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精霊殺しの学園生活  作者: はる
第4章 忍び寄る敵
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封印精霊

 (二つの封印か……)


 なんとザックは楓たちと戦闘を行うと同時に祠の封印を解いていた。それも二つ同時にだ。”神無月”を相手にしながらの行動。もはや人間業ではなかった。


 「一つはおまけだが、ま、本題の方から説明してやるか。どうせ言ったところでどうにも出来ないしな。一つはカギを手に入れること。これが本名だ。これだけ達成できれば、もう一つはどうでもよかった」


 ザックの口ぶりから察するに、本当にもう一つの封印はついでであったようだ。


 「そしてもう一つの封印。正直、こっちはどうでもよかったんだが、余裕だから解いちまった」


 ザックの言葉に楓は歯ぎしりする。余裕と言われた。自分では相手にすらならなかった。そのことに悔しさを隠せなかった。そして何よりも戦うことが出来ない自分に……


 「だが、こっちの封印も解いて正解だったぜ。俺の予定ではお前もサクヤにやられているはずだったんだが、全くといっていいほどの無傷。化け物かと疑いたくなるぜ。お前、本当に人間か?」


 「残念な事に人間のようだ。この通り、精霊と意思も共有できているからな」


 ザックだけには言われたくないとアリスは思っていたが。


 「さて、もう一つの封印のことなんだが、話の内容からわかっているんじゃないか、“精霊殺し”さん?」


 アリスの洞察力をザックは理解している。自分が訊いても望んでいる答えが返ってくると。


 「大体はな。お前が言うには、俺が倒れなかったことが計算外。そして、封印を解いて正解だったという言葉。これらから察するに――足止めだろ?」


 「フッ、ふははははーーー!」


 ザックは予想通りと興奮を隠せない。ザックの笑い声が周囲に響く。


 「その通りだ、アリス! たったそれだけでわかるとは。やっぱりお前は面白い!」


 「だが、ここには大した精霊は封印されていなかっただろ? 足止めにもならないのじゃないか?」


 イーストの封印精霊については麒麟から聞いている。恐れることもないはずなのだが――


 「はっ! 流石のお前でもわからないことがあるんだな。安心したぜ」


 「……どういうことだ?」


 「そのままの意味だ。大した精霊はいない。それは正しい。だがな――お前たちにとって厄介な精霊がいるんだよ」


 (どういう意味だ? 大したことがないのに俺たちには厄介な精霊?)


 ザックの言っていることの意味がわからない。階級が低い精霊がアリスたちにとって敵となり得るのだろうか。


 「ま、言葉だけではわからないさ。実際に見てみたらわかる……ということで俺たちは退散させてもらう。行くぞ」


 「……決着はいずれつける。それまでは……」


 サクヤは満足してなさそうな表情でアリスたちに背を向け、この場から去ろうとする。


 「……ッ! 待てッ!」


 「残念だがお前の相手はまた今度だ。”行け、シャドウ”」


 瞬間、アリスとザックたちの間に黒い霧が発生する。


 「……ッ! ちいッ!」


 霧の正体がわからないのでアリスは足を止めざるを得ない。


 霧が晴れる頃にはすでにザックたちはいなかった。しかし、代わりにいたのは――


 (……俺……?)


 目の前に立っている少年。その顔立ちは紛れもなくアリスのものであった。ただ、見た目が自分と同じだけではない。感じる魔力も自分と同じである。


 (あぁ、なるほど。俺たちに厄介な精霊。もう一人の自分と戦うということか。自分が強くなれば強くなるほど、自分の分身も強くなる。確かに厄介な精霊だな)


 ようやくザックの言葉の意味が理解できた。つまりは、こういうことか。それと同時にアリスは額から汗を流す。


 (相手が俺を真似しているということは、この中で俺が一番、実力があるということか。人数でこちらが有利に思えるが、俺と同じと考えると不利なのはこちらか……)


 アリスが“精霊殺し”として実力を発揮する場面――それは相手が多数の時だ。相手の人数が多いほどアリスは有利になる。それはアリスの精霊の特性故だ。しかし、今はその逆だ。もし相手が精霊の能力すら模倣できるのなら――


 (非常にまずいな……)


 しかもこちらには戦意が喪失している楓がいる。楓に”ソウルイータ-”を使われ魔力を奪われたら先にアリスの魔力が尽きてしまうかも知れない。


 (自分が相手だというのも、やりにくいな……祐斗と手を組んで仕留めるべきか)

 

 アリスは軽く祐斗に目配せをする。それに対し、祐斗は頷く。祐斗もアリスと同じことを考えているようだった。


 (なら、仕掛けるなら俺から始めた方がいいな。実力は互角。不覚をとることはない――ッ!)


 アリスはもう一人の自分――シャドウとの距離を詰める。シャドウもアリスの行動を読んでいたのか、アリスが動くと同時に動き出していた。


 二人の中間地点で精霊武装が交わる。だが、正面からぶつけ合うということはしない。アリスが精霊武装を振るうと、シャドウは剣の腹で受け流す。逆もまたしかり。まるで二人の間に鏡が置かれているような――二人の実力が同じことを示していた。


 (くそッ! 何がイーストの封印精霊は大したことないだ! 下手をすればファフニールよりも厄介だ!)


 アリスは心の中で悪態をつく。


 麒麟の言葉――封印精霊が大したことないというのは事実である。しかし、#戦争であれば__・__#の話である。


 戦争では数がものをいう。一人だけ強い戦士がいたところで戦争で勝敗が決することはない。例え王級精霊の力を持ってしてもだ。だからシャドウが模倣したところで活躍することはなかったのだ。

 だが、戦争が終わった今、シャドウは無類の力を誇る。現在の戦いでは強い人間が必要となる。騎士や冒険者、彼らに求められるのは個の力なのだ。そんな今、相手の能力を模倣できるシャドウは天敵ともいえる精霊であった。


 現在に生きるアリスと戦争時代を生きた麒麟――二人の価値観が違うが故に起こった間違いであった。


 戦況は全くといっても進展はない。当然、自分と戦っているからだ。しかし、明らかにアリスたちに疲れが見え始めた。


 (さっきの戦いで魔力もだいぶ減っているか。それは祐斗も同じ。だが、相手は全快に近いか……)


 こちらは魔力がないというのに、シャドウは関係無しにと何度も魔法を放ってくる。模倣するなら魔力量も模倣しろとアリスは思う。


 (何か弱点はないのか――ッ!)


 もちろん、アリスとしての弱点ではない。シャドウ自身の弱点である。


 そう考えた。その時――


 ――アリス。今はどうような状況なのだ?――


 突然、脳内に声が響く。誰の声――無論、麒麟のものだ。


 (おいッ! 何が大したことないだ! 今はその大したことない精霊に苦戦しているんだ! 何か弱点はないのか!)


 はんばヤケクソでアリスは答える。麒麟も若干、アリスの剣幕に引いている。


 ――お、おう。それは済まなかった。我の時は大したことがなかったのだが、確かに個別となると危険な奴かも知れなかったな。我も昔と同じような――


 (そんなことはどうでもいい! それよりも弱点はないのか!)


 シャドウの攻撃を捌きながらアリスは麒麟に怒鳴る。余計なことはいい。ただ弱点を教えろ。それ以外は必要ないと。


 ――うむ、確か奴は”浄化”に弱かったはずだ――


 (”浄化”だと……?)


 何故ここで”浄化”が出てくるかわからない。別にシャドウは呪いの類いの精霊ではないはずだ。


 ――左様、奴は憑依を用いて相手の能力を模倣する。故に”浄化”には弱いのだ――


 つまりはシャドウは憑依という類いの呪いを扱う精霊というわけか。ならば話は早い。すぐに浄化の魔法を使ってシャドウの憑依を解くべきなのだが――


 (浄化の魔法を使える人間がいないかもしれない……)


 アリスは自分以外の二人を見る。


 アリスが見ている限りでは、楓たちは自分以外の属性の魔法を使えないと思っている。ならば楓は火、祐斗は光しか扱えないと仮定する。そして浄化の魔法が存在するのは水と光。光を扱うアリスと祐斗が使うのは容易に思える。

 だが、そう単純ではない。少なくともアリスは浄化の魔法を使うことが出来ない。


 同じ属性でも一概には言えない。攻撃、防御、回復など様々な種類が存在する。その中でもアリスは攻撃に長けており、逆に回復などのサポート寄りの魔法には疎い。攻撃系の魔法であれば他の属性も扱えるアリスだが、サポートの魔法については初級であっても使うことが困難であった。


 さらには、攻撃などすべての魔法が高水準の使い手などほぼ存在しない。それは国を代表する”エルフリーデ”であってもだ。アリスを含め、アレクシアとエルシアは攻撃、シェリルはサポートとすべての魔法を扱える者はいない。例外としてガイアは攻撃型だが回復魔法も使える。だが、フェニックスの”再生”の力を使ってだ。ガイアだけでは回復魔法を使うことは出来ない。


 アリスの予想では祐斗も自分と同じ攻撃型。浄化の魔法は使えないだろうと判断する。


 「くそッ! 浄化の魔法が使えれば――ッ!」


 数少ない勝機――見えているにもかかわらず何も出来ない自分に腹が立つ。


 「”浄化”だと――?」


 微かに漏れたアリスの言葉に祐斗は意味ありげな反応をする。


 「もしかして浄化の魔法が使えるのか――ッ!?」


 思わずアリスは声を上げる。”浄化”を使える人間がいるかも知れない。だったらこの戦いは自分たちが有利になると確信して。


 しかし、祐斗の反応は微妙なものであった。


 「いや、俺が使えるわけじゃない。”浄化”を使うことが出来るのは……」


 祐斗は視線を違う方に向ける。祐斗の視線の先、それは――


 (楓……? まさか楓が使えるというのか……?)


 それはあり得ない。何故なら楓も恐らく攻撃型。さらには火属性。とても”浄化”を使えるとは思えなかったが――


 (まさかッ! アイツの王級精霊の能力は――ッ!)


 ある可能性を思い浮かべ、アリスは目を見開く。祐斗もアリスの反応を見て理解したのだろうと判断する。


 「本当は言ってはいけないことだが、緊急事態だから仕方ない。どうせ、お前もわかったんだろ? 楓が持つ能力――それは”浄化”だ」


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