第九十四話 セイカの魔力
「……あれ? ここは……。というか私……?」
気を失ったままだったセイカの意識がついに戻った。
地べたに寝かされていた彼女は頭を押さえながら、ゆっくりとその体を起こしていく。
「せ、セイカっ!」
「大丈夫なの!? 心配したんだからね……!」
そんなセイカにガガクとカグラが飛びつくように抱きつく。
だがまだ体に上手く力が入らないのだろう。危うく九歳児二人に押し倒されそうになったところを――モモヒメが背中を支えて防ぐ。
「こら二人とも。嬉しいのは分かるけど落ちつきなさい。今、意識が戻ったばかりなのよ?」
そのモモヒメが二人を注意して引き離してから。
こういう時に頼れる我らが回復担当の堕天使族が、目を覚ましたセイカの状態を確認する。
「どこか痛むところはないかしら? とくに外傷はなさそうだけど……そもそもあなた、プリバトヤに何をされたの?」
「……ありがとう、モモ。でも大丈夫。ちょっと体がダルいだけだから。……アイツには多分だけど……魔力を一気に吸われたんだと思うわ」
体はダルくとも意識はハッキリしているらしく、セイカが力強い声で答えた。
モモヒメの言った通り、セイカの体にはとくに傷らしい傷は見えない。
袖を捲くったシャツに五分丈のズボンという、いつものボーイッシュな服装にも乱れはない。
どうやら本当に意識を失っていただけと考えれば――おそらくただの魔力切れの症状だったと思われる。
「魔力を吸われただと? ってことはやはり……あの莫大な魔力はセイカのもので間違いねえっつうわけか」
「みたいだな。ただそうなってくると……」
あの時、現地にいたムウマとテンドウが目を見合わせて頷く。
……やはりカン違いなどではなかった、と。
理解不能な、戦場全体に溢れんばかりだった凄まじいまでの魔力量。
それがセイカのものだと判明した今、気になるのは当然、なぜセイカがそんな魔力量を有しているのか? だ。
その質問を二人がする前に――察したセイカ本人が先に答えを口にする。
「――『特異体質』よ。アイツの左目の義眼、『天通眼』っていう魔道具らしいけど……。それで私の『特異体質』を見抜いて接触してきたのよ」
「!? なッ……セイカの『特異体質』だと!?」
「別にそんなに驚くことじゃないでしょ、テンドウ? ……たしかに私だけ発現してなかったけど、人間ファミリー内では当り前のことだったじゃない」
その突然のセイカの告白に皆が驚かされてしまう。
さすがに状況が状況だったので、いつかセイカも発現するとは誰もが思っていたが……。
「んでよーセイカ。そのオメーの『特異体質』とはいってー何なんだ? あの意味不明な魔力量と関係あんだろ?」
と、今度はロッポウが前のめりになって聞く。
長年、強者を求めて戦ってきたロッポウでさえも、あんな莫大な魔力を感知したのは初めての経験だったのだ。
明らかに個人単位のレベルではなかったため、かなり興味津津な様子だ。
「……【人間魔力炉】。ヤツは直前にそう言ったわ。私も初めて聞いたけど……まあその名前からどんなものかは想像つくわね」
「な、【人間魔力炉】だべか!? それってあのトンデモ『特異体質』のことだべよな!?」
セイカが口にしたその名前を聞いて、顎が外れんばかりに驚愕したのはヒュウガだ。
同じく知っていたテンドウ、ムウマ、ヨシくんもまた、似たような反応をしている。
【人間魔力炉】。
セイカ本人は知らなかったものの、それは最も有名な『特異体質』と言っても過言ではない。
今回の阿修羅地蔵の召喚のような、強大な魔法を発動、展開する際に必ず必要となるのが膨大な魔力だ。
それをたった一人で賄える存在こそ、【人間魔力炉】持ちの人間である。
平均的な魔力量の者で数えれば、万単位分に相当するほどの莫大な量だ。
だからこそ人類の歴史上、この『特異体質』を持つ者を巡って国家間の奪い合いが起きていた。
現代ではそういう争いもなくなってはいるが……戦乱の世だった頃は何度も起きたことが歴史書にも記されている。
「まさかの最後の最後に……真打ち登場って感じだな」
――つまりはそれほどの価値、極めて重要なものを今のセイカは持っているのだ。
ファミリー内で最も遅くに発現した『特異体質』は、時間がかかったのも納得な最も影響力のあるものだった。
「ねえ、というか私の方も一つ聞きたいんだけど……。ここが地下なのは分かるけど、さっきから感じるこのヤバすぎる魔力は何なの?」
するとここで逆にセイカから質問が。
上から漏れてくる得体の知れない魔力を全身に浴びながら、固まったように天井の岩盤を見上げている。
ただその顔色が暗くなっているのを見れば……本人も薄々気づいてはいるだろう。
判明した自分の『特異体質』。
地下にいても感じ取れるほどの謎の強大な魔力。
そして、地上にある我が家(カンナギ城)ではなく、なぜか皆で地下にいるという異常事態――。
「まあ、何と言うか……。プリバトヤのヤツがまた好き勝手やってだな。『三大ファミリー』を生贄にして、阿修羅地蔵っていうバケモノを呼び出したんだよ」
代表してテンドウが真実を告げる。
一応、セイカの魔力が使われたことは伏せてはいるも……さすがに本人も理解しているのは雰囲気で分かった。
「……ごめん。まさか私の『特異体質』が悪用されるなんて……。しかもこんな形で迷惑をかけて……!」
「何言ってんだ! セイカに責任はねえ、顔を上げろ! ……許すまじはプリバトヤです!」
頭まで下げて謝罪するセイカに、ドンチンが南瓜な頭を横にブンブンと振る。
それに続いて「何も悪くないですハイ!」「であるな!」と、ピンやコロをはじめとした仲間の南瓜頭族たちも、一斉に南瓜な頭をブンブンと振った。
そんな可愛らしい仕草を見て、セイカの顔色が少し明るくなった――その矢先。
何かに気づいてしまったセイカの目が――飛び出んばかりに大きく見開かれた。
「ねえ、ちょっと待って。……ネゾウは? ネゾウはどこにいるの……?」
いくら周りを見渡してもネゾウの姿だけがない。
ともに城の中で多くの時間を過ごしてきた心優しき年長者が、種族を越えた仲間たちの中に見えなかったのだ。
「「「「…………、」」」」
……その至極当然の疑問に、テンドウたちは誰もすぐには答えられない。
思わず顔を背ける者や俯く者、目を閉じた者や一点を見つめたまま固まっている者もいる。
だがそれこそが答えであると、皆でセイカに伝えたようなものだった。
「そん……な……!」
現状を理解してしまったセイカの上体が崩れる。
両手で顔を覆い、そのまま地面に突っ伏すように崩れてしまう。
――それと時同じくして、ズズゥウン――と。
タイミング悪く地上の方で震動が生まれ、天井からパラパラと土が落ちてくる。
「「「「ッ!?」」」」
しばらく大人しくしていたと思っていたが……どうやらまた暴れ始めたようだ。
第一から第五まである地下街(地下空間)は一応、土魔法で補強はされている。
それでもあの地蔵な巨体で近くで暴れられては、崩落の恐怖で生きた心地はしない。
「――とにかく話は後だ。大丈夫だとは思うが、念のためにもっと距離を取って安全な場所に移ろうか」
ここでゲッコウからの冷静な提案を受けて、テンドウたちが無言で頷く。
崩れ落ちてしまったセイカはモモヒメが支える形で立たせると、震動が響き始めた中ですぐに行動を開始する。
ひとまず阿修羅地蔵が動く方向とは逆の方角へ。
テンドウを中心に地下の邪魔な敵対アンデッドを蹴散らしながら、一行は『第一地下街』を進んでいくのだった。




