エピローグ
ザックたちを退けたアリスたち。街を破壊されたが、死人は一人も出ず、十分な結果であった。
その後、アリスたちはサウスへと戻り、いつもの学園生活を過ごしていた。その前に、イーストを守ったことでリーゼロッテたちが表彰されたことは記憶に残る。もちろん、裏で動いていたアリスは皆の前で表彰されることはなかったが、後で剛毅に呼ばれ、感謝の言葉とともに事後処理を手伝わされたのは内緒だ。
(しかし、ザックたちの目的はわからないままだったな……)
剛毅たちには内緒でアリスはガイアとともに、秘密裏に祠について調べていた。しかし、決定的な証拠はなく、ザックの言っていたカギという存在もわからずじまいだった。
「なあアリス、知ってるか? 今日は転校生が来るんだってよ!」
耳元で大きな声で話しかけてくるのはレンだ。レンもこの前の事件でイーストを救った人物の一人として表彰されていた。
「へぇ、この時期に転校生か」
「そうなんだよ! それに噂だと転校生は女の子らしいんだ! それも美少女。これはキタッ!」
「そんなに喜ぶことかよ……」
転校生が来ることに喜んでいるレンをアリスは呆れた様子で見つめる。ティリカも同じことを考えていたようで、アリスと同じような視線を向けていた。
「ふーん、転校生ね……それも美少女……」
隣ではリーゼロッテがブツブツと何かを言っているが、アリスは無視することにする。こういった場合、話しかけると、ろくなことがないのは経験済みだ。
「はーい皆さん。席についてください」
担任のミーナが教室に入ってくる。立っていた生徒たちは自分の席へと戻っていく。
「さて、今日はホームルームをする前に転校生を紹介したいと思います」
「よっしゃ! 待ってました!」
静まりかえった教室でレンは立ち上がり、喜びの声を上げる。空気を読めないレンを見て、友人であるアリスたちは自分のことではないのだが、何故か自分のことのように思えて恥ずかしく思う。
「はは、レン君。嬉しいのはわかりますが、もう少し落ち着いてくださいね」
かというミーナも苦笑だ。
「あ、はい。すいません」
そう言ってレンは席に座る。しかし、その顔はニヤニヤとしており、とても気持ち悪い。例え、それがイケメンであってもだ。
「では、入ってきてください」
ミーナの言葉によって転校生は教室に入ってくる。すると、生徒たちは感嘆の声を上げる。
「きゃ――! 可愛い!」
「うおっ! 美少女だ」
生徒たちの言葉から転校生が女性だとわかる。一体レンはどこで情報を手に入れたのだろうか。
ちなみにアリスたちは恥ずかしさのあまりにうつむいていたために転校生の顔を確認できていなかった。
「では、自己紹介をしてください」
「はい」
教室に響く澄んだ声――その声をアリスはどこかで聞いたことがあった。
(ん? この声は……)
そして、アリスの予感は的中する――
「――イースト学園から来ました。月島楓です」
バ――ッ! とアリスはものすごいスピードで顔を上げる。そこにいたのは確かに、イーストでともに戦った楓本人であった。
チラッとリーゼロッテの方を見ると、リーゼロッテも楓を見て硬直していた。どうやらリーゼロッテも楓が来ることを知らなかったようだ。
(いや、転校生が来るのはいい! だが、”神無月”が来るのはどうなんだ!? 仮にもアイツは国を守る身なんだぞ! そんな軽々と他国に行かせていいのか――ッ!?)
普通ではあり得ない。アリスは剛毅の考えがわからなかった。
――誰のせいだと思ってるのよ?
聞き覚えのない声がアリスの頭に響く。
(……誰だ?)
――誰って……そういえば、あなたとは初めてだったわね。初めまして。あたしは楓の契約精霊のアスカよ――
楓の契約精霊――つまり、彼女は火の王級精霊――
(そうか。で、楓が来た理由が俺のせいみたいなことを言っているが、どういうことだ?)
――どうもこうもないわよ。あの子があなたに負けてから任務がままならないのよ。それで、剛毅が『アリスを見習え』というわけで留学させたわけ。全く、昔の楓はしっかりしてたのに、あなたのせいで――
(おい、黙れよ――)
突然、どす黒い声が響く。これはアリスの声ではない。
(アリスに負けたからって罪をなすりつけるなよ。アイツが弱いだけだろ)
――あら、言うわね。いつから、そんなに生意気になったのかしら? あなたは一人でいる主義ではなかったの、闇?――
闇――クロノスはアリスに責任をなすりつけられたことによって怒っていた。
普段は見た目に似合った年相応の口調で話すクロノス。しかし、今はアリスが聞いたこともないほどに口が悪かった。
(……メーティス。お前は大丈夫だよな?)
(……うん。私は昔からこう。クロノスは仕方ない。あれが素だから)
聞いてはいけないことを聞いてしまったような感じがしたが、アリスは気のせいだと言い聞かせる。
不意に楓と目が合う。楓はニコリと微笑むが――
(お前の契約精霊のせいで、もう疲れたんだが?)
視線で訴えるが、楓は理解してくれない。
(……これから、どうなるんだよ……)
厄介な人物が増えた。そのことにアリスは頭を悩ませるのであった。




