もう一つの戦い
「さあ! 行きなさい!」
アリスたちがジャックと戦っていると同時刻、リーゼロッテたちは精獣と戦っていた。
リンのかけ声によって、戦いが始まった。しかし、状況は未だに均衡したままだ。
「ちぃ――ッ! しぶといッ! ”さっさと倒れろ”――ッ!」
苛立ちを含めてリンが詠唱破棄で叫ぶ。しかし、リンが放った魔法を精獣は何事もないかのように受け止める。
「……なかなか突破できないね……」
リーゼロッテが#ある精獣__・__#を見ながら呟く。
相手は危険な精獣であったが、自ら戦いに挑んだ強者たちが揃っていたので、思っていたよりも苦戦はしなかった。
現在の時点で何体かの精獣を撃破することに成功している。
しかし、均衡状態が続いている理由――それは――
「Aランクの精獣……」
リンが相手をしている精獣――それこそが、この戦いでリーゼロッテたちが勝利をすることが出来ない最大の理由であった。
Aランクの精獣は、ギルドでは上級精霊が取り憑いた精獣と定義されている。つまりは精獣の中では最大級に危険な力を持っているのである。ましては、学生が相手する敵ではない。
「さて、どうするか……」
これ程の強敵を前に、リーゼロッテは冷静だ。当然だ。リーゼロッテは一度、竜精霊を前にしている。
精獣とは言っても、たかが上級。勝てずとも、恐怖する相手ではない。
(それにアリスの方が怖いしね)
リーゼロッテが思い出すは、アリスと楓の決闘。”エルフリーデ”と”神無月”、最強の二人が繰り広げる戦い――本気ではなかったと思うが、それでも次元が違う戦いであった。リーゼロッテでは到底、敵わないと思った。
(それに比べたら、コイツらなんて……)
アリスたちに値しない――ッ! リーゼロッテは考える。
(でも、コイツを倒せないのも事実……どうするべき……? 何か弱点は……ん? もしかして……?)
リーゼロッテは冷静に観察する。そして気づいた。
(この精獣は攻撃をしてこない? 防御寄りの精霊を素にしている? だったら……)
唯一の突破口を考えた。しかし……
(学生の私たちだけで乗り切れるか……いや、乗り切るしかない――ッ!)
ここで立ち止まっていては、アリスに追いつくことは一生できない。強くなるには今の自分を乗り越えるしかないのだ。
「リンさん! 聞いてください!」
リーゼロッテは魔法を駆使してリンの元まで移動する。
「どうしたの!?」
「私に作戦があります!」
「……言ってみなさい」
リンはリーゼロッテの言葉を無下にすることなく聞き入れる。このままでは精獣に勝つことができないとリンも理解しているのであろう。
「恐らく、あの精獣は防御を得意としているものだと思います。なので、バラバラに攻撃していては、私たちでは突破することは不可能に近いです。だから、あの精獣を倒すには私たちの攻撃を同時に行う必要があります」
リーゼロッテの作戦は単純。相手が防御に優れているのであれば、こちらが攻撃力を上回ればいいだけ。子供でもわかることだ。
「でも、一斉に攻撃は多分、できないわ。ここにいる全員にリーゼロッテの作戦を伝えることはできない。かといって、リーゼロッテが一人一人に伝えるのも時間がかかるわ」
そう、この作戦には欠陥が生じる。あらかじめ、決めていれば問題はないのだが、即席では実行することができないのだ。
(どうしたら……)
そう思った瞬間、夜空が真っ赤に燃え上がる。
「――ッ!? 一体何――ッ!」
突然の出来事に誰もが声を上げ、動きを止める。精獣も何が起こったのかわからずに、夜空を見上げる。
(この炎は――)
リーゼロッテは知っていた。この炎を――この炎を操る人物を――
(ガイア・ロード――ッ!)
瞬間、夜空にその人物――ガイアが現れる。ガイアの手にはガイアの精霊武装――〈#紅蓮の神剣__レーヴァテイン__#〉が握られていた。
「――”消えろ”」
魔法を唱えると同時に、ガイアは〈#紅蓮の神剣__レーヴァテイン__#〉を振るう。振るわれた剣先からは、離れていても熱さを感じるほどの熱量を持った炎が放たれる。
「グ、グギャアアアアァァァァ――――!」
炎が精獣を飲み込んだ瞬間、イーストに絶叫が響く。炎は大した時間が経たないうちに精獣の全体を飲み込む。
「あれが“不死鳥”……」
リンが戦うことを忘れたかのように、ボーっとガイアを見つめる。他の生徒も同様だ。
(確かにすごい。でも、あれぐらいの魔法で精獣は……)
ガイアの登場によって、誰もが冷静さを失う。しかし、リーゼロッテは冷静であった。
ガイアの炎――確かに学生のリーゼロッテたちでは比べものにならない。だが、それだけだ。あれぐらいの威力なら、たまたま味方と同じタイミングで放った自分たちと変わらない。
あの炎も自分たちよりも少し強いだけであった。そうなれば、精獣は……
(まだ生きている――ッ!)
そのことを予感したリーゼロッテは精獣に向かって駆け出す。リーゼロッテの行動を見て、ガイアは少し驚きながらも微笑む。
「あっ! リーゼロッテ!」
突然のリーゼロッテの行動にリンは制止の言葉をかけるが間に合わない。リンが伸ばした手は虚しく何も掴むことができない。
(やっぱり――ッ! 精獣は生きている――ッ!)
ガイアの放った炎が次第に弱くなっていき、精獣の姿が明らかになっていく。
威力が同じだと思っていたのはリーゼロッテの間違いであった。見た感じの威力は同じに見えたが、精獣に与えたダメージの差は歴然。自分たちは外部を少ししか傷つけることしかできなかったにもかかわらず、ガイアは完全に精獣の装甲を破っていた。
ガイアによって致命傷を与えられた精獣。明らかになった精獣の胸元には赤く波打つ物体――心臓がむき出しになっている。
(あ――ッ! もう動き出した! 魔法は間に合わない。なら――ッ!)
リーゼロッテは〈#聖なる騎士の剣__ホーリーナイト__#〉を振りかぶり……
「届けぇ――ッ!」
全力で投げた。リーゼロッテが投げた〈#聖なる騎士の剣__ホーリーナイト__#〉は精獣の心臓に向かっていき……
「グギャアア――ッ!」
正確に打ち抜いた。心臓を潰された精獣は力なくその場に倒れた。
「……やったの……?」
半信半疑ながらもリーゼロッテは精獣に近寄る。精獣は息をしていない。絶命していた。
「や……やったああああ――――!」
誰かが喜びの声を上げたことによって、全員が目標を達成できたことを喜び合った。
「――お姫様も中々やるじゃないか」
リーゼロッテたちから遠く離れた屋根の上――そこでガイアはリーゼロッテたちの喜び合っている姿を見ていた。
「あえて一撃で仕留めなかったが……油断もせずにトドメを刺したものだ」
ガイアは自分が現れたことによって、生徒たちが安心しきると思っていた。だが、期待は裏切られ、その期待を裏切ったのはリーゼロッテだ。そのことには素直に感心した。
「――で、手加減したというわけか」
ガイアの背後から声が聞こえる。振り向かなくてもわかる。そこにいる人物は一人しかいない。
「お前も終わったのか、アリス?」
「ああ、終わったよ。やられるだけやられた」
アリスはガイアの隣まで歩いて腰を下ろす。
「それより、父さんも来るなら事前に教えてくれよ。だったら俺も楽に動けたのに」
「リーゼロッテ嬢の面倒を俺が見ろと?」
「実際に見ていただろうが」
「ま、そうだな」
「それに、俺も慌てて、こっちまで来る必要がなかった。急いで向かっていたのに、父さんの魔力を感じたからな。もっとゆっくり来ればよかった」
「でも、いいものが見れただろ?」
「……まぁ、そうだな」
アリスはリーゼロッテの戦いを見ていた。以前よりも成長していたリーゼロッテを見て驚いた。交流戦が終わってから日は経っていない。
実力が上がったわけではなかったが、正しい判断をしていた。そのことを見れただけでも、アリスにとってはよい収穫であった。
「じゃ、帰るか?」
「そうだな」
「ついでに俺の魔力も隠してくれ」
「魔力を隠しているわけじゃない。こっちは魔力が残ってないんだ。勘弁してくれ」
「ははは、冗談だよ」
そう言って、アリスは黒い霧に、ガイアは炎に包まれ、この場から消え去った。




