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不死ノ国XX記  作者: 三月坊主
第三章 禍根の地下都市編
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第七十四話 炎vs鎖

 まだまだ続く亡都地下での剣の腕を磨く日々。

 必ずや仲間たちが待つ地上へと戻るべく、『剣鬼(けんき)』オオダケに弟子入りしているテンドウは――再び初めての場所へと向かっていた。


 ――だがこれまでと違うのは、一日の完全休養日を挟んだ後だということだ。


 今日まで溜まった心身の疲れを抜いた理由は、ただ一つ。

 ある程度はフレッシュな状態でなければ、今のテンドウでも命を落としかねない厳しい相手と戦うからだ。


「……そろそろじゃナ。前回の絵魔族(アートダーク)とはワケが違うかラ気をつけるんじゃゾ」

「ああ。分かっているさ、師匠」


 久しぶりに魔力で動く木造船、改め『ウズシオ号』に乗って地下の水路をゆっくりと進む。


 メンバーについては船を出していることもあって前回よりも人数は増えている。

 テンドウ側ではドンチンとモモヒメ、さらに今回はクロちゃんも。

 集落側ではオオダケをはじめ、最初に出会った時もいた包帯人族(マミー)の船員二体と、怪人形(カイドール)の少女ウメもいる。


 そんな大人数が乗った船で進むわけだが、基本的に水路の上はアンデッドが襲ってくる確率は低い。

 念のために警戒はするも、とくに交戦することもなく順調に進んでいき――今回の目的地へとたどり着いた。


 場所は地下に三つある中規模空間のうちの一つだ。


 呼び名は『第四地下街』。

 場所的には西側に位置する、ほかの空間と比べると少しだけ天井が低い空間である。


 ここも前回同様、大きな障害(超大物アンデッド)が待ち構えているという、地上に続く唯一の道がある空間とは違う場所だ。


「……いるな。たしかにこの魔力だけで並の個体じゃないと分かるぞ」


 つまり、今回もまた実戦訓練を兼ねた狩りである。

 重いというよりも突き刺すような鋭い魔力――。

 それが充満する地下都市の中で、テンドウは呼吸を整えて気合いを入れ直す。


「もうすぐだよ、テンドウちゃん。あの子は生まれ落ちてから十二年と若いけど、すごく強いから気をつけてね」

「もちろんだ、ウメ。今の俺の全力で当たらせてもらうぞ」


 そうして水路の行き止まりとなり、下船した一行はここから歩くことに。

 仲間を率いる形で先頭をいくのは、クロちゃんに騎乗した騎士テンドウだ。


 ほかの地下都市と比べると嫌に静かすぎる『第四地下街』。

 その不気味な街の大通りを進んでいくと――ちょうど十字路のところにそれは見えてきた。


「ヴぅウウう……」


 本人にその気などなくとも、強さゆえに結果的にこの場を支配しているアンデッドが一体。


 骨だけでもなく腐った肉があるわけでもなく、亡霊な体というわけでもない。

 至って普通の肉体に、血で汚れた何本もの鎖に繋がれたような大柄な男。

 ほぼ人間の囚人みたいなそのアンデッドは、不気味なうめき声と鎖を引きずる音を響かせていた。


 ――『鎖に繋がれた悪漢(あっかん)』。それがこの個体の呼び名だ。

 亡都ヤマトニアでは有名な『車椅子の老婆』と同じ、不明種(アンノウン)の一体である。


「フン、首を洗って待ってやがったか? 今日がお前の命日だ、かかってきやがれ! ……ではテンドウお願いします」

「……いや自分で啖呵切っといて? まあ、最初からその予定だからやるけども」


 その強敵相手にドンチンが叫び、すぐに全力疾走で近くの建物の陰へ。

 予定通りにテンドウとクロちゃんだけを大通りのど真ん中に残して、他の者たちは巻き込まれないように距離を取った。


「……よし、やるぞクロちゃん」

「ブルルゥウッ!」


 そう言った馬上のテンドウの手には、すでに鞘から抜かれた白い炎太刀が。

 当然、あれから付与回数は百二十八回と増えてはいない。

 それでも久しぶりだからか、テンドウは燃え盛る灼熱の刀身の勢いをいつも以上に感じていた。


(さすがに今回は剣技だけでどうこうできる相手じゃないからな。……久しぶりに頼らせてもらうぞ)


 心の中で呟き、テンドウは馬上にて構える。

 実戦稽古なのは美術館での戦いと同じでも、目の前の存在は魔鉄の長剣では傷つけることすら困難な相手だ。


 ――改めて、不明種(アンノウン)とは。


 強個体の『はぐれ』とは似て非なる存在で、地下も含めた亡都ヤマトニアでも片手で数えるほどしかいない。

 うち一体がこの『鎖に繋がれた悪漢』だ。

 魔力から推察できる個体の強さ的には『車椅子の老婆』よりも遥かに上。

 ただヤバさに関しては、能力の何割かを道連れにされる老婆の方が恐ろしくはある。

 一方の悪漢はそれと比べればマシなので、今回、実戦稽古の相手に選ばれたというわけである。


「――制限時間は二十分か。それを超えると同じ相手からのダメージを受けつけなくなり、もう倒せなくなってしまう……だったよな?」

「その通りジャ。以前、ワシが戦って倒しきレずにそうなっテしまったからのウ」

「了解だ。経験者は語るってやつだな」


 離れた位置にいるオオダケとやりとりをして、改めてテンドウは標的を見据える。


 すでに悪漢はテンドウとクロちゃんを認識している。

 刺すような魔力と凄まじい殺意を向けてきているが……それに反してまだ仕掛けてはこない。

 全身に巻かれている何本もの鎖のうちの一本を握り、迎え撃つようにただじっと待っている。


 ……正面で対峙しただけで分かる高い危険度。

 実際に戦ったことがあるニゴマルやタタリほどではないにしろ、まったく油断できない相手だ。


 亡都ヤマトニアに飛ばされる前のテンドウだったなら……全身が縮み上がって逃げることすらできなかっただろう。


「でも今の俺なら――いざ尋常に、勝負ッ!」


 そして響いたテンドウの声と、クロちゃんの蹄が地面を蹴る音。


 白い炎と血で汚れた鎖。テンドウとしては初めてとなる不明種(アンノウン)との戦いが始まった。



  ◆



「――おうおう! シンプルに強いなお前……ッ!」


『第四地下街』にて始まった『鎖に繋がれた悪漢』戦。

 技で対抗するテンドウと比べると、相手の戦い方はまるで正反対だった。


 ドゴォオン! と。

 力の限り、ただ乱暴に何本もの鎖を叩きつけてくるだけ。


 それでも威力、速度、射程のどれを取っても非常に高い。

 機動力に優れるクロちゃんに騎乗していても、迂闊に飛び込むことはできないほどだ。


 ……そもそも鎖自体がやたら硬いのだ。

 上位魔法に匹敵する自慢の白い炎太刀で迎撃しても、切断するまでには至らず。

 鎖の表面が削れたり、白い炎で熱されて少しばかり赤く染まっている程度だ。


「ったく、どこが鎖に繋がれた、だ! 手足のように自由自在に扱えているだろ、お前!」


 怒涛の連撃に攻めあぐねるテンドウ。

 二十分以内に倒さなければならない制限時間つきでも、真正面から強引に突っ込めば致命傷を負いかねないため危険は冒せない。


 そんな鎖の威力や速度もさることながら――最も厄介なのが『震動』だ。


 攻撃が生み出す純粋な衝撃とは違う。明らかにそれ専用の魔法効果が生まれているのだ。

 不安定な家具なら簡単に倒れるだろう不規則かつ大きな揺れが、騎乗しているクロちゃんから伝ってきている。


 その結果、どうしてもバランスが少し崩れてしまう。

 また多少は頭が回るのか、テンドウを狙わずあえて地面を叩く震動狙いの攻撃も織り交ぜてきている。


(チッ、厄介だな。けど実戦稽古だから……使いたいけど我慢だ我慢!)


 が、それでもテンドウは頑なに中遠距離の攻撃は使わない。

火線突(かせんづ)き】も、切り札の一つである【大文字(だいもんじ)斬り】も封印を。

 あくまで鍛えた剣技による近接攻撃でのみ、攻略していく予定だ。


魔道無心(まどうむしん)流』の真骨頂である、流れる水のごとき太刀筋。

 その技をもって荒れ狂う暴風のような鎖の攻撃を対処し、まずは本体ではなく邪魔な鎖の切断を狙う。


(――ここじゃない。次の次だ!)


 冷静に敵の動きを見切り、同じ鎖の同じ部分に攻撃を集中させる。

 その意図を汲んでいるクロちゃんの機動力にも助けられて、テンドウは狙い通りに白い炎太刀を振るう。


「――フゥッ!」


 そして、開戦からずっと続く燃焼音と鎖が擦れ合う音の中で。

 甲高い金属音が鳴り響いた直後、地下の大通りに鈍くて低い落下音が響いた。


 ようやく切断できた血に汚れた頑丈な鎖。

 悪漢の制御下から離れたそれは、途端に魔力を失いただの金属の塊となっている。


 ――これで残りはあと三本だ。

 この状態となれば、多少は敵の攻撃が緩むだろうと思われた――その矢先。


「んなッ!?」


 ジャララララ! と激しく鎖が擦れ合う音が響いたと思いきや。

 二メートル半ほどの大柄な肉体、その腹の中から――まるではらわたが飛び出すかのように新たな血に汚れた鎖が生まれてくる。


 ……つまりは補充だ。やたら頑丈で攻撃にも防御にも使える厄介なそれが、早くも悪漢の上半身に巻きついている。


「オイ、そんなのアリかよ!? もうそれだと鎖人間だろうが!」


 まさかの事態に取り乱すテンドウ。

 襲い来る鎖の攻撃を迎え撃つ太刀筋こそブレていないが、呼吸の方が少しばかり乱れてしまう。


「うむゥ。これはワシも知らンかったのウ……!」


 弟子の戦いを見守っているオオダケもまた驚いた様子だ。

 かつて自身が対峙した時は威力不足で鎖を切断できなかったため、まったく把握していなかった能力である。


 ようやく一本減らしたところで、また振り出しに。

 その状況だけを見れば、二十分という制限時間つきの戦いにおいて、焦りが出てもおかしくはない。


「……でも、です」

「そうね。もうそろそろ完全に対応するはずだわ。うちのちょんまげ大将ならね」


 同じく見守っていたドンチンとモモヒメの二人。

 彼らも新たな鎖の出現に驚きはしたが、早くも冷静さを取り戻していた。


 ――一度、切断できたのなら次もまた問題なく切断できる。

 回避も反撃のタイミングもズレなく合ってきているのは、観戦している全員が理解していた。


「ヴううヴうぅ……ッ!」


 一方の悪漢はうめき声がさらに激しくなっている。

 この声量が最大限まで達したその時こそ、制限時間の二十分が経過した合図だ。


 だからその前に決着を。

 敵の動きをほぼ見切ったテンドウはさらに距離を詰めて鎖と打ち合う。

 振り下ろされたそれを斜め下から迎撃し――またも切断することに成功する。


 すると今度は体内から次の鎖は出てこず。

 容量的な問題か、あるいは強靭な鎖の質を担保できないからか。どちらにせよもうストックはないらしく、どうやら無尽蔵というわけではないようだ。


「ブルルゥウ――ッ!」


 それを見たテンドウがクロちゃんを走らせる。

 さらに距離を詰めるもまだ本体は狙わずに、確実に次の鎖を断ち切りにいく。


(……ははっ。我ながら上出来だな。まだ師匠の大技こそできないけど……! お前との戦いの経験を糧にして、必ずモノにしてみせる!)


 一切の迷いも淀みもない、美しくも力強さのある『テンドウオリジナル』の剣技。

 馬上で流れる水流のごとく白い業火の太刀を振るう様は、鎖を振り回して暴れ狂うアンデッドとは似て非なるものだ。


 まさに柔と剛を両立させた、誰も真似できない唯一無二の斬撃である。

 勢いづいたその猛攻を前に、強個体の不明種(アンノウン)でもある悪漢は防戦一方となっていく。


「たしか地上の者たちハ『炎の剣士』――そうテンドウを呼んデいるらしいのウ。……まったク、全然先を見れておらんようじゃナ」


 オオダケはふるふると首を横に振る。

 そして百年ぶりとなる人間の弟子を見ながら、包帯の下で不敵に笑う。


「――『太陽神』。この亡都中、いや世界中にいずレその名が轟くじゃろウ」


 そう予言した数十秒後。開戦から数えればちょうど十分ほどの時間が経過した頃。


 師匠の期待に答えた弟子の手によって――『第四地下街』の支配者はこの世から消え去ったのだった。

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