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閑話1【料理修行】

二章に入る前にちょっと閑話を(*´ω`*)

「今……なんと言ったティナよ」


 目の前の少女が口にした言葉が上手く聞き取れなかった。


「えと……料理を教えて下さい、と」


 再度同じ事を口にする少女。可愛らしい外見の上、頭には獣のような耳、そして背中から見え隠れする尻尾。常に相手を立てるよう振る舞うその仕草も相まって、女のワシから見てもなかなかの優良物件じゃと思う。


 もっともつい最近まで人では無いもの……つまり亜人族は忌み嫌われておった。件の騒動の結果、亜人族を人と同じに見よと王令は出たものの、人の意識は根強い。未だ辛い思いをしている事もあるじゃろうが、それを表に出さす毎日ニコニコと嬉しそうに過ごしておる。


 その少女――ティナが真剣な表情で、ワシに頭を下げておる。



 ワシとて、鬼ではない。こうも素直に願われれば、聞いてやらん事も吝かでは無い……無いが。


「嫌じゃ、面倒くさい。アレウスにでも教われば……いや、それは時間の無駄であろうな」


 ワシらと共に過ごす男、アレウス。アヤツも料理とは縁のない男であったか。最近は少し気が抜けたようで、毎日何やら怪しげな文字を見てはブツブツ言っておる。文字が趣味とは言っておったが、いささかのめり込み過ぎではないかのぅ……。



「大体なんでワシが料理なぞ教えねばならん。ワシは食うのが好きなのであって、作ることに興味なぞ無いというに」


「そんなこと言って、実は作れないんでしょリリィちゃん……。長生きしてるのに料理の一つも出来ないなんて、中身はおこちゃまなんだから……」


 珍しくティナが絡んでくる。これはやはり昨日の事を根に持っておるな……。まぁ、それだけ気を許しているという事じゃろうが、お子様扱いされて黙っておくのも釈然とせんのぅ。


「昨日の件ならワシは謝らんぞ。アレは正しく毒じゃ。味見までしたと嘘を付きおって……」


「ちゃんと味見しましたよ!その時は美味しかったんですってば!」


「ならばお主の舌がおかしいんじゃろう……」


 味見をした上であの味なら、もはや何の信用もできん舌じゃの。



「大体リリィちゃんはいつもいつも、食べるか寝るかじゃないですか!そんなんじゃいつか、アレウスさんに捨てられちゃいますよ!」


 あの男がワシを捨てる? そんな事ある訳……いや、奴の目的は今や国が協力してくれている。そうなればワシは……いやいや!ワシの方が国よりよっぽど強い。イザとなればワシに頼らざるを得ん筈じゃ。しかし事が終わり、ワシが必要無くなれば?

 いかん! 奴にはせっせと働いてワシの世話をして貰わん事には、ワシの生活が危うい。好き放題出来なくなるではないか!


「ティナよ、何をしておる! さっさと準備せぬか。ワシらであの男の胃を摑んでおくのじゃ!」


「え、え、胃を掴む!? いえ……私はそういうのじゃなくて……」


 ゴニョゴニョ誤魔化しておるが、ティナがあの男を悪く思っておらんのは周知の事実。ここはティナにきっちり仕込み、師としてワシが必要だと言い聞かせるのじゃ。


 そうしてワシとティナは完璧な昼食を作る為、厨房へと足を運んだ。



 ああ、言い忘れておったの。ワシは魔王リリアルデ・フローエ。魔王であるが故に料理なぞした事もないが……まぁ、ワシの手にかかれば料理の一品や二品、造作の無い事じゃろう。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆



 どうして……こうなったのじゃ?


 目の前にある物体……かつて瑞々しい野菜だった物や、産みたてで生命力豊かだった卵、活発で若さに溢れかえっておった素晴らしい鶏肉……。その他諸々の具材達。それらは今や、見る影もない黒い物体に姿を変えておった。

 まるで、世のすべてを憎み、憎悪に染まったかのごとく。


「うーむ……どことなくクロリンを思い出すのぅ」


「…………なんです、それ?」


 現実を直視できず、過日に思いを馳せておったワシにティナからの冷たい言葉が突き刺さる。


「いや……昔飼っておった混沌スライムじゃ。何にでも姿を変えてのぅ。プルプル動く様が可愛いんじゃよ」


「へー……そうですか。ところでコレは何です? その混沌スライムでも作りたかったんてすか?」


 そのジト目で見てくるのをやめい。今アヤツなど作ればこの街は大変な事になるわい……。


「おかしいのぅ……昔は上手く作れたんじゃがのぅ」


「噓ですよね!? 黙って見てればロクに食材も切らないし、調味料なんてドサドサ入れてましたよね!? おまけに火力なんて魔法でカバーとか言って、家、燃えてましたよ!?」


 うるさいのぅ……ちょっと火加減を間違えただけじゃろうに。ちゃんと消したから問題ないわい


「ま、コレはアレウスにでも食べさせるとしてじゃな。やはりここは専門家に聞くのが一番じゃな」


「ごめんなさいアレウスさん……私には止められませんでした……」


 取り敢えずコレは『一生懸命作りました。食べてください♡』とでもティナに書かせておけば、喜んで食うじゃろ。


「よし、ティナよ。出かける準備をするのじゃ」


「え、何処へですか?」


「専門家と言ったろう? なーに、最近知り合った、料理の大好きな奴に宛があるのじゃ」


 さて、アヤツは元気にしとるかのぅ……。



 ◇◆◇◆◇◆◇◇



「だからといって、何故私のところに来るんですか!? 第一私は今、仕事中ですよ!?」


「固いことを言うでないわ。心配せんでもちゃんと許可は取っておる」


「国王陛下ー!!」


 そう、宛のあるという事で宮廷料理長であるこの男のもとまでワシらは来ていた。突然の乱入者がワシと分かった感動か、涙まで流して王に感謝しておるわい。


「いえ、絶対違いますよね……。と言うか、王宮にこんな用事で来るなんて……」


 ティナが何か言いながら料理長に謝っておるが、そんな事はどうでも良い。さっさと目的を果たさんとな。



「はぁ……もう良いです。それで料理を教わりたいとの事でしたが」


「うむ。ワシもティナもすこーしばかり料理が苦手での? 簡単なもので良いから教わりたいんじゃよ」


 ティナは明後日の方向を向いて無関係を装っておるが、お主も同罪じゃからな……。


「ちなみに、どの程度作れるのですか?」


「ふむ……ここにいるティナの料理は正しく毒じゃな。ワシはまぁ、少し苦手な程度じゃ」


「何言ってるんですか! 私のは毒じゃ無いですし、リリィちゃんのはスライムを思い出せるレベルだったじゃないですか!」

 

 お互いの発言に、料理長は少しばかり天を向き、何やら自分に言い聞かせておる。


「……わかりました。では誰でも、それこそ子供でも作れる料理から始めましょう」


「そんな子供だましの料理なぞ……王に出すような料理を教えておくれ」


「無茶言わないでください! 何十年かかるんですかそれ!」


 なんぞ失礼な事を言う男じゃのう。ティナはともかく、ワシの手にかかれば造作も無い事じゃと言うのに……


「とにかく、二人共一度作っていただけますか? そうすれば見るべきポイントもわかるでしょう」


「あいわかった。では何を作れば良いのじゃ?」


「そうですね……ではこの卵を焼いて頂けますか。いわゆる目玉焼きですね」


 なんじゃその程度……目を閉じても作れるわ。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆



「で、出来上がった物がこれ……ですか」


 ワシの作った目玉焼き……は、もはや存在すらせず、何なら調理器具すら手元には無かった。


「やはり人の手で作れるものはこの程度か……耐久力がなさ過ぎじゃのう。これでは魔王になぞ挑む事すら出来んぞ」


「調理器具器具持って魔王に挑む勇者が何処に居るんですか!? 危うく城が焼け落ちる所でしたよ!?」


 料理は火力と言うではないか……。ワシが悪いんじゃない、耐火性の無い器具が悪いんじゃ。


「その点、ティナさんの料理は素晴らしいですね。この出来栄えなら陛下にもお出し出来ますよ」


「いやいやいや! 私の料理なんてまだまだですよー! そんな陛下にお出しするなんて!」


 ぐぬぬ……ちょっと見栄えが良いだけでティナがべた褒めされておる。


「なんじゃ、呼んだか?」


 厨房にひょっこり顔を出す国王――オルデン。ワシが言うのもなんじゃが、こんな所に顔を出して良いのかのぅ……。


「へ、陛下! どうなされましたか!?」


「なに、急に現れて料理長を借りたいというからの、何事かと思っての。なんじゃ、料理を教わっておったのか」


 オルデンが目の前にある目玉焼きに注目する。


「ほぅ、見事では無いか。さすが料理長、目玉焼きとはいえこうも見事に作りおるか」


「いえ、そちらの料理はこちらのお嬢さんの作でございます。私が教えるまでも無く、見事な腕前でした」


 王と料理長の発言にティナは顔を赤くして照れておる。いかんな……これではワシ一人駄目な奴になってしまう。


「折角じゃから国王よ、食べてみてはどうじゃ?」


「おお、良いのか。ではありがたく戴くとしよう」


 そう言って一口、目玉焼きを口にするオルデン。くふふ……引っかかりおったな。


「………………そう、か。やはりワシは……恨まれておったか……グフッ!」


「へ、陛下ー!!」


 見た目は完璧なティナの目玉焼き。されどティナの料理である。一口食べたオルデンは、そのまま気絶し、慌てて料理長が呼んだ治癒師により運ばれていった。


 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆



 その後、オルデンについては誤解であると何度もティナが謝って事は収まったが、料理長から厨房を追い出されてしまった。

 なんでも、器具ごと城を消失させかねないワシと、何もしていないのに毒になるティナは料理長の手に負えるものでは無いとの事。なんぞ不甲斐ないのう……。



 今日の事は二人だけの秘密にしようと固く誓い、トボトボと家に帰ると、怪しげな気配が家中を包み込んでおった。


 すわ、事件かと慌てて家に入ると、部屋に篭っていた筈のアレウスが、謎の黒い物体に今にも取り込まれそうになっておった。


「うーむ……どうやら本当に混沌スライムが産まれたようじゃの」


「リリィちゃん!? そんな冷静に見てないで早く助けてあげて!? アレウスさーん! 頑張って! 今助けますからねー!」



 こうして、ワシらの料理修行は失敗に終わってしまったのじゃ。

 やはり料理は作るより食う方が良いの。


 後日、無事救出されたアレウスから、料理禁止令が出た事は言うまでもない……。

ここまでお読みいただきありがとうございますm(_ _)m

どうぞよろしくお願いします。

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