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不死ノ国XX記  作者: 三月坊主
第二章 騒乱の南エリア編
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第六十一話 生存成功

「おーい、テンドウっ!」

「こっちは終わったよー!」

「――おお、よかった。皆も無事だったか……!」


 異なる『三大ファミリー』の幹部の二体同時討伐。

 だいぶ過酷な緊急事態に襲われた同盟側であったが、どちらも討伐に成功して見事に生き延びていた。


 その片方の戦場、焼け野原となっている大通りにほかの面々がやってくる。

 明るい声と笑顔の仲間たちと合流して、テンドウは自身が勝利を収めた時以上にホッとしていた。


 ……見る限り重傷を負った者はいないようだ。

 誰も四肢の欠損などもなく、しっかりと自分の脚で立っている。

 大きな変化があるとすれば、ヨシくんの竹弓が即席の弓モドキ(?)に代わっていることくらいか。


「タタリとの一騎打ちを制したか。信じてたけどやるじゃねえか、テンドウ! ……本当にお疲れさまです」

「おう、何とかな。それはそうとドンチン、今回も協力ありがとうな」

「フッ、構わねえさ。まあオイラもヨギいわく『種族進化』してたみてえだからな。これくらい朝飯前だぞ。……正直、びっくりでしたが」

「……え? そうだったのか……? まあとにかく、無事でよかったぞ」


 同盟相手のドンチンと拳を突き合わせて勝利を喜ぶテンドウ。

 もちろん同じ人間ファミリー、もはや家族とも言える皆とも肩を叩いて労い合う。


「――というか、だぞ。今のテンドウが本気のガチで戦ったら……こうなってしまうのか」


 と、ヨシくんが焼け野原となった戦場をキョロキョロと見渡しながら言う。

 大通りでこの有り様なのだ。もし逆の行き止まりの方で戦っていたなら、もっと多くの建物が焼け崩れて灰と化していただろう。


 戦いの跡を見ただけでも分かる圧倒的な火力――。

 もはやテンドウが全力を出すためには、周囲に味方がいないことが第一条件となっている。


「テンドウほどじゃないけど、僕たちだって頑張ったぞっ! バクラ闘牛場で木乃伊族(ミイラ)狩りをしてなかったら危なかったけど!」

「そこは本当にロッポウに感謝だね。新しい中位魔法も覚えられたし」

「もちろん二人も、そしてほかの皆もよくやったぞ。誰か一人でも欠けていたら結果は分からなかったな」


 ガガクとカグラを労い、テンドウは二人の赤毛な頭をわしゃわしゃする。

 ヨギとの戦いは皆の力を結集したとはいえ、間違いなくその中心にいたのはこの九歳児二人だ。


 直接、見ていないテンドウでも分かる。

 日頃の訓練で実力は正確に把握しているため、幹部相手でも大車輪の活躍だったはずだ。


 その二人の今の体から漏れ出る魔力は――明らかにスケールアップしている。

 ヨギの膨大な魔力の残滓を吸収したことで、初回の木乃伊族(ミイラ)狩りの時以上に急成長したようだ。


「あなたたち本当に派手にやったわね。……まあとにかく、サクッと回復するわよ。ほら全員、一列に並んでちょうだい」


 と、ここでモモヒメがしれっと合流する。

 彼女は完全なる非戦闘員なので、ずっと安全圏の建物の屋上で待機。

 そこで一人、優雅に読書……はせずに、きちんと決着を見届けてから、自身の転移魔法で戻ってきていた。


「おう、頼む。さすがに皆も無傷とはいかなかったみたいだからな」


 テンドウ自身も含めて、攻撃や飛び散った瓦礫などで小さな傷は多い。

 亡都ヤマトニアは清潔とは程遠い場所のため、とくにアンデッド由来の感染症のリスクが高く、すぐにでも処置しておきたいところだ。


「任せなさい。じゃあまずはテンドウ、あなたからよ。防具もへこんでいるし手痛い一発を貰ったんでしょう?」


 ようやく出番が来たモモヒメは、まずテンドウから治療を開始する。

 堕天使族(ルシファー)の代名詞でもある黒い天使の輪を怪しく光らせると、いつもの回復魔法を行使し始めた。


「にしても面白えな。……やっぱり幹部は上等なものをもってやがるぜ」

「だべな。普通に買ったらいくらするか見当もつかないべ」

「……うん? いったい何の話を――って! ちょい二人ともそれ大丈夫か!?」


 モモヒメの回復を受けながら、仲間の声がした方向を見てテンドウがギョッ、とする。


 視線の先にいるのはムウマとヒュウガだ。

 二人はいつの間にか地上……ではなく、宙に浮いた小舟の上に乗っていた。


 これはヨギが乗って移動に使っていたものだ。

 どう考えても間違いなく、貴重な魔道具の一種なのだろうが……。


 持ち主であるヨギが乗っていた時とは違い、二人が乗った小舟はグラグラと激しく揺れてしまっている。


「くッ!? ヤツが持ってやがった魔法袋から引っ張りだしてきたが……!」

「想像以上に操縦が難しいべな!? 一朝一夕でできる感じがまるでしないべよ!」


 ヨギが神出鬼没だったことを考えると、おそらくちょっとした転移もできると思われる。

 ただグラついているのを見ても分かる通り、ムウマもヒュウガもまるで制御できていない。

 高度もせいぜい三メートルほどしか浮いておらず、本来の性能の一割も引き出せていないだろう。


 ――とはいえ、とてもありがたい戦利品であるのに違いはない。

 重戦士なヒュウガを含めた、大人二人が乗っても普通に浮かんでいる浮遊力――。

 練習して上手く扱えるようになれば、街からの脱出の際にもきっと役立つはずだ。


「……あ、」


 そんな二人が四苦八苦する姿を見ていたテンドウがふと気づく。

 焼け野原となった戦場と被害がない場所のちょうど境界線。

 通り沿いに立つ宿屋のような建物の前に……自分たち同盟以外のほかの誰かがいることに。


(……おいおい、危険なヤツらの次はムカつくヤツらかよ……)


 視界に映ったのは――黒頭巾を目元まで被った腐肉族(グール)の群れだ。


 ただ『三大ファミリー』のタタリとは関係はない。

 その正体は顔を合わせる度に絡んでくる、嫌なだけの南の『つっかかりファミリー』である。


 そんな彼らの存在に気づき、テンドウと向こうのかしらの視線が合う。

 ……いつからいたのかは分からない。だが、またどうせ不快な発言をしてつっかかってくる……と思っていたら、


「「「「…………、」」」」


 離れた場所から勝利を収めたテンドウたちを見ているだけ。

 頭も配下たちも立ちつくしたままで、焼け野原となった戦場やまだ残っているタタリの死体を確認していた。


「何だあいつら? ……今日はやけに大人しいな」

「まあ、つっかかってこないならラッキーだな。おっさん的にはもう言い合いをする体力は残ってないぞ……」


 テンドウとヨシくんが疲労からため息をつく。

 改めて仲間たちの顔を見てみれば、モモヒメを除いて全員が疲れ果てている表情をしていた。


 ……とにかく、なるべく早く安全な場所に戻っての休息を。

 モモヒメの最低限の回復魔法が終わるのを待ってから、テンドウたちは行動を再開する予定だ。


 そんな中でも黒頭巾腐肉族(グール)ファミリーはつっかかってはこない。

 ただでさえ黒頭巾で分かりづらい表情は、いつもと違う状況のせいでより分からなくなっている。


 ――結局、残っていたタタリの死体がようやく灰となって崩れ去ったのを確認して――彼らは何も言わずに現場を離れていく。


(……珍しいな。こりゃ雪でも降るのか? ……まあ、こっちとしてはありがたいけど)


 そう心の中で安堵しつつ、全員の回復が終わったのを確認してから。

 防具と外套についていた灰を払い落すと、テンドウは大きく一回、深呼吸をした。


「んじゃ帰るか。……いや本当、今日はただの見学のつもりだったんだけどな……」


 最後に少しだけ愚痴るも、その表情は明るい。

 同じく周囲にいるほかの面々も、疲れはあっても暗い顔にはなっていない。


 強力なアンデッドと対峙した後だからか、あるいは無事に生き延びたからか。

 いつものヤマトニアの陰鬱で湿ったような嫌な空気も、今だけはまったく気にならないほどだ。


 ――こうして、過去最大級の不測の事態に見舞われたテンドウたちは、また誰一人欠けることなく我が家へと帰っていくのだった。



  ◆



 激動の一日の中心となった元一般区の南エリア。

 エビス広場、住宅街の行き止まり、その近くの大通り――。

 それら激戦が繰り広げられた三カ所が見える建物の屋上に――すべての元凶の姿はあった。


「百年間、誰一人落ちなかった『三大ファミリー』の幹部がこれで三体目か。……ふはは! 一気に状況が動いたな」


 どこか上機嫌に呟いたのは、魔力遮断の効果があるローブを着た男。

 長い金髪と片目の義眼が目を引くその男は、異形騒動を引き起こした首謀者であるプリバトヤだ。


 自身を狙って現れた強力なアンデッドの幹部二体。

 それを同じ人間たちになすりつけたのを悪びれることもなく、ただ起きた現状にご満悦な様子だ。


「しかし、まさか人間たちが犠牲もなく幹部相手に勝つとはな。たかが極東の国と侮っていたが……ヒノモト王国にも優れた人材はいるようだ」


 想定外な窮地を乗り越えた人間ファミリーに、プリバトヤはウソ偽りなく感心する。


 樹海に閉ざされた陸の孤島にして、この世の地獄とも呼ばれる亡都ヤマトニア。

 そこで今日まで生き抜いてきたのだから、決して弱いとは思っていなかったが……彼らは想像の上を行っていたのだ。


「……ともあれ、所詮は些細な争いにすぎないがな。――肝心の主役はまだ、いないのだから」


 プリバトヤは南エリア全体に視線を移す。

 推定一万ものアンデッドが集結し、数百の異形に集約されたことで数は大きく減っている。

 それでも元の母数が凄まじいため、まだまだ多くのアンデッド、およびファミリーが存在していた。


 ――今回の一件、規模からすれば誰もが本番だと思うだろう。

 もし外に情報が伝われば、歴史書にも載るであろうレベルの大事件なのだから。


 ……だが、あくまで今回は下準備にすぎない。

 事実、プリバトヤは機嫌は良くとも、決して満足はしていなかった。

 転移事故でも何でもなく、自らの足でこんな辺境にやってきたのには――それなりの理由があるのだ。


「真の強者は誰なのか? 今いる者がすべてなのか? ……世界は本当に完全なのか?」


 ポツポツと振り始めた雨も気にせず、ひたすら疑問を口にする。

 まるで自分に酔っているかのように独り言が止まらないプリバトヤは、高揚気味にしばらく街に向かって喋り続けた後。


 青い瞳と義眼の両方の視線を、ゆっくりと隣の方へと滑らせた。


「……それで、お前の方は探し物は見つかったのか? ――――ニゴマル」


 今度は独り言ではなく明確に語りかけた。

 その問いを受けたのは、一切の魔力や音や気配を感じさせずに、いつの間にかそこにいた青黒い巨体――『暗殺怪人』ニゴマルだ。


「……アア、ヤットナ。下等生物ニハ感謝シヨウ」

「……やれやれ。感謝しているのに下等生物呼びとは……礼儀がなっていないな」


 一際高い建物の屋上に揃った人間と大物アンデッド。

 どう考えても不穏な組み合わせではあるが……両者の間で戦闘が始まる気配はない。


「例のブツはどうしたって人間の方が感じ取りやすいからな。……そちらが満足しているのなら別に構わないさ」


 ため息混じりに言って、プリバトヤはニゴマルから視線を外す。

 早くも興味は街の方へと戻ったようで、ニゴマルとの件はさほど重要ではないようだ。


 そして、しばらく南エリアを眺めてから。

 シャワーを浴びるかのように気持ち良さそうに雨に打たれながら、プリバトヤは仰々しく両手を広げた。


「――不死に包まれし亡都ヤマトニアよ。この私をどうか満足させてくれよ?」


 そう最後に街に語りかけた直後。

 プリバトヤの足元に転移陣が浮かび――その体をまたどこかへと飛ばしたのだった。

この話で二章は終わりとなります。

本日中に二章の主な登場人物一覧を投稿する予定です。

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