1-20:【仲間】
心に酷い虚無感が押し寄せる。復讐という俺の虚像は剥がれ落ち、剥き出しの、弱い俺だけが残った。
役割が欲しかった。封印魔法があればそれに縋り、復讐をと願えばそれに縋り。それだって魔王ならきっと、という根拠の薄い願いだ。
結局、他の奴らも勇者が、他人が憎いだろうという決めつけ、思い込みだ。
転じてそれは、自分の仲間が欲しい。自分を見て欲しいという欲求に過ぎない。
魔王を探したのも、復讐を遂げた後、共に居てくれると思ったからだ。
同じ目的で動く、仲間が出来ると。そう思ったから。
「俺は……弱いな……」
「そんな事はないですよ」
独りだと思い、吐いた弱音に返事が返ってくる。
「ティナ……」
「アレウスさんは、弱くなんかないですよ。私を二度も助けてくれました」
それだって、相手が良かっただけだ。現に、王子に攫われたのは俺の弱さが原因だ。
「それはたまたまだよ。攫われた原因を作ったのも俺だしな」
「今まで、私を、亜人族という種族を助けてくれる人なんて居ませんでしたよ」
「それは……理由があって……」
「亜人族を利用して、王へ復讐……ですよね」
バレてたのか……。
「初めてココに来た日、リリィちゃんと話をしてるのを聞いちゃいました。ごめんなさい」
あの時、料理をしてると思ってたが、聞いていたのか……。
「じゃあ、あの時料理の味が変だったのは……」
「あ、いえ……そこはいつも通りだったんですけど……」
あ、そうなのね……。
「えーと、それでですね。あの時言ってた事なんですけど……」
「ああ……それはもう良いんだ、忘れてくれ。亜人族を利用するのなんて、俺には無理だったんだよ」
ティナにとっては勝手な事を、という話だ。亜人族を利用するだの救いたいだの、ペラペラとその場しのぎで適当な事を言っていた男、それが俺だ。
「魔王にも無理だと言われたよ。手段は良く考えろと……。まったくその通りだ。俺は、お前を利用しようとしていた最低の男だよ」
静寂が辺りを包む。まぁ、愛想を尽かされても仕方ないだろうしな。罵倒され、ティナも俺のもとから去っていくだろう。辛いが自業自得だ。
「あの日……両親が殺された日……私は逃げました」
静寂を破るように、静かにティナがそう切り出した。
「最初、私は諦めていたんです。私が城へ行けば、それで済むと。でも、両親は違いました。娘は渡さないと。そう言って兵に立ち向かっていき、私を逃したんです」
「私は逃げて、逃げて。でもそこまででした。両親を殺されたのに、仇を討とうと、思えませんでした」
「それは……親御さんもそんな事、望んじゃいないだろう」
「はい……。優しい親でしたからきっと。でも、私は両親の想いを汲んだんじゃなく、ただ諦めただけなんですよ。女だから、亜人族だから、そんな事を理由にして」
それはどんな気持ちだっただろう。あの時、俺にはまだ古文書が、力を得る手段があった。縋るものがあった。
だかティナには、何も無かった。大きな力に立ち向かうための、縋るものがなにも。
「だから、アレウスさんが復讐するって言ってた時、私も思ったんです。上手く行けば私の仇も討てるって……利用出来るって思っちゃったんです」
「だから……利用しようとしたのはお互い様なんですよ」
そう言って、ティナは複雑な表情で、コチラを見ている。
「……そうか」
ティナにとってはまたとないチャンスだったんだろう。魔王と、力を持った人間が、仇を討とうとしている。そこには、あわよくば亜人族の境遇も変わるかも、という想いもあったかもしれない。
「これから、どうするおつもりなんですか?」
「どうしたもんかな……」
独りでは何も出来ない。かと言って誰かを犠牲にするやり方も取れない。もう俺は、ティナや魔王を失う事は出来そうもない。
だが、復讐を諦める。それも出来そうにも無かった。心の何処かで、諦めきれなかった。
強大な力を持つ国、勇者。奴らに打ち克つ方法……。
「ならばお主は、犠牲を出さず奴らに勝ってみせよ」
暗がりから、そう言いながら現れたのは魔王その人。
「お前……また覗いてたな?」
「クフフ、お主が寂しい寂しい言う取るのも全部な」
厳しい事を言うようで、実は隠れて見ている。お前は子離れ出来ない母親か……。
「犠牲を出さず……ですか?」
「うむ。コヤツの悪い癖はの、出来もしない事を他人だよりにする事じゃ。信ずる者を要にするのでは無い、自分の計画を他人に投げる悪い癖じゃ。その癖、手柄は自分のものにしたがる」
散々な言われようだがその通りな為何も言い返せない。
「あの時前線に立ったのは勇者共じゃ。コヤツは封印の魔法以外、覚えもせず対等であろうとした。まぁ、勇者共は勇者共でロクな奴らでもなかったんじゃがな」
「その後も奪われただの何だの言ってワシを頼る始末。次は亜人族だったかの?己が身で前線に立とうとせん。まったく悪い癖じゃ」
魔王の説教は続いていく。
「大体ティナが攫われた時もそうじゃ。男なら自分の身なぞ気にせず女を助けにいかんかい。まったく……」
ここまでハッキリ言われるとかえって清々しいな。
「でも、私は助けてくれましたよ!」
「それも相手が取るに足らん雑魚じゃったからじゃ。格上の者に挑まぬ奴には違いあるまい」
ティナは頑張ってフォローしようとしてくれるが、魔王の正論の前には手も足も出ない。
「どうした、言い返さんのか? それともその通りですと負けを認め復讐も諦めるか? ティナならお主の側に居てくれるじゃろう。静かな余生でも過ごすか?」
魔王があえて俺を叩き折るような言葉で責めてくる。あぁ、こいつは本当に優しい奴だな。
「……そこまで言われて、黙ってる訳無いだろう」
俺は立ち上がり、魔王を見下ろす。
「まったく、こんな小さいナリをして偉そうに。やってやるさ。誰も犠牲にせず、俺の手でアイツラには報いを受けさせるさ」
「クフフ。元気になったようじゃのぅ」
お陰様でな。
「あ、あの!アレウスさん! 私にも、手伝わせて下さい!」
突然ティナが立ち上がり、何かを決心した眼でコチラを見てくる。
「ティナ? いやしかしそれは……」
「自主的に手伝うのは良いんですよね?リリィちゃん」
「お主を犠牲にせんのなら良いじゃろ。自ら進んで手伝うなら、それはもう仲間じゃろう?」
その言葉を聞いたティナは、おもむろに魔王の手を掴み、自分の手と合わせ俺に差し出してくる。
「こ、これ!ティナ?」
「大丈夫ですよ! アレウスさんとリリィちゃんと私、三人ならきっと何か良い方法が思いつきますよ!」
ティナはともかく……魔王も?
「離さんかティナ。ワシは協力するなど一言も……」
「いいえ、離しません! 犠牲を出さない方法なら、リリィちゃんも断る理由は無いでしょう?
それとも……私達は仲間じゃ無いんですか?」
真っ直ぐな目で魔王を見つめるティナ。いささか暴論な気もするが……。
「ふー……やれやれ、お主、意外と頑固じゃのぅ」
そう言って魔王はティナを見た後、俺をじっと見つめてくる。
「良い女二人がお主の力になるんじゃ。男なら格好良いところを見せるんじゃぞ?」
「ふん。お前こそ、また封印されるとか間抜けな姿見せるなよ」
嬉しさと、恥ずかしさと……いろんな感情からつい憎まれ口を叩きながら、俺は二人の手を取る。
「二人共ありがとう。……頼む、俺を助けてくれ」
今まで誰にも言えなかった、素直な言葉。スルリと出たその言葉を聞いて、二人はニコリと笑って頷いた。
俺が、真に求めていた『仲間』が、出来た瞬間だった。
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