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精霊殺しの学園生活  作者: はる
第4章 忍び寄る敵
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決心

 「楓が持つ能力――それは”浄化”だ」


 祐斗は隠そうともせずにアリスに伝える。

 

 本来、王級精霊の能力を明かすことは厳禁だ。王級精霊の力は絶対ではない。同属性で唯一無二というだけだ。故に対策するのも容易い。他の属性では同じような能力を持っている精霊が存在するのだから……


 だが、祐斗は答えた。彼も楓の力無しでは勝てないと理解したのだろう。


 (だが、どうする? 楓はとても戦える状態とはいえない。精霊の力だけを借りようにも階級が高すぎるからな……)


 背後で座り込む楓は焦点が合っていない状態だ。まともな状態ではなかった。


 「……俺が相手をするから”炎帝”をなんとかしてくれ」


 どうしようか悩んでいるとき、祐斗から声がかかる。


 「だが……」


 「どうせお前ではアイツには勝てないだろ? お前の分身だからな。だったら俺が戦った方が勝機がある」


 しかし、それは無茶だと祐斗も理解している。祐斗はアリスの全力を見ている。アリスの全力を自分では防ぐことが出来ないと。だが……


 「どちらにしろ、”浄化”がなければ勝つのは難しいんだろ? なら”炎帝”に頼る他ない。それに――」


 チラッと横目で楓を見る。


 感情を押し殺していた楓が感情を見せるようになったのは誰のおかげか知っている。そのせいで今、苦戦しているのだが、楓のことを考えるとどうでもいい。彼女が以前のように笑顔を見せるようになったのだから――


 「そういうわけだ、“精霊殺し”。”炎帝”を――楓を頼む――」


 そう言い残すと、祐斗はシャドウに向かって行った。


 




 アリスに言い残し、祐斗はシャドウと剣を交える。


 (クッ! 本当にやりにくい――ッ!)


 シャドウが見せるは変幻自在な剣舞。二本の剣を巧みに扱い、予測不可能な攻撃を何度も繰り出す。まさにアリスの剣舞そのものであった。


 (こんな無茶な戦い方、誰もしないだろ!)


 明らかに体力面を考慮していない非効率的な戦い方。ただ一人の相手を倒すためだけに生み出された戦い方だ。


 (そりゃぁ、勝てるわけがないか……)


 祐斗は皮肉めいた笑みを浮かべる。ただ、戦いに負けたというわけではない。男として負けたということだ。

 

 祐斗は昔から楓のことが好きであった。初めての出会いは初等部の頃。初めこそ楓のことを好ましくは思っていなかった。才能だけに頼る少女だと。

 だが、それは間違いだったことに気づく。楓が強かったのは決して才能だけではなく、実力に似合うだけの努力をしていたからこそだったのだと。その頃からだろうか。楓を意識するようになったのは。


 初等部を卒業する頃には楓は王級精霊に選ばれる存在となっていた。そして自分も神獣精霊に選ばれ、彼女と同じ立場に立てたことを嬉しく思った。しかし彼女が感情を失ったのも、この頃だった。

 すべてに興味を失いかけた彼女を救おうと祐斗は決闘を挑んだ。もし自分が勝てば再び楓は感情を取り戻してくれるだろうと――

 しかし結果は楓の圧勝。祐斗は楓にかすり傷一つ付けることができないまま敗北した。同じ階級の精霊の力を借りても楓を救うことが出来なかったのだ。そして彼女は自分の感情を殺してしまった。


 そんな楓が心から笑ったのは、つい最近。それまでは誰に対しても胡散臭い笑いを見せていた。当然、自分に対してもだ。

 理由はわかる。交流戦が終わってからだ。楓が決闘で敗北したことによって今まで失っていた感情を思い出したのだ。

 嬉しかった。しかし、それ以上に楓を救ったアリスに対して嫉妬した。本来なら自分が救いたかったと。今でもそうだ。だが――


 (楓を助けることが出来るのはお前だけだ。だから頼んだぞ――アリス――)


 楓のそばにいたいと思うが、自分の感情を押し殺しても祐斗は楓を助けるためにシャドウと戦うのであった。






 祐斗とシャドウの戦いは均衡しているかのように見える。だが、祐斗は常に防御にまわっている。均衡が崩れるのも時間の問題だ。


 (アイツも自分がやるべきことをしている。だったら俺も期待に応えないとな)


 アリスは楓に向かって歩きだす。


 視界に映る楓は戦える状態ではない。しかし、アリスは楓を戦える状態にしなければならないのだ。


 「……楓」


 「あっ、アリス……」


 ビクッと一瞬、体を震わせて楓は恐る恐る見上げる。アリスに向ける目は完全に怯えきっている。


 「お前の力が必要なんだ。戦えるか?」


 「……無理だよ……」


 楓は俯きながら答える。


 「私が戦って来れたのは私じゃなかったから。感情を失った私だったら。実際に感情を取り戻したらこれだよ。敵を殺すことも出来ない臆病者。本当の私は何も出来ない……」


 完全に楓は自信を失っていた。どちらが本当の自分だったのか。本当の自分は以前の自分で、今の自分は偽物ではないのかと思いたかった。


 「本当のお前がどれだか知らないが、人を殺すことに罪悪感を抱かない人間はいない。もし何も思わないならアイツと同じだ。だからお前の気持ちは正しいものだ。だがな……」


 アリスはしゃがみ込み、楓と視線の高さを合わせる。


 「お前はそれでいいのか――?」


 「……ッ!」


 楓は驚いてアリスと視線を合わせる。


 「アイツにちょっと言われただけで戦えない? お前は敵の言葉を信じるのか?」


 「わ、私は信じてなんて――」


 信じていないと言おうとして途中でやめる。それは嘘になるからだ。多少なりともザックの言葉によって戦えなくなってしまったのだから。


 「それにお前はアレを見て何も思わないのか?」


 アリスが指すアレ――祐斗のことであった。


 「アイツはお前を信じて戦っているんだ。このままじゃ、アイツは負ける。お前は味方を見捨てるのか?」


 「そ、それは……」


 助けたいとは思う。でも今の自分が行ったって……


 「目的が出来たと言っておきながら嘘だったのか? 全く、ガッカリだ」


 「……はあ?」


 何か聞き逃すことが出来ない言葉が聞こえたような気がした。


 「自分で決めた目標を達成できない奴が何か出来るはずがないよな」


 ピクピクと楓は振るえ出す。


 「悪かった。今までの話はなかったことにしよう。か弱い女の子を戦わせるわけにはいかないからな。俺は祐斗を助けに行くからお前は怯えて待っていろ」

 

 アリスは振り返って祐斗を助けに行こうと――


 「……待てよ」


 アリスの背後からどす黒い声が聞こえる。アリスの背後には一人しかいない――楓の声だ。


 「さっきから聞いていれば言い放題……馬鹿にして……わかったよ! やってやろうじゃない!」


 楓は勢いよく立ち上がる。ただし、威勢の割には足は震えたままだ。


 (とりあえず戦ってくれるようにはなったが……これだけで感情を高ぶらせるってコイツは馬鹿なのか?)


 挑発してみたはいいが、あまりにも上手くいきすぎた。ザックの言ったことをまともに聞き入れたから、もしかしたらと思ったが案の定、思い通りになってしまった。馬鹿というか素直というか……


 (まぁ、結果的には戦ってくれるようだからいいか)


 馬鹿(楓)の気持ちが変わる前に浄化の魔法を使わせなければならない。祐斗の方を見てみると、そろそろ限界そうだった。

 

 「アイツを倒すにはお前の”浄化”が必要だ。俺がアイツの隙を突くから、その時に攻撃してくれ」


 「……わかったわ」


 まだ少し自身がなさげだったが、気にしている暇はない。全力で祐斗の元に向かう。


 「祐斗! 変われ!」


 祐斗をかばうようにアリスはシャドウの攻撃を受け止める。


 「悪いが今から俺が相手だ!」


 受け止めた剣をはじき返す。


 (一瞬でいい。コイツの動きを止めることが出来れば俺たちの勝ちだ)


 しかし、それは容易いことではない。シャドウはアリスと同じ思考。だから自分でも考えないような作戦を立てなければならない。


 (相手が大技を撃ったその時がチャンスだ――ッ!)


 作戦は決まっている。後はその時が来るまで粘るだけだ。






 楓はアリスたちの戦いを見ながら自分を落ち着かせる。


 「大丈夫。いつもと同じようにやればいい。何も迷うことはない……」


 自分に何度も言い聞かせるが、体の震えは止まらない。本当に自分は戦えるのか? もし失敗したら……


 (駄目、余計なことを考えちゃ――)


 「そこまで心配する必要はない」


 「祐斗……」


 楓を安心させるかのように祐斗は楓の肩に手を乗せる。


 「いつものお前はもっと積極的だっただろ? 敵に言われたことを真に受けるなんてらしくない」


 「……祐斗もそんなこと言うの?」


 アリスと同じようなことを言われたので思わずムッとしてしまう。


 そんな楓を見て祐斗は優しい笑みを浮かべて――


 「いつまでもアリスに負けっぱなしでいいのか? ここでアイツを倒して驚かしてやろう」


 祐斗なりの励ましだと思うと楓も気持ちが楽になる。


 「……そうね。ずっと負けっぱなしっていうのは私じゃないしね!」


 両手で自分の方を叩き、気合いを入れる。突然の行動に祐斗も少し驚いたような表情をする。


 「よし! やってやろうじゃない!」


 「……吹っ切れたようだな」


 正直まだ怖い。でも祐斗が。自分を信じてくれている人がいるから……


 「……ありがとう、祐斗……」


 ボソッと楓は誰にも聞こえないくらいの声で呟いた。


 そして、その時がやって来る。




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