1-19:【アレウスの本心】
「ティナは寝たかえ?」
「ああ、疲れてたんだろう。ぐっすり寝たよ」
あれから飯を食った後、ティナは倒れるように寝てしまった。まぁ、散々な目にあったからな……。
「お前は寝なくていいのか?」
「あほう。まだ昼過ぎじゃぞ」
いや、お前ずっと寝てるじゃないか。起きてるほうが違和感なんだよ……とは言わないでおこう。
「あー、その……今回は助かった」
素直に頭を下げる。何から何まで頼りっぱなしだった。
「かかか。まったくお主は手がかかるのう」
「それはそうと、何で気付いたんだ?」
出掛け、魔王は寝ていた筈だ。いや、起きていたとしてもどうしてあのタイミングで来られたのか。
「うん?ああ、言っておらんかったの。お主が飛び出したあの日からの、ずっとお主を見ておった」
「ずっと見て……?」
「うむ。寝ていてもな、夢で見ている様な感じかの。じゃからお主達に何が起こったか、手を取るように分かったんじゃよ」
プライバシーも何もあったもんじゃないな……。まぁ、結果的に助かったか。
「しかしお前、俺の復讐には手を貸せないと……」
「それについては今でも同じ答えじゃ。じゃがの、同じ家に寝泊まりするものを助けんとは言っとらんぞ」
たった一日だが、それでもティナを助けるために動いてくれたのか。
「まぁ、コレでお主はワシに借りが出来たわけじゃ。なんせワシを働かせたんじゃからのぅ」
ニヤッと魔王がコチラを見てくる。
「そうそう、報酬の話をせねばならんかったの。どうしようかのぅ……」
「なんだ?俺の魂でも喰う気か?」
「いらんわ。ワシを悪魔かなんかと勘違いしとらんかお主……」
呆れ顔で睨んでくる魔王。似たようなもんだろ……。
コイツへの報酬……やはり封印か?
「まぁ、ワシも今更封印しろとは言わん。この世界に未練もできたしの」
「どうした急に。あんなに寝たがってた奴が」
「人の世にも、美味いものが沢山あるみたいじゃからの!食い切るまではおちおち寝ておれんよ!」
食い気かよ!世の中の食いもんってお前……いや、ちょっと待て!
「じゃから、ワシへの報酬はこれじゃ。ワシが食べたい物、それを全て献上するのじゃ!その都度言うからの」
「おまっ!どんだけ金かかると思ってんだそれ!」
「知らんの。多少は持っとろう。足りんのならしっかり働いて稼ぐが良い」
やはり魔王は邪悪な存在である。そう再認識するには十分な対価だった……。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「しかし現実問題、世界の食い物をと言われても、俺は奴らへの復讐を諦めたわけじゃないぞ」
たまたま王子二人には痛い目を合わせる事が出来たが、本命はまだぬくぬくと玉座に座っている。
「うむ……その事じゃがの。お主、本当にティナを利用する気か?」
「…………ああ、それが復讐に必要なら」
そう、全ては復讐の為だ。その為ならティナだって……。
「嘘じゃな。お主にそんな事は出来んよ。それが出来るのなら最初からもっといい手があるじゃろう?気付いてないとは言わせんぞ」
魔王が俺の心を見透かすように見てくる。
そう、その通りだ。多分俺には出来ないだろう……。土壇場できっと失敗する。
そもそもティナを経由して亜人族をなどと面倒な事はしなくて良いのだ。ティナが、亜人族がアイツに集められているのなら、それを利用するのが一番手っ取り早い。
ティナを王の前に連れていき、アイツ諸共ティナを爆破させても良い。呪いを仕込んでおき、発動させても良い。アイツに近づける手段があるのなら、それを利用しない手はない。
だが俺はその選択肢を選べなかった。戦力だの壁だの言って亜人族を集めるなどと、遠回しの策に逃げた。
ティナ一人、犠牲に出来なかった。
「お主にその様な手段は取れん。いや、今のままでは復讐を遂げる事すら出来んじゃろう」
「俺は……」
「復讐するなとは言わん。すれば良え。じゃが、その伏した目と、塞いだ耳を開いて良く考える事じゃ。己が取るべき手段をな」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「はぁ…………」
復讐の事、ティナの事、魔王の事……一日中考えたが結局答えは出ないまま、時間だけが過ぎていった。
復讐の為に生きた15年だった。力が足りず、必死に魔法を覚えた。魔王の情報を得る為、胡散臭い情報も信憑性の無い噂も、全て当たっていった。
自分さえ良ければと、他人を不幸にした事もあった。復讐の為ならと、自分に言い聞かせてきた。
ティナにもそれが出来ると思っていた。いざとなればティナを切り捨てると。
だが、ティナは俺を良い人だと言った。明らかに怪しい俺を信じてくれた。嘘で固めた俺の言葉にも真剣に悩んでくれる。
そんなティナを見て、俺は、ティナを犠牲にするという事が、出来なくなっていた。
そう――俺は、復讐がしたくて生きてきたんじゃなく、復讐に縋って、復讐という布で自分を覆い隠していただけだ。本当に欲しかったものは、名誉や栄光なんかじゃなく、
――ただ、俺を見てくれる存在だった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
魔王に言われた事が耳にずっと残っている。お前は勇者共と同じだと。そんな復讐は独りでやれと。
自分は違うと思っていた。いや、思い込もうとしていた。魔王に言われるまで、誰にも明かさず、誰からの話も聞かなかったから。
自分が間違っているのだと、認められなかったから。
自分の為に他人を犠牲にする。
コレは復讐だから。悪は勇者達だから。悪を裁く俺は正義だと。正義に犠牲は付き物だと。
なんの事はない。他者から見れば同じ事だ。復讐を、と言うなら俺は他人を巻き込んではいけなかった。あの時の問題は、当事者だけで片付ける必要があった。
それから目を伏せ耳を塞ぎ、逃げ続けた。
だから魔王は、手伝えないと。独りでやれと言ったのだ。
そんな俺の弱い心を見透かしていたんだ。
……結局の所コレは仕方がない事だったんだろう。
もう、俺に進む事は出来そうに無かった。
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