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不死ノ国XX記  作者: 三月坊主
第一章 暗澹の貴族街編
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第九話 軍宿舎

 テンドウが亡都ヤマトニアに飛ばされて一カ月半が経った。

 わずかに霧が出ている日の朝、計五十回目となる【属性付与(エンチャント)】を終えたテンドウの顔は――いつもより少し緊張している。


「庭園のヌシ以来か。……二度目の山場になるな」


 亡都からの脱出を狙う人間たち、その次なる狙いが決まっていた。


 街の中心に立つカンナギ城から直線距離で七百メートルの位置にある堅牢な建物。

 貴族街の南端にある軍宿舎だったと思われるその場所を、アンデッドから奪うことが目的である。


「相手は包帯人族(マミー)ね。種族自体も初らしいけど……初めてのファミリーとの本格的な戦いになるわね」

「ああ。その通りだ」


 心配そうなセイカの声にテンドウは頷く。

 相手が単体ではなくファミリーとなれば、今までと違うことは全員が理解している。


 たとえ弱小中堅しかいない南エリアであったとしても、だ。

 強個体である『はぐれ』を除いて、単独でウロつく個体とは脅威度がまるで違うのだ。


 だからこそ、すでに敵側の戦力分析はムウマのおかげでできている。

 軍宿舎を根城にするこの包帯人族(マミー)ファミリーを倒せれば、脱出への足がかりとなる前線拠点が手に入るのだ。


「……にしてもムウマ、あの話が本当だったとはな」

「んだよ、疑ってやがったのか? まあ突拍子もねえ話ではあったがな」


 そう言ったテンドウの格好は、これまでのものとは違っていた。

 羽織る外套こそ胸に『鳳凰の印』があるヒノモト王国軍のまま。だが、その下には私服ではなくきちんとした装備を纏っている。


魔砂護銅具足(まさごどうぐそく)』。


 鉄に魔法処理が施された砂鉄を混ぜて作られた、首から上を除く全身を守ってくれる防具だ。

 ヒノモト王国軍でも支給されるのは部隊長クラスからとなる、価格も耐久力もお高めな代物である。


 なぜそんな立派な防具をテンドウが装備しているのか? それはすべてムウマの活躍があったからこそだ。


「――中立域パンドラ。アンデッドたちが仕切っている、すべての存在に平等に開かれた市場だぜ」


 その時のことを思い出しながらムウマが言う。

 ついこの間、貴族街の北西で偶然、見つけた摩訶不思議な場所のことを。


 そこは一切の暴力が封じられた特殊なエリア。ある意味、安全地帯のカンナギ城と同じだ。

 数多くの露店では様々な商品を取り扱っており、平等の名のもとに人間であるムウマさえも普通に利用できていた。


『――いらっしゃい。ぜひゆっくり見ていってくれ』


 そんなセリフと優しい笑顔まで浮かべるほどに、人間性が強く残った喋るアンデッドの店主たち。

 市場を運営する彼らには敵対心の欠片すらなく、人間と同じように商売をしていたのだ。


「なあムウマっ! 何で僕たちの分はないんだよ?」

「私たちも『特異体質』が分かって立派な戦力なのに!」

「……仕方ねえだろ。子供サイズはなかったんだから。今度行く時に用意しとくって約束したから、それまでは我慢しろ」


 不満そうなガガクとカグラの頭をムウマがワシャワシャする。

 そのムウマ本人も装備を新調していないのは、単に機動力重視だからだ。

 戦闘に直接、関わることはほとんどないため、何よりも速度が命である。


 ――ちなみに、そのパンドラでの支払い方法については……物々交換だ。

 貨幣経済など国の滅亡とともに終わったので、当然といえば当然か。

 ムウマが高い防具を購入できたのは、城にある高価そうな調度品と交換したから、というわけである。


「さて、じゃあ行こうか。……ファミリーとの血生臭い抗争に」


 戦闘班のリーダーであるテンドウを先頭に、ガガクとカグラ、ムウマとヨシくんが続く。

 準備は万端、勝算があるからこそ誰一人として怖気づいた様子はない。


「いってらっしゃい。もちろん分かってると思うけど……」

「全員無事に、一人も欠けることなく帰ってくるんだよ」

「もし厳しいと思ったら撤退するのも勇気じゃからな」

「ああ、分かっているさ。……絶対に必ず、だ」


 そうして、居残り組のセイカ、スズラン、ネゾウの三人に見送られながら。

 軍宿舎を攻略すべく、テンドウたちは強い決意を持って城外へと出たのであった。



  ◆



 初めてとなるアンデッドのファミリーとの戦い。

 大一番を前にしたテンドウたちは、いつも以上に慎重になって貴族街を南に進む。


 今回はとにかく道中での戦闘回避が第一優先だ。

 力を温存するため余計な戦闘は避けて、大きく迂回してでもアンデッドとの遭遇を避けていく。


「……お。こんなところにも湧き水があるのか。軍宿舎を取ったらここの水が使えそうだな」

「待て、テンドウ。そりゃけがれ水だ。人が飲んだら体に悪いし、アンデッドどもが集まるうえに、付近には『はぐれ』も湧きやすい三重苦だ。……だから近づかねえ方がいいぜ」

「お、おお。そうだったのか……」


 道中、湧き水を見つけたテンドウにムウマが忠告する。

 聞けばこの情報も中立域パンドラで得たものらしい。

 情報は生存率を上げるために必須であるため、パンドラの住人にはただただ感謝である。


 そんなこんなで、引き続き慎重に目的地を目指す一行。

 相変わらず治安が悪いというレベルでは済まない、いつも通りの危険極まりない不死の街だ。


(いや本当……アイツはいつもいるよな?)


 ……それは何も地上だけに限った話ではない。

 上を見上げれば大型のアンデッド、奇声を上げて亡都上空を飛び回っている怪鳥の姿も見えている。

 今日まで何度も下から見ているが……現段階では勝てるか怪しい相手だ。


 そんな恐ろしい街を戦闘なしで、迂回によって一キロほど進めば――現在は包帯人族(マミー)が支配する軍宿舎の姿が見えてきた。

 一応は貴族街にあるからか、軍の施設としては小じんまりとした二階建ての建物だ。

 ただし囲う壁は三メートル近くあり、頑丈な造りだからか百年経った今でも崩れていない。


 やはり立地的にも建物的にも文句なし。改めて見てもぜひ手に入れたい場所だ。


「よし、やるか。……作戦通りにいくぜ」


 そして、入口である修復の跡が残った石の門を破壊して、正面から突入――などするはずもなく。

 調査を担当したムウマの案内で、テンドウたちが入ったのは軍宿舎の隣にある民家だった。


 こちらも同じ二階建ての建物だ。

 カビや埃臭い荒れ果てた家の中を土足で上がり、階段を登ってまずは二階へ。


 さらに廊下を進んで奥の扉を開けると、床に玩具が散乱している子供部屋に。

 そこにはムウマが事前に用意していた梯子があり、それを使って崩れた天井から屋根に上がっていく。


「(――皆、準備はいいな?)」


 そう小声でテンドウがほかの四人に確認する。

 すでに敵地の真隣にいるため、皆がコクリと無言で頷いた。


 ならば即行動あるのみだ。

 ムウマの【魔力探知】では敵はまだこちらに気づいていない。

 その隙に一緒に屋根上に引き上げていた梯子を倒して、隣の軍宿舎を囲う壁にかける。


 そして何とかギリギリで届いたのを確認して――いざ侵入開始だ。

 少しグラつく梯子を素早く渡り、テンドウを先頭に次々と軍宿舎の敷地内へと入っていく。


「!? 何だ貴様――ッが!?」


 軍宿舎の正面にある縦横二十メートルほどの広さの空間。

 そこにいた最初の包帯人族(マミー)を侵入すると同時、抜いていた青い炎刀で首を刎ねて、テンドウが手早く処理する。


 ――まず一体。ここのファミリーは全部で九体と数は少ないので、圧倒的な数の力で押し切られる心配はない。

 気づかれる前に各個撃破すれば、早くに同数対決まで持ち込めるが――。


「……くっそ。できればもう一体くらいは減らしときたかったな!」


 順調だったのはここまでだった。

 一体目を倒すとほぼ同時に軍宿舎の扉が開かれ、異変を察知した全身包帯姿のアンデッドたちが建物から続々と出てくる。


「人様の家に勝手に入り込むとは……いい度胸してやがるじゃねえか。八つ裂きにされる覚悟はできてんだろうな? アァン?」


 ……残る八体の包帯人族(マミー)が早くも全員集合だ。

 うち一体のとくにご立腹な様子のしゃがれた声の個体こそ、漏れ出る魔力の大きさからしてもかしらで間違いないだろう。


「……悪く思うなよ。こっちもこっちで必死なんでな。ここは俺たちが貰うぞ!」


 自分でも悪役みたいなセリフだなと思いつつ、テンドウは青い炎刀を構える。

 すでにほかの四人も作戦通りに散らばっており、早くも頭同士が戦うという構図ができあがっていた。


「――上等だ。奪えるモンなら奪ってみやがれ、人間ども!」


 まさに弱肉強食。勝者がすべてを勝ち取り、敗者はただ死を受け入れるのみ。


 人間vs包帯人族(マミー)ファミリーの、軍宿舎を巡る戦いの火蓋が切って落とされた。

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