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精霊殺しの学園生活  作者: はる
第4章 忍び寄る敵
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火の王級精霊

 「全く、自分が嫌になる――ッ!」


 改めて自分は嫌な奴だとアリスは思う。常に冷静な判断をするアリス。故にシャドウも警戒して隙を見せるような大技を撃ってこない。自分の性格をこれほど恨んだことはないだろう。


 (だが相手もしびれを切らせているはずだ。俺もそろそろ我慢ならないからな)


 相手も同じことを思っているだろうが、後はどちらが先にしびれを切らせるか。いわば我慢比べだ。


 (自分と戦ってみて思うが、隙がないな……)


 弱点を見つければ修正。それを繰り返している内にアリスの剣技は絶対的なものとなっていた。


 剣技を極めたアリスであっても克服することが出来ない弱点がある。それは――


 「……ッ! しまった――ッ!」


 しびれを切らせる以前に集中力を切らせてしまった。


 サクヤとの戦いに引き続きシャドウとの戦い。全力で戦っていたアリスの体がついに悲鳴を上げたのだ。


 この好機を逃さまいとシャドウは魔力をこめる。それも全力――”グロリアス・レイ”を撃つ気だ。


 (よりにもよって――ッ! 避けれるか――いや、やるしかない――ッ!)


 防げないと判断したが、これを逃せば好機はない。”グロリアス・レイ”は流石に避ける。シャドウも同じことを考えているはずだ。ならば――


 (これを耐えることが出来れば――)


 失敗すれば命はない。だが、勝負を仕掛けるにはここしかない。


 ”グロリアス・レイ”を受け止める――”ソウルイータ-”で吸収するしかない。しかし威力は”グロリアス・レイ”の方が上。完全には受けきることが出来ないだろう。


 (耐えてくれよ、クロノス……)


 (大丈夫だよ! 私とアリスと愛があれば偽物の攻撃なんて効かないよ!)


 こんな時でもクロノスは余裕だ。出来ればその余裕を少しでも分けて欲しい。


 「――ッ!」


 ついにシャドウが魔法を放つ。それに対してアリスは引かずに向かって行く。


 ”グロリアス・レイ”に当たる直前、アリスは〈闇を貫く王剣ヴォーパルソード〉を構える。それを見てシャドウは勝利を確信し、笑みを浮かべるが――


 「――残念だったな」


 「――ッ!?」


 アリスは”グロリアス・レイ”を耐えることが出来た。しかし、完全に攻撃を防ぎきることが出来ずに、額から血を流していた。だが、賭けはアリスの勝ちだ。


 「”ドッペルチェーン”!」


 いくらアリスの模倣とはいえ、接近されれば避けることが出来ない。アリスが放った”ドッペルチェーン”はシャドウの四肢を正確に捉える。

 しかしアリス自身、”ドッペルチェーン”の解除方法を知っている。だから、すぐに逃げられるだろうが――


 「――俺の勝ちだ」


 そう告げ、アリスは勢いのままシャドウを飛び越す。シャドウは自分にとどめを刺そうとするアリスに対して身構えていたのだが、何もしなかったことに疑問を持った。しかし次の瞬間、その意味を悟ることになる。


 「――あなたはここで終わりよ」


 シャドウは声のする方を見る。そこには〈炎を纏いし王刀ヴァルキリーソード〉を構えた楓の姿が――


 その姿を見てシャドウは恐怖する。アリスとしてではない。シャドウとしてでだ。シャドウはこの感覚を覚えている。昔、自分にとどめを刺した火の王級精霊のものだと。再び同じことが為されようと――


 「安らかに逝きなさい! ”ホーリーフレア”――ッ!」


 楓が唱えると同時に〈炎を纏いし王刀ヴァルキリーソード〉から白い炎が放たれる。


 通常、炎は赤。そして高温になるほど青となる。しかし、楓が放った炎は白。すなわち、この白い炎こそが”浄化”を持つ火の王級精霊の炎なのだ。


 シャドウは逃げようとするが、”ドッペルチェーン”に捕まって逃げることが出来ない。冷静になれば逃げることが出来るが、自分が封印される原因となった白い炎を見て状況を判断することが出来なくなっていた。


 シャドウを囲うように広がる白い炎。その炎を見てアリスは――


 (綺麗だ……)


 素直に感動していた。自分のような相手を滅ぼす魔法ではない。このような言い方ではクロノスたちたちの魔法が悪いように聞こえるが、そう言った意味はない。

 ただ純粋に楓の放つ魔法を美しいと思ったのだ。


 迫り来る白い炎はついに――


 「ギャアアアアアァァァァァァ――――――――!」


 シャドウを飲み込んだ。白い炎に飲み込まれたシャドウが絶叫する。アリスの姿で醜い姿をさらすものだから、アリス本人は気まずい表情をしていた。


 イーストにこだまするシャドウの絶叫。しかし、それも次第に小さくなり、やがて聞こえなくなった。

 白の炎が消えた頃にはシャドウは燃え尽きており、跡形すら残らなかった。

 命をかけた戦いだったが、終わりはなんとも呆気ないものであった。


 「終わった……のか……」


 アリスは額から流れる血を拭う。

 しばらく静寂が訪れる。反応はない。シャドウは完全に消滅したようだった。


 「おい! 大丈夫か!」


 背後から焦りを含んだ声が聞こえる――祐斗のものだ。

 アリスが振り返ると、楓が限界を迎えたかのように座り込んでいた。


 「はは……大丈夫だよ、祐斗。ちょっと疲れただけだから」


 なんとか答えた楓はつらそうであった。恐らく身体的というよりかは精神的に疲れたといったところであろう。


 アリスも楓の近くまで寄り――


 「出来たじゃないか。正直、お前がいてくれて助かった」


 素直に褒めた。すると楓は力なく微笑む。


 「アリスたちのおかげだよ。アリスたちがいなかったら、戦えないままだったよ。だからありがとう。そして、イーストを救ってくれて」


 楓はアリスに対して頭を下げる。祐斗も同様にして頭を下げる。


 「別に気にするな。それにとどめを刺したのはお前だ。お前がイーストを守ったんだよ。俺はただ、その手助けをしただけ。そうだろ?」


 「……そうだね。色々とありがとう、アリス」


 「後はザックの言っていたことは気にするな。お前らの歳で平気に人を殺せるわけないだろ。だから、お前の反応は正しいんだよ」


 「……その言葉は嬉しいんだけど、アリスは平気にあの子を殺そうとしてたじゃないの?」


 「……気のせいだ」


 気まずそうにアリスは視線をそらす。楓の言う通りだ。アリスは平気に人を殺すことが出来る。

 それは、アリスの生まれ育った環境もあるのだろうが。


 「まぁ、そういうことに、しておくわ」


 ふふっと楓は微笑む。その笑みはどこか吹っ切れたようであった。


 「本当に大丈夫なのか? この前も吹っ切れたと言っておきながら、この様だからな」


 「なっ! それとこれは別よ!」


 「ははっ、冗談だ」


 楓はアリスを睨めつけるが、アリスは気にした様子はない。


 「じゃあ、そろそろ……」


 帰ろうか。アリスがそう続けようとしたとき――


 爆発音が鳴った。この近くではない、どこか遠くの場所――リーゼロッテたちがいる場所である。


 「……ッ! そうだった! まだ精獣がいるんだ! 楓! 俺は成獣たちをなんとかしてくる! お前は先に帰っていろ!」


 「えっ、ちょっとまっ――」


 楓が声をかけ終わる前に、アリスは精獣の元へと向かってしまった。


 アリスを止めようと伸ばした手。楓は虚しく、何も掴めなかった自分の手を見つめる。


 「……それより、アリス。まだ魔法使ってたよね?」


 「ああ、しかも全力で使っていたな」


 「まだまだ余裕そうに見えたんだけど……本当に私の力って必要だったの?」


 「……それは知らん」


 今は遠くなって小さく見えるアリスを楓たちは力なく見つめる。その視線はどこか諦めたようなものであった。


 「ねえ、祐斗。ちょっといい?」


 「なんだ?」


 「色々、迷惑をかけちゃってごめんね。今回の戦いだって私がしっかりしていたら……」


 「馬鹿を言うな。そもそも迷惑をかけているのは、いつものことだ。だから反省することはない」


 「……それって褒めてる?」


 「さあな」


 楓はジト目で祐斗を見つめる。そして――


 「……もっと私、強くなるから。誰にも負けないくらい。何よりも自分自身に負けないくらいに」


 ボソッと俯きながら呟く。祐斗にこの言葉が聞こえたのかはわからない。だが――


 「ああ、そうだな……」


 内容が聞き取れたわけではないだろう。しかし、祐斗はそう返事した。恐らく今、楓が考えていることを予想して……


 「……ありがとう、祐斗……」


 最後にそう呟いたのであった。

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