスライムを手に取る。ちなみにコイツにも意識や自我といったものはちゃんとあるらしく、俺を捕食しようとしたのは目覚めた時に誰もいない寂しさからだったらしい。
その後魔王が躾け?をした結果、今ではすっかり大人しくなり、最近は窓際でプルプルしている。何でも日向が好きだとか。
特に害も無くなったので、クロちゃんクロちゃんと、ティナが良く世話をしている。
魔王がなにやらクロと話し込み、意見をすり合わせているようだ。どうでも良いけど人形に話しかける子供みたいだな……クロは喋れないから完全に魔王の一人遊びだ。
「よし、クロよ! 試してみよ!」
魔王がそう宣言すると、クロの体がグネグネと動き、質量を増していく。あっという間に魔王と同じ位の女の子になってしまった。元々が真っ黒なスライムだからか、真っ黒な髪の毛を腰の当たりまで伸ばした、どことなく魔王に似た女の子だ。しかし――
「おい魔王、肌まで真っ黒なそのスライムを外に出す気か?」
そう、髪の毛のみならず、瞳や肌、全てが黒い。まるで影が歩いているようで、不気味極まりない姿になっている。
「そう焦るなお主よ。ここからが混沌スライムの面白いところじゃ。――人の姿じゃ、わかるな?」
魔王がクロに話しかけると、あっという間に色がついた。髪の毛は艶のある黒に、肌は雪のように白い。瞳はやや紫がかっているか? やたらとフリルのついた黒いドレスの様な服まで着ている。ぱっと見は普通の少女だった。
「きゃあ! クロちゃん可愛いですね!」
ティナが変貌を遂げたクロにはしゃいでいる。
「フフン。コレが混沌スライムの力よ。コヤツには様々な因子が含まれているからの。姿形は思いのままじゃ」
「なるほど……しかし大丈夫なのか? もし街で暴れたりでもしたら」
「その点はしっかり言い含めておくからの。まぁ、大丈夫じゃろ」
しかしクロは無表情でコチラをじっと見ている……。人手を補うと言っていたが、役に立つのか?
「生憎喋ることは出来んが、身振り手振りで何とかなるじゃろう。もし襲われてもそこいらの兵よりよっぽど戦力は高いしの」
まぁ、誰かついてたら襲われる事もそうそう無いだろう。まさかこの子が魔族だなんて思いもしないだろうしな……。
「ひとまず実験がてら今日の飯でも買って来て貰うかの。……お主よ、なにをぼさっとしておる。早う代金を用意せんか。ちゃんと四人分じゃぞ」
え、クロも食べるのか。スライム型の時は食べなかったのに……。飯の時は三人分で良いんじゃ……と思っていたら、クロがじっとコチラを見透かすよう見ていた。ちゃんとお前の分も出すって……。
◇◆◇◆◇◆◇◆
クロにお使いを頼んでから随分と時間が経った。最初なので馴染みの店に行かせたんだが……遅いな。
「うーむ、なんぞ問題でも起きたかのぅ」
「クロちゃん、帰って来ませんね……」
メニューは決まっていたので、紙に書いて持たせたから大丈夫だと思ったんだが……。
「仕方ない、ちょっと見てくるか」
「ワシも行こう。ティナは入れ違いにならんよう、留守番を頼めるかえ」
「はい、わかりました。お願いしますね」
そうして魔王と二人でクロの行方を探しに来たんだが……。
「居ないな……」
目的地の店にも、その付近にもクロの姿は無かった。どうやら店にも来ていないらしい。
「そういや、前に俺を助けに来た時みたいに、クロを見る事は出来ないのか?」
「おお、忘れておったわ。そうじゃそうじゃ、その手があったの」
このポンコツ魔王め……。まさか忘れてたとは……先に言えば良かったな。
魔王が黒い球体を作り出しじっと眺める。
「ふむ……なんぞ、人に囲まれておるな。何処かの店のようじゃが」
「店? どこの店か分かるか?」
「いや……これは……お主よ急ぐのじゃ! 早うせんと間に合わなくなる!」
どうやら何処かの店に居るらしいが……何だ? 急に魔王が慌てて駈け出した。というか早いな魔王!
◇◆◇◆◇◆◇◆
「はあっはあっ……クロ!」
勢い良く店に飛び込んでいく魔王。何がなんだか分からないが、追いかけるように店に入る。そこには――
「きゃあー! ほら、コレも食べて食べて!」
「見て……口いっぱいに頬張ってるわ」
「可愛い過ぎる……お持ち帰りしたい……
「ね、ねぇ。貴女、私の娘にならない?」
……何だこれ。店に入った俺の目に映ったのは、様々な女性に囲まれ、ご満悦層に菓子やら飯やらを頬一杯に食べているクロの姿だった。
「おや、お客さんかい?」
店員らしき恰幅のいい女性がコチラに気付き、声をかけてくる。途端に他の女性も皆こちらを向き――
「きゃあっ! コッチの子も可愛いわ!」
「さっき名前を呼んでたわよ。この子のお姉ちゃんかしら?」
「ほらほら、怖くないからコッチに追いで。美味しいお菓子が沢山あるわよ」
「娘が一気に二人も!? 旦那にしっかり稼いで貰わなきゃ!」
かしましい声と共に、魔王が席へ連れて行かれる。えーと……最後の人、ちょっと現実に帰って来ようか。
「あー、すいません。コレはどういう事態です?」
そばにいた恰幅のいい店員に恐る恐る聞いてみる。
「アンタあの子の保護者かい? いやぁ、悪いねぇ! ウチの常連が気に入っちゃったみたいでね!」
詳しく話を聞いてみると、どうやら道に迷ったクロに気付き、店内へ案内したところ客が暴走。可愛い可愛いと構いながら食べ物を与えていたらしい。
少し腹を満たして満足と思いきや、そこはクロ。正体は混沌スライムであるが故に、無尽蔵に食いまくる。
ただし、その食い方が小動物的だったのと、クロの見た目が相まって彼女らの保護欲が大爆発したらしい……。
今ではクロと並んで魔王まで接待されている……。いや、お前嬉しそうに巻き込まれてるんじゃねーよ。何が「困ったのぅ……こんなに沢山食えんのじゃ」だよ。顔がニヤけてるんだよ。大体お前この間、食い過ぎで料理長泣かせてただろうが……。
「っと、そうじゃないだろ! 何お前まで一緒になって食べてるんだ! クロも見つかったし早く帰るぞ!」
途端、女性達の目が一斉に俺を睨む。いや……何か分からんが異常に怖い。
「何、あの男?」
「まさかこの子達の父親?」
「まさか……あんな冴えないおっさん。ただの使用人じゃない?」
「空気読みなさいよ。私の娘を何処に連れていく気よ」
何だろう、目から汗が流れ落ちそうだ……。そんなヒソヒソ会話しないでくれ……。
「まぁまぁ、許してやっておくれ。あれが空気を読めんのは今に始まった事じゃ無いのでな。ワシが後でちゃんと言っておくからの。あ、これお代わりしても良いのかえ?」
ここぞとばかりに調子に乗る魔王。クロはコチラをチラッと見たあと、また食事に戻ってしまった。どことなく鼻で笑った様な気がしたが気のせいだよな……。
「済まないねぇ、ウチの常連が。なんせ可愛い物に目が無くてね。こっちで何か食べながら待ってると良いよ!」
「ああ、どうやら俺の勝てる相手でも無さそうだ……大人しく待ってることにするよ……」
その後、俺の食事が終わってからも、まだまだ宴は続いていた。いい加減引っ張りだすかと席を立ったと同時に、店員から助け舟が出た。どうやら店の材料が尽きたらしい。
じゃあこれでお開きね、と客たちが次々に帰っていく。中には家まで連れて帰ろうとする客もいたが、流石にそれは遠慮してもらった。やっぱり睨まれたが。
「やれやれ、満足かお前ら。まったく……」
「クフフ、おなごに囲まれてちやほやされるのも悪くないのぅ。お主は混ざれんで残念だったの」
あそこになんて混ざりたくねぇよ……。
「クロも良かったな、優しくして貰えて」
そう言ってクロを見ると、満足気な顔を俺に向けていた。何だそのドヤ顔……別に悔しくなんかねーよ……。
「じゃあ帰るぞ。もう真っ暗になってるじゃないか」
外を見るとすっかり日は落ちてしまっていた。何時間この店に居たんだ……。
そうして魔王とクロを連れて店を出ようとした時だった。急に俺の肩をがっしりと、そりゃもう骨が軋むくらいがっしりと掴んだ店員が一言。
「お代、払ってから帰ろうね?」
いや、アレはあの客たちが勝手に……とは言える雰囲気でもなく、散々食べた代金をすべて払わされるのであった。
世の中には理不尽な事が散々転がっていると、改めて学ばされた一日だったな。
もう二度とクロを一人では買い物に行かせないと、俺は深く心に刻みこみ、寂しくなった懐とともに、家まで帰るのであった……。
余談だが、甘い匂いを漂わせながらご満悦な二人を見て、ずっと空腹と闘いながら心配して待っていたティナは、俺を見た後、何かを勘違いしたようで完全に拗ねてしまった。その後機嫌が元に戻るまで、しばらく口も聞いてもらえなかった……。
すまんティナ。今度美味いもん食わせてやるから許してくれ……。
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