第九十二話 災厄
少し長めです。
百年前の大規模発生でも壊れなかった五つの陸橋が次々に崩落していく。
放つ魔力の圧だけで崩れ去ったその瓦礫の上に――大いなる怪物は静かに降り立った。
『――――、――――』
――圧倒的な魔力と存在感。
もし『三大ファミリー』が消失しなかったとしても、その中心は決して変わらないだろう。
規格外な存在であった『不死の三傑』すら軽く凌駕するほどの怪物は、すでに亡都の空気を完全に掌握していた。
体長は推定三十メートル。巨体で知られるニゴマルの三倍はある体躯だ。
これより大きな存在となると、亡都ヤマトニアでは中央に立つカンナギ城くらいしかない。
その体色は錆色で、体表には血管のような白い筋が数多く走っている。
頭部の大きさや手足が短いという体の形状的には、どこか地蔵にも似た印象を受けるが……その顔は修羅のような恐ろしい形相だ。
また全身からは魔力のほかにも瘴気が溢れ出ており、近づくだけで危険な存在であると一目で分かる。
……そして、極めつけは鼓動だ。
巨大魔法陣による召喚が始まった時から聞こえていた、重低音な心臓の鼓動のような音。
巨体から響くそれは周囲の空気を震わせるように、亡都の隅々にまで届いている。
「――『不死の三傑』だったか? 長く君臨した支配者としては呆気ない最期だったな。……まあ、所詮はこの亡都から出られずに縛られた存在だ。生贄としては最適だったな」
現れた巨大な怪物を見上げながら、プリバトヤはこれ以上ないほどにご満悦な様子だ。
普通なら怪物が放つ凶悪かつ強大な魔力に恐怖し、絶望するのだろうが……。
何を隠そう自身が呼び出したがために、むしろ諸手を挙げて喜んでいる。
「『召喚ノ儀』カ! ヨクモ俺ノ仲間タチマデ……! 魔力ヲ集メテイタノモ、コレガ理由ダッタカ!」
「当然だろう。何を好き好んでアンデッドなんぞに……。ただの慈善で手を貸すなどあり得んな」
ニゴマルの怒りに侮蔑の態度を向けるプリバトヤ。
手を組んだと思われていた両者の関係は、ファミリーの腐肉族をすべて生贄に捧げたことで、今をもって完全に破綻している。
となればどうなるか?
プリバトヤとニゴマル、強者同士の殺し合いに発展しそうな空気となるが……実際にそれが始まることはなかった。
「「!!」」
召喚されたばかりの怪物の視線、ギョロリとした大きな目玉がプリバトヤとニゴマルの方を向く。
……それもそのはずだ。
今、この場にいるのは召喚者であるプリバトヤと、生贄を免れたニゴマルだけなのだから。
――標的として完全に狙われている。
その向けられた目に人間性など皆無。召喚者であろうが何であろうが関係ない。
とにかく目についた者に対して、欲望のままに殺戮を行うケダモノのそれだ。
「では一旦、私は消えるとしよう。お前の方はせいぜい頑張るがいい。アレから逃げ伸びられるのならな――下等生物よ」
そう吐き捨てて、プリバトヤの足元に小さな転移陣が浮かぶ。
怪物が巨体の向きを変えて迫ろうとする中、接近を許す前に一足先にどこかへと飛んでいってしまう。
――この世界とは違う、別の異空間に存在していたバケモノ。
そんなものを召喚しておきながら、プリバトヤは無責任にも現場を放棄。
彼の詳細な狙いは不明だが……とにかく何らかの計画が進み始めたことだけは分かる。
「クッ! オノレ、アノ魔道士メ……!」
一方、仲間を犠牲にされて怒りに震えるニゴマルはというと、
その怒りのままに暴れ出したい衝動はあれど、冷静に目の前の存在を確認して――即座に動く。
選んだのは退却だ。
『三大ファミリー』の頭を務める強大なアンデッドといえども、さすがに一体だけでどうこうできる相手ではない。
相変わらずの魔力も気配も足音もなく、ニゴマルは巨体を揺らして走り出す。
それを見た後方の巨大怪物もまた、現場にいる唯一の獲物を逃すまいと動き始めた。
『――、――――』
敏捷性は低いが推定三十メートルの巨体ゆえに、すり足のような一歩はかなり大きく、移動が遅いということはない。
一切の音のない隠密なニゴマルとは正反対に、巨大怪物は大地を激しく踏み締めながら追っていく。
そんな二つの存在が向かう先にあったものは――。
◆
「オイちょっと待て!? 勘弁してくれ……! アイツらこっちに来ていないか!?」
異形発生に続いてまたもプリバトヤが引き起こした異変。
ただ今回はもはや災厄とも呼べる状況に、テンドウの顔はこれ以上ないほど引き攣っていた。
現れた巨大怪物は地蔵なのか修羅なのかは判別できないが……少なくとも純粋なアンデッドではないと思われる。
そんなバケモノを引き連れる形で、ニゴマルはパンドラがある方向に向かって逃げてきていたのだ。
「マズイぞ! 皆、すぐにここから退避するんだ!」
と、この緊急事態にパンドラの責任者であるイマタイの声が響く。
……やはりパンドラなら安全、というわけにはいかないらしい。
ニゴマルも一縷の望みをかけてこっちに向かってきたのだろうが……今回は相手が相手である。
地下にいた魔法陣の設計士、ゲッコウが造ったという守りの魔法陣。
それによって戦闘不可の安全な領域となっていても、さすがに例外はあるようだ。
あの巨体、というよりもあの人智を超えた怪物には、何の効果もないということなのだろう。
「もしかしてアイツが噂にあった『封じられた何か』ってやつか!? 本当に存在したっていうのかよ!?」
「いやだがそれにしては……! 召喚だから封印を解いたとは違うんじゃねえか!?」
「じゃあアイツは何なんだ!? ムウマ、【種族感知】だとどうなっている!?」
「いやダメだ。不明種とすらも出てねえ! とりあえず何もかも普通じゃねえ存在ってわけだ!」
凄まじい魔力と大地を揺らす足音を感じながら、二人も大慌てでパンドラを離れるべく動き出す。
テンドウはクロちゃんに騎乗し、ムウマは【追い風】の風魔法を自身にかけて、一目散にパンドラの外へと出た。
――当然、自分たちが逃げ切ることは重要ではある。
だが今、何よりも気になるのは――セイカの安否だ。
あの謎の巨大怪物を召喚するために生贄となった大量のアンデッド。
その生贄つきの謎の魔法を発動するにあたって、一瞬にして消費された膨大な魔力は、なぜかセイカの魔力が中心となっていたのだ。
プリバトヤが城にいるセイカに接触したことは確実――。
二人がそんな心配をしていた後方では、地面とは違う何かが踏み潰される音が。
「「「「ッ――!」」」」
瞬間、わざわざ振り返らずとも逃げている全員が理解した。
やはりあの巨大怪物を前に安全な場所など存在しない、と。
「くっそ! 何度も世話になった店が……! とにかく俺たちは城に戻るぞ!」
「だな。休憩なしの全速力でいくぜ!」
「ブルルゥウッ!」
騎乗したクロちゃんもムウマも全力で脚を回転させて貴族街を駆ける。
今のところは狙いがニゴマルに向いているので直接的な危険はない。
パンドラを越えてからニゴマルとは進路が別になったため、足音による震動や謎の心拍音もわずかながら小さくなっている。
おそらくもう大丈夫だとは思われるが……念には念を入れて逃走自体は止めない。
(ったく、もう異形どころの騒ぎじゃないぞこれ……!?)
その道中では、貴族街のほかのアンデッドたちとすれ違うも、一体たりとも襲ってはこない。
理由は単純明快だ。巨体ゆえに距離があっても見える巨大怪物に、すべての意識が向いているからである。
そんな緊急事態であっても、唯一、テンドウたちに近づいて声をかけきたのが――。
「おいオメーら! こりゃ一体全体どーなってんだ!? 何だあのヤベー地蔵モドキは!?」
スーツ姿の吸血鬼族ことロッポウである。
今日はガガクとカグラと一緒にバクラ闘牛場に行っていたはずだが、異変を察知してここまでやって来たのだろう。
「とりあえずヤバイことが起きた! 詳しい説明は後で……ッ!」
合流したロッポウとともに、ひとまず一行はカンナギ城へと向かう。
ただ緊急事態ゆえに、いつものように城を囲む庭園をぐるりと回りはしない。
「――【火線突き】!」
唯一の出入り口がある南ではなく、最短距離で。
庭園の柵を炎太刀で破壊し、直線的なショートカットで城を目指していく。
そうして庭園を真っすぐ横切っていると――すぐに皆の姿が見えた。
やはり中央の城まで異変は届いていたらしく、心配そうな顔で城の外まで出てきている。
「だいぶマズイ状況になった! けど、それよりもセイカは大丈夫か!?」
クロちゃんから飛び降りながら、テンドウは慌てて皆のもとに駆け寄る。
ガガクやカグラもすでに戻っていたらしく、全員が城の外に集まっている中で――地面に寝かされているセイカの姿があった。
「うむ、セイカの方は大丈夫じゃ。二階の部屋で一人倒れておったが……どうやら気を失っているだけのようじゃのう」
「そ、そうか……。ならよかった。セイカの魔力が意味不明な規模で現れた時は心臓が止まるかと思ったぞ……」
最も心配していた仲間の無事を確認して、テンドウはホッと胸をなで下ろす。
そしてひとまず準備を整えるべく、一度、城の中に入ろうとする。
その時だった。
――ぞわりと、背筋に悪寒が走って第六感が警鐘を鳴らした瞬間。
体感したことのない強大すぎる魔力の気配が、なぜか急接近してきて――。
「「「「!?」」」」
ゴゴォオオ! という暴風が吹き抜けたような凄まじい轟音が発生。
何事かと即座にテンドウたちが見上げると……あるべきはずのものがすでに存在していなかった。
「な……!?」
それを確認した瞬間、全員の心臓が一瞬だけ止まる。
これまで絶対的な安全地帯であり、人間ファミリーをアンデッドから守ってきてくれたカンナギ城。
その白亜の城の上部、三階以上の部分が――跡形もなく消し飛んでいた。
◆
突然の攻撃によるカンナギ城の破壊。
瓦礫一つさえ残さずに完全に消失させたその威力は、テンドウたちを戦慄させるには充分すぎた。
その犯人が誰かはいちいち説明されずとも分かっている。
ただカンナギ城の三階以上が消し飛んだこと自体よりも、遥かに問題であったのが……。
「オイオイ、ヤベエぞ!? ヤツがこっちに向かってきてやがる!」
ムウマの悲鳴染みた叫び声を受けて、テンドウたちは状況を理解する。
つまりは標的の変更――。
狙われていたニゴマルがどうなったのかは一切不明だ。
だが、とにもかくにも巨大怪物の獲物が、街の中央にそびえ立つカンナギ城に変わったことだけは分かった。
「ウソだろ!? てことはもう……脱出するしかないってことかよ!?」
……どうやら悠長に準備をしている時間などないらしい。
まだ離れていてもたしかに近づいてきている足音と震動、さらには恐ろしい心臓の鼓動。
巨大怪物が近づいてきているのを感じて、人間ファミリー全員が即行動しなければならなくなってしまう。
「ッ! ネゾウはセイカと一緒にクロちゃんに乗れ! ほかの皆は全員、突っ走るぞ!」
さらなる緊急事態を前に、戦闘班のリーダーであるテンドウが指示を飛ばす。
最も動けない年配者のネゾウと、気を失ったままのセイカはクロちゃんの上へ。
残るテンドウ、ムウマ、ガガク、カグラ、ヨシくん、ヒュウガは自分の脚で逃げることに。
「ははっ、じゃー出発するか! 逃走劇としゃれこもーぜ!」
加えて、戻る途中で合流したロッポウも一緒に庭園を走り出す。
まだ城への二発目の攻撃は来ていないが……やはり狙いはカンナギ城で間違いなさそうだ。
そんな巨大怪物が進むのは、道など関係がない一直線の最短距離だ。
人智を超えた魔力と恐ろしい瘴気、さらに不気味な鼓動をまき散らしながら、大きな一歩で街を揺らし、破壊しながら近づいてきている。
「――あ、いたぞっ!」
「皆も早くここから離れるよ!」
と、ここでガガクとカグラが走りながら正面に向かって叫ぶ。
声をかけたのは貴族街の第二拠点、軍宿舎を任せている南瓜頭族ファミリーだ。
そのドンチンたちに加えて、居候のモモヒメも異変に気づいて軍宿舎から出てきている。
彼らはどうしたらいいのかと、巨大怪物の方を見ながら右往左往していた。
「ドンチン! とりあえずお前は兜化だ! 被って逃げた方が速い! ほかの皆は悪いが自分で走ってくれ!」
「お、おう! ……では失礼して!」
「了解ですハイ!」
「であるな!」
「まったくしょうがないわね……!」
ドンチンたちと合流し、そのまま南下するテンドウたち一行。
巨大怪物がカンナギ城を完全に破壊しようとするうちに、最低でもさっさと貴族街の外までは出たいところだ。
――が、ここで想定外の事態が起きた。
カンナギ城に狙いを定めていたはずの巨大怪物が、なぜか想定していたルートを外れたのだ。
しかも、まるで城を離れたテンドウたちを追いかけるかのように。
知性の欠片もないケダモノの目は、気づけば大通りを走っているテンドウたちの姿を捉えていた。
「「「「なッ!?」」」」
それすなわち、またも起きてしまった標的の変更。
城の上部だけを破壊して満足したのか、あるいは興味を失っただけか。
そびえ立つカンナギ城ではなく、背中を向けて逃げるテンドウたちに矛先が向いてしまう。
そのテンドウたちはまだ貴族街の外にすら出ていない。
さらに先にある街と外を隔てる外壁など……まだ遥か遠くである。
――このままでは街を脱出する前に追いつかれてしまう。
追跡者の速度と残る距離から鑑みて、逃げている全員がその現実を瞬時に理解してしまった。
(くそっ! だからって交戦するのは自殺行為だぞ!?)
膨大な魔力と生贄によって生み出された謎の巨大怪物――。
明らかに国単位で戦うべき強大な存在に『人間南瓜同盟』とロッポウだけで挑めば、真正面から叩き潰されるのがオチだ。
……ならばどうするべきか?
ただ必死に脚を走らせるだけで、名案が浮かばないままテンドウたちはあっという間に距離を詰められてしまう。
元から強烈すぎる魔力は大して変わらずとも、背中越しに聞こえる鼓動の音は明らかに大きくなっていて――。
「――こっちだお前ら! 急げ潰されるぞ!」
「「「「!?」」」」
その窮地に響いた声は、どこかで聞き覚えのあるものだった。
声が聞こえた右斜め前方を見ると、そこには見覚えのあるアンデッドの姿があった。
「ゲッコウか!? お前も地上に来ていたのか……!」
声の正体は白い首巻を巻いた木乃伊族のゲッコウだ。
地下にいるはずの無気力だった集落のアンデッドは、地上のヤマトニアまで出てきていたらしい。
「早くしろ! 街の外は間に合わん。一旦、下に潜るぞ!」
「! そ、そうか。そっちなら……!」
予想外な登場人物に驚くも、すぐに察したテンドウは動く。
前進ではなく足元へ。街の外への脱出は諦めて、仲間たちを率いてゲッコウの方に進路を変える。
そのゲッコウがいる路地裏の先には、下へと続いていると思われる穴が確認できた。
大きな一歩で巨大怪物の猛追を受けているが……距離的には何とか全員が間に合うはずだ。
そうテンドウが心の中で安堵したタイミングで――不測の事態は起きてしまった。
「……参ったのう。やはり歳は取りたくないものじゃな……!」
一緒に逃げる南瓜頭族たちの焦った声に気づき、テンドウが振り返った瞬間。
視界に映ったのは、建物を蹴散らしながら百数十メートルほどの距離に迫る巨大怪物と――クロちゃんから落馬したネゾウの姿だった。
「しまっ――ネゾウ! 大丈夫か!?」
ドクン、とテンドウの心臓が跳ね上がる。
可能性としては充分に起こり得た最悪の状況――。
気を失ったセイカを乗せたクロちゃんが慌てて戻ろうとするも……迫っている巨大怪物に気圧されてネゾウに近づくことができない。
「ちょっと待ってろ、俺が今――」
「ダメだ! もう手遅れだ!」
テンドウが急いで駆け寄ろうとしたのを止めたのはゲッコウだった。
鬼気迫る表情でその腕を掴み、静かに首を横に振る。
それでもテンドウはネゾウを助けに行こうと、ゲッコウの木乃伊族な細腕を振り払う。
だがそんな若者を再度、手で制して止めたのは――ほかでもないネゾウだった。
「ワシに構うな! 早く地下に逃げるのじゃ! どのみちもう動けそうにないのう……!」
リスクを冒して自分を助けようとする仲間を手で制し、ネゾウが叫ぶ。
苦悶の表情を浮かべた彼は、その反対の手で自身の腰を押さえていた。
クロちゃんの種族である黒仮面馬族が持つ、騎乗者との一体化の能力。
それによって誰でも騎馬名人になれるとはいえ、騎乗者の踏ん張る力が弱ければ完全にバランスを取ることは難しい。
加えて、気を失ったセイカも片腕で押さえていたのだ。
その万全とはいえない体勢で騎乗していれば……腰を痛めているネゾウが落馬してしまうのも無理はなかった。
「「「「ネゾウッ!」」」」
同じ人間だけでなく、アンデッドである南瓜頭族たちやロッポウ、モモヒメも仲間の名前を呼ぶ。
その声色が泣き叫ぶような、心底焦った声である理由は……ただ一つ。
一軒家を丸飲みできそうなほどの大口を開けて――巨大怪物がすでに攻撃態勢に入っていたからだ。
どうやら前進して踏み潰すのではなく、跡形もなく消し飛ばすことを選んだらしい。
狙いは当然、道のど真ん中で倒れているネゾウだ。
もはや上位魔法という枠では済まない、大口に集束している極大の魔力――。
その量や密度からしても、カンナギ城の上部を消し飛ばした遠距離攻撃だと思われる。
――もう救助は間に合わない。
もし転移魔法があったとしても、それでも発動が間に合うかどうかの瀬戸際だ。
……だからもう何もできることなどなかった。
テンドウたちが巻き込まれないためには、一刻も早くここを離れなければならない。
「――皆は必ず生き延びるじゃ。絶対に、約束じゃぞ?」
スズランの墓前で約束した、残された全員での脱出が不可能となった状況で。
ここでの別れを覚悟したネゾウは、いつもの優しい笑みを浮かべて最期の言葉をテンドウたちに伝えた。
『――――――』
直後、巨大怪物の口から放たれた破滅的な一撃。
標的のネゾウを中心に着弾した超高密度の魔力の塊は、凄まじい衝撃波を生み出して瞬く間に周囲を飲み込んでいく。
「「「「――ッ……!」」」」
その余波に巻き込まれる数秒前、テンドウたち全員が路地裏の穴に飛び込んでいた。
光が届かない穴の中を、地上から伝う震動と轟音に身を竦ませながら――無力のままに転げ落ちていく。
……また一人、人間ファミリーから出てしまった新たな犠牲者。
常に冷静で博識で、その『特異体質』で皆の食料を支えてきた功労者であり年長者。
そんなネゾウの犠牲を弔うヒマもなく、テンドウたちはただ地下へと逃げ込むことしかできなかった。
ひとまずこれで第三章は終わりとなります。(区切りが難しい……)
次は登場人物一覧を挟み、一日空いて三日から最終章となります。




