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不死ノ国XX記  作者: 三月坊主
第二章 騒乱の南エリア編
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第六十話 『飛猿』タタリ

前回に続いてまた二話分ほどの長さです。

 時は少し遡り――南エリアの大きな通りにて。

 もう一つの幹部戦とは異なり、こちらは常に接近しての打ち合いが行われていた。


「おォおォ! お気に入りのジャケットが燃え尽きちまうたァ……。こりゃテメェの命で弁償してもらうしかねェなァ!」

「っとに……! こっちは街から脱出したいだけなんだけどな? 幹部を片っ端から潰すつもりなんてサラサラないっての!」


 互いが互いの文句を言うも、決して攻撃の手は止めない。

 すべてを焼き尽くす白い業火の刃と、『狂喜』の声を伴う魔力を纏った十手(じって)二本。

 それらが相手の息の根を止めるべく、高い技量をもって幾度も繰り出されている。


 同じ腐肉族(グール)ファミリーの幹部であるニゴマルが重量級なら――タタリは軽量級だ。

 一発の威力や耐久力は及ばずとも、速度だけならロッポウをも凌ぐ最速のアンデッドという評価も頷ける。


 もし対峙するテンドウが『特異体質』頼みの半端な剣士だったなら……翻弄されたあげく簡単に殺されていただろう。


「フゥ――ッ!」

「――ひはァッ!」


 そんな実力者同士の戦いは拮抗している。

 確かな技術と経験、さらには瞬時の判断力――。

 それらにおいて兵士テンドウに元ゴロツキのタタリは張り合うほどだ。


 もはや拳での打撃戦と錯覚するほどの連続の打ち合い。

 白い炎太刀の熱でタタリのみ火傷を負うため、接近戦ではあるものの鍔迫り合いはなしだ。


 ――ただし、ずっと単純な打ち合いだけ、というわけでもない。


「オラァ! 吹っ飛べや!」


 この戦場まで強制的に移動させられたタタリの【はじき】。

 カァアアアン! という特徴的な音を生む技によって、問答無用で距離を離されてしまう。


(……本気で鬱陶しい技だな。少しでも流れが悪くなりそうなら一度、やり直しってか!)


 反発力か何なのか、威力とは違う種類の力で間合いは仕切り直しに。

 腰を落としてどう踏ん張っても抗えず、石畳の大通りで十メートル近く後退させられてしまう。


「けど、それならそれでだ!」


 ニヤリと笑い、テンドウが離れた距離から技を仕掛ける。


 白い業火を切っ先から飛ばす【火線突(かせんづ)き】。

 十メートルの距離から放たれたそれは、対象を燃やし貫くべく直進する。


 中、遠距離なら間違いなくテンドウの方が上だ。

 十手からの魔力弾など攻め手はあるとはいえ、タタリは遠距離型のヨギとは正反対の近接型である。


 ゆえにタタリは迎撃せずに回避を選択した。

 余裕をもってヒラリとかわすと、自分で開けた距離をまた自分から詰めにいく。


「――――、」


 その数瞬の間に、テンドウは白い炎太刀を鞘に納刀していた。

 半身に構えて重心も少し落として、居合の形を取って迎え撃つ。


 テンドウの技の中で最大火力を誇る【居合炎月(いあいえんげつ)】。

 そこへタタリが一直線に飛び込んできた――と思った矢先、


 直前で攻撃を中断し、敵はバックステップを踏んで詰めかけた距離を再び開けてきた。


「……やはりその技はお断りだぜ。雰囲気からしてもヤベェな、そりゃ」

「……チッ、そうかい。こっちとしては素直に飛び込んで来てほしかったぞ」


 迂闊に飛び込んではこなかったタタリに、テンドウは思わず舌打ちを打つ。


 戦いの熱は燃え上がる一方でも、頭は至って冷静――。

 強者だけが感じ取れる魔力の雰囲気まで観察されていたことで、戦いの流れを傾かせることはできなかった。


 そしてまた通常の打ち合いが再開される。

 一本の長い太刀と二本の十手の攻防は、どちらも決定的な一撃を決めることを許さない。

 灼熱の戦場だけで判断すれば、テンドウが優勢のようにも見えるが……その熱にタタリは飲み込まれてはいないのだ。


(ん!?)


 ――と、その時だった。


 激しく打ち合う中で別の魔力を感じ取ったテンドウ。

 すぐさま大きく飛び退いてタタリから距離を取ると、視界の隅でその魔力の持ち主を確認する。


 ……ヨギではない。

 まだ仲間たちとの戦闘の音は聞こえており、何より魔力的にもそこまでの大物ではないが……。


「すいやせん兄貴。……ちょっと手間取って遅れやした」


 現れたのは一体の腐肉族(グール)だ。

 三つ目が特徴的なその個体はタタリの横に並ぶと、手に持つ湾刀をテンドウの方に向けてくる。


 種族だけでなく言葉や態度からしても、タタリの直属の配下なのは誰の目にも明らかだ。


「おォ、オメェか。広場の方は終わったのかよ?」

「へい。異形どもはなかなか歯応えはありやしたが……。まだ力が完全に馴染んでねえのか隙はありやしたんでね」


 主君であるタタリの問いに三つ目腐肉族(グール)が答える。

 聞けば大広場でのヨギの配下(巨大蜘蛛みたいな骨手のバケモノ)も入り乱れての大乱闘は、多くの犠牲を出しながらも何とか勝利を収めたらしい。


 その際、多少の傷は負ったはずだが無傷な状態を見ると……どうやら再生能力は持っているようだ。

 すなわち上位の存在であり、やはりただの下っ端構成員ではないと判断できる。


(……参ったな。これはちょっと想定外だぞ……)


 まさかの増援にテンドウの顔が少しだけ引きつる。


 ……正直、この状況はかなり厳しいと言わざるを得ない。

 ここまで互角の戦いをしていた幹部相手に加えて、ザコとは言えない個体が加わってしまえば、だいぶ危険な状態だ。


 テンドウ側には離れた位置にクロちゃんはいるも……やはり騎乗してのスタイルチェンジはできない。

 スピードタイプの極みとも言えるタタリがいては、動きに対応しきれずに仲間を失うだけだ。


「――加勢しやす。援護は自分にお任せを!」


 ここで早速、三つ目腐肉族(グール)が動いた。

 怪しく光った額にある目から、凝縮された無属性の魔力の塊を放ったのだ。


「ッ!」


 対して、テンドウは横っ跳びで回避した。

【火線突き】で迎撃しなかったのは、完全に相殺できるかは感覚的に怪しかったからだ。


 実際、その感覚は当たっていたようで――爆散した石畳の地面が大きく抉れている。

 威力は限りなく上位魔法に近い中位魔法といったところか。

 下手に撃ち合いをしていたら、力負けして少なくないダメージを負っていたはずだ。


 おそらくこの三つ目腐肉族(グール)は遠距離型だと思われる。

 加えて、今の威力と樽のような膨れた体型を見ると、どっしりと構えて撃つ砲台のような感じだろう。


(仕方ないな。……なら出し惜しみはなしだ)


 その事実を確認して、テンドウは技の構えに入った。

 二対一で厳しい状況であるはずなのに、いつの間にか引きつっていた顔に笑みさえ浮かべている。


 そうして、抜刀状態で居合に似た構えという、この戦いで初めて見せる構えから技を撃つ――ことはなかった。


「……オイ。俺ァ手伝えと言った覚えはねェぞ?」


 ピシャリと、空気を裂くようなタタリの声が響く。

 明らかに機嫌が悪そうなその声は、敵であるテンドウではなく、すぐ隣の配下へと向けられていた。


 ――その直後。


「邪魔すんじゃねェよゴミが」

「へ? あ、アニギぶゥがハァ――!?」


 瞬間、『狂喜』を伴う二本の十手が叩き込まれたのは、テンドウではなく三つ目腐肉族(グール)の方だった。


 横っ面にまともに入った渾身の一撃。

 意識外からのその一撃を喰らったことで、首から上が血飛沫を上げながら弾け飛んだ。


「んな!?」


 その突然の衝撃的な行動に……テンドウは呆然としてしまう。

 まさか直属の配下を、しかも増援に来てくれた個体を自らあやめるとは夢にも思わなかったからだ。


「……おいおま、何を考えているんだよ!? 自分のところの大事な戦力だろ!」

「あァん? 何でテメェが困惑してんだよ。むしろ邪魔者がいなくなって感謝してほしいくれェだぜ?」


 何の悪びれもなく言って、タタリは十手に付着した血を振り落とす。

 そしてもう動かない首なし配下の死体を蹴飛ばすと、再びテンドウの方へと向き直った。


「――で、見せてみろよ。……さっきテメェは何かしようとしてただろォ?」


 テンドウの行動をしっかりと見ていたタタリが不敵な笑みを浮かべる。

 十手を手のようにクイクイと動かし、どこか楽しそうに要求してきた。


 それを受けてテンドウは軽いため息をつく。

 ロッポウにも似た愉快な戦闘狂な一面を見て、人間とアンデッドとの違いを感じてしまう。


「まあ、別にいいけどな。本当は一撃で配下の方を潰すつもりだったけど……ならお前に代わりに受けてもらおうか」


 かたやテンドウは鋭い眼差しで睨む。

 タタリの衝撃的な行動のせいで一度、解いていた構えをやり直し、抜刀状態で居合のような構えを取った。


 ――見たいのなら見ればいい。後悔しても知らないが。

 そう思いながら素早く三度、テンドウは白い炎太刀を振るった。


「【大文字(だいもんじ)斬り】」


 そして放たれたテンドウの切り札。

 付与の炎が青から白に変わった日から、感覚的に実現可能だと鍛錬に鍛錬を重ねた末に――ついに会得した新技だ。


 技名通りの大の字の白い業火。

 白い炎太刀を離れて飛んでいくその技は、火力面でも最強の【居合炎月】に匹敵するほどの遠距離技だ。


 それが周囲の空気を焼き焦がしながらタタリを襲う。

 炎の直径は二メートルと少し。だが影響範囲がその程度で済むはずがない。

 着弾場所を中心に、周囲を大きく巻き込むように激しく焼くと――一瞬にしてすべてを灰に還してしまう。


「――ハッハァ! おい何だそりゃァ!? 想像以上にヤベェじゃねェか!」


 その灼熱の大技を見て、回避していたタタリが叫ぶ。

 ただ威力を見誤り影響範囲にいたことで、深緑色の腐った皮膚の大部分が火傷を負っている。


 腐肉族(グール)特有の再生能力で火傷などすぐに治せるとはいえ……だ。

 火傷の深さがこれまで負ったものよりも深く、再生には明らかに時間がかかっていた。


 これがテンドウの新技にして、二つ目の切り札の【大文字斬り】。

 上位魔法の中でもさらに上位に位置するであろう、焼けぬ相手などいない超火力の一撃だ。


 そして当然、ほかの技と同様に魔力消費は一切なし。

 もし同じ威力の上位魔法を発動しようものなら、並の魔道士なら一、二発で魔力が底を尽くだろう。


「……やっぱり避けたか。なら、おかわりでもしとくか?」

「!? オイオイ、見せろとは言ったがよォ……!」


 だからこそ好きなだけ連発できる。

 白い炎太刀からまた放たれた凶悪な二発目を、タタリは今度こそ影響範囲の外へと大きく回避した。


 ――そこへ追撃の【火線突き】が。

 動く的となったタタリのもとへ、こちらも直撃すればただでは済まない攻撃が殺到する。


「薄々気づいてはいたが……! 認めざるを得ねェな。弱ェ存在の人間のくせして、テメェだけは俺たちと同格だとなァ!」

「そりゃどうも。じゃあ同格の存在として……見逃してくれたりするか?」

「ハハッ、面白ェ冗談だなァ! 同格だからこそここで潰さなきゃならねェだろうが!」


 増援がいなくなったことで元に戻った一対一の戦い。

 また同じように激しい攻防が繰り返され、耳をつんざく武器の衝突音が立て続けに生まれる。


 ただ前半戦との違いがあったのは、テンドウが【大文字斬り】を使い始めたことだ。

 威力は凄まじくとも大技であるため【火線突き】よりは時間がかかる。

 それでも『飛猿(とびざる)』タタリの素早い動きとリズムに、目や体が慣れてきた結果。

 最大火力の遠距離攻撃を積極的に撃つことで、戦場はさらに地獄絵図の様相となっていた。


「――【大文字斬り】」


 そしてまた一発、燃える刀身が火を吹く。

 回避によって標的を逃した灼熱の白い業火は、その膨大な熱と魔力で道や建物を次々と焼失させていく。

 後に残るのは大量の灰だけで――そこに街の色は存在しない。


「ハッ、まるで怒り狂った火竜族(ドラゴン)だなァ! 俺だけじゃねェ、周り全てを焼き尽くす気かよ!」


 その中でも接近し、火傷を負いながらもタタリが攻撃を繰り出してくる。

『狂喜』を伴う魔力を十手に込めると、二本を交差させるように振るってきた。


「【一魂叩(いっこんだた)き】!」

「フゥッ!」


 ガキィン! と一際、大きな金属音が灼熱の戦場に響く。

 今度は【(はじ)()き】ではなく、ぶつけ合った一撃の純粋な威力で両者の距離が開いた。


 ――するとここで、タタリが何やらおかしな動きを見せた。


 一旦、間合いが開くと予想していたのだろう。

 何の迷いもなく背中から何かを取り出したと思いきや、少し見上げる形で目を見開いて――取り出した何かを顔の上まで持ってきたのだ。


「は? 目薬……だと?」


 片方の目に一滴、垂らすという、戦闘中とは思えぬ行動。

 そもそも腐肉族(グール)に目薬など必要ないだろうに……それを見たテンドウは嫌な予感を覚える。


 一方、小瓶に入ったその目薬らしきものを差し終えたタタリはというと、


「……本当は『亡霊騎王(ぼうれいきおう)』や『死魔道姫(しまどうひ)』、あるいはジンロウタとの戦いに取っておくつもりだったがなァ。渾身の一撃もあっさり防がれちゃァ……仕方ねェわな」


 ブツブツと小さな声で言い、目薬らしきものを差した右目だけを閉じたまま。

 再び二本の十手を握り直すと、テンドウに向かって極端に低い構えを取った。


「――知ってるか? ドーピングってのはアンデッドになってもできるんだぜェ?」


 そして閉じていた右目を開いた瞬間、ドクン! とタタリの魔力が大きな鼓動を打った。



  ◆



 ただでさえ強烈だった魔力のさらなる増幅。

 また急に荒ぶり始めて暴走気味の気配が漂うも――異形アンデッドのそれと比べるとまだ安定はしている感じだ。


「!? そういうことかよ……!」


 タタリが言ったドーピングという言葉。

 たとえそれがなかったとしても、誰もがすぐに理解できただろう。

 腐った皮膚にミミズのような太い血管が浮かんだ肉体と、そこから漏れ出る魔力を見れば一目瞭然だ。


「さァ、こっからだぜ『炎の剣士』さんよォ――!?」


 実際、再開された打ち合いの一合目で伝わってきた。

 一発の威力は明らかに上がっており、纏う魔力の『狂喜』の声まで大きくなっている始末だ。


【火線突き】と十手から放たれた魔力弾のせめぎ合いもほぼ互角――。

 遠近問わずあらゆる攻撃の威力が強化されているようだ。


「ッく……!」


 自慢の速度のみ元から速かったため大差は感じないが、逆に言えばそれ以外のすべての能力が上昇している。


 ――とくに大きく変わったのは再生の速度だ。

 白い炎太刀の熱の余波だけで火傷を負うも、一瞬で肌を上塗りするように元通りになっている。


【火線突き】が掠めて肉の一部を焼き、貫いても瞬く間に再生。

 今のタタリの再生力に関しては、魔物界随一とも呼ばれる水蛇族(ヒュドラ)をも超えているだろう。


「……なるほどな。もう直接、斬るか大技を当てないとダメってか!」


 現在のタタリの強化状態を理解して、テンドウは気合いを入れ直す。


 ドーピングの効果時間は一切不明。

 慎重に距離を取って遠距離技を当てて時間を稼いでもいいが、タタリは増した再生力を前面に出してそれを許してはくれない。


(ぐッ! こりゃ息つくヒマもないな……!)


 連撃に次ぐ連撃のせいで……余裕がなくなり防戦一方になってしまう。

 何とか打ち合うことでの相殺を続けるも、いつテンドウ側が決壊してもおかしくない攻防だ。


 ――その中で思い出されるのは、ロッポウと初めて戦った時のことだ。

 刀身の長い白い炎太刀で必死に捌くも、あの時のように徐々に押し込まれてしまう。


(あぶ)……ッ!?)


 太刀だけでなく体捌きも使って回避も行うが、まず犠牲になったのは髪だ。

 テンドウのトレードマークとも呼べるちょんまげ風の後ろ髪が、避けきれずに十手に消し飛ばされてしまう。

 それでも、肝心の肉体にはダメージを許さない中で――ついに防御で受けてしまった。


「ぐがッ!?」


 堪え切れずにとっさに出してしまった白い炎太刀のガード。

 本来なら何ら問題ない対処ではある。

 だがタタリの『寿命の呪い』の効果によって、恐れていた貫通ダメージを受けてしまう。


 受けた白い炎太刀を通り抜けて直接、『魔砂護(まさご)銅具足』に直撃。

 胸部に大きな衝撃を受けたテンドウは痛みと同時、大きく後ろに吹っ飛ばされてしまった。


「どォだ? 見違えるほどの効果だろ。『赫の大樹海』にいる稀少な暴走牛魔人クレイジーミノタウロスの胆汁――。それを腐らせて効果を最大まで引き上げたモンだ。……まァ、人間にはちと刺激が強すぎて使えねェけどなァ!」

「くッ! 別にそんなヤバイのはいらないっての……!」


 すぐさま立ち上がり、気分良さそうに笑っているタタリを睨む。


 防具のおかげで骨こそ折れていない。

 だが体にかなりの痛みを受けてしまった通りに、自慢の防具はたったの一撃でへこんでしまっている。


 ……やはり『三大ファミリー』の幹部、しかもドーピング状態の攻撃など喰らってはいられないようだ。

 幸いタタリがスピード型だったから何とかなったものの、もしパワー型だったなら……今の一撃で終わっていた可能性は高い。


「…………、」


 改めて肝を冷やしたテンドウは、額に汗を掻きながら白い炎太刀を構え直す。

 吹き飛ばされて開いた距離を利用して、乱れた呼吸を少しでも整えようとする。


「百年居座り続ける俺か? それとも新参者のテメェか? 今日でどちらかがこの街から退場すんだよォ!」

「ッ!」


 貫通での一発を入れたタタリが、極端に低い体勢を保ったままさらに攻勢に出る。


 強化された再生力によって、もはや恐れるものはなしか。

 攻撃は最大の防御だと言わんばかりに、戦いの矢印が明らかに前へ前へと向いている。


 それでも簡単に押し切られないのは、テンドウの技と白い炎太刀のおかげだ。

 とくに存在するだけで上位魔法に相当する相棒は多少、体勢が悪くとも打ち負けない威力を誇っている。


「うおおおお――ッ!」


 そうして、もう何度目かも分からない打ち合いの中で。

 激しい戦闘音の中で生まれたのは、獣のようなテンドウの咆哮だった。


 ……ただそれは苦し紛れの威圧ではない。

 事実、ダメージを負ったはずのテンドウの方が――なぜか薪をくべられた炎のように徐々に盛り返し始めていた。


「何、だとォ!?」


 止めどなく続く連撃の中、その現実を認識したタタリが堪らず声を発した。


 強化された一撃にも慣れたからだろう。クセの強かった動き自体も原因の一つか。

 対タタリに最適調整(アジャスト)された戦闘により、テンドウがわずかに主導権を握り始めたのだ。

 あえて自分から後退する斬り下がり攻撃など、これまでになかった動きも加わっている。


 うごめく蛇のような【狂乱打ち】の乱舞も、一発を込めた【一魂叩(いっこんだた)き】も。

 すべての猛撃を捌ききり――大きく両者の間合いが開いた瞬間。


「【大文字斬り】!」


 再び放たれようとする遠距離の切り札。

 三度、白い炎太刀を振るう動作を見て、嫌がったタタリが大きく回避行動を取るが――。


(技が――出てねェ!? 今のはフェイクか!)


 ただ三度、大の字に宙を斬っただけ。

 と同時に間合いを詰めたテンドウの動きを見れば、発動失敗ではなくフェイクだと分かる。


 当たれば終わりの一撃だからこそ、その効果は絶大だ。

 とにかく回避だけを考えて動いたタタリは、結果的に大きな隙を晒すことに。


 間合いには入った。――あとは斬るのみ。


「――、――」


 繰り出されるのは亡都に来てから会得した切り札ではなく、鬼上官仕込みの怒涛の連撃。


 大きく吸ってから吐く長い一息。

 それが終わるまで続けられるテンドウの燃える斬撃は、一振り一振りにしっかりと体重が乗った一撃だ。


 ――加えて、ゴゴゴォオオ! と。

 タタリの魔力の『狂喜』の声をかき消すほどの、絶え間なく燃え続ける上位魔法級の付与の炎があれば――防戦一方となるのは相手の方だ。


「グォう……ッ!」


 威力を受け流しきれずに体勢を崩したタタリに、次の斬撃が振るわれてその右腕が斬り飛ばされる。


 直後、ドーピングで強化された高速再生が発動。

 切断面の二の腕から新たな腕が生えようとするも――それが完了する前に反対の左腕が失われた。


 二本の腕はいずれ再生するだろう。だが問題はそこではない。

 重要な十手二本を失ったタタリに、燃え盛る白い炎太刀を防ぐ術はない。


「――ゥッ!」


 長い一息が終わる直前に放たれた最後の袈裟斬り。

 踏み込みと同時に放たれたその一撃によって、腐った肉体の左肩口から腰までがバッサリと切断される。


 強化されたとて再生能力は万能ではない。

 そこまでの致命傷を負ってしまえば、上位の腐肉族(グール)にして幹部であろうとも打つ手はない。


 もう己の腐った肉体を、そして命を繋ぐことはできないのだ。


(……何が同格だ。俺の目はとんだ節穴じゃねェか……!)


 真っ二つとなった体が斜めにズレ落ち、白い炎太刀が放つ灼熱にも焼かれながら。

 その腐った肉体に宿る魂までも消えゆきながら……タタリは思う。


(いや違ェ。……ただ認めたくなかっただけか)


 ドーピングを行ってなお届かなかった新たな強敵。

 敵対ファミリーのかしらや幹部ではなく、眼中にすらなかった人間に敗北したという事実が、タタリの最期に刻まれる。


 そこに感じるのは悔しさと情けなさと敗北感、そしてほんのわずかな清々しさ。

 さらには脳裏に流れた走馬灯――。だがあまりに不死が長すぎたからか、そこに人間時代のものは一つとしてない。


 それら様々な感情や過去を抱いたまま、ほかのファミリーから恐れられた『飛猿』タタリは――己の亡骸だけを残して消えていく。


「討伐、完了――」


 一方、噛みしめるように静かに呟き、テンドウは白い炎太刀を鞘に収める。

 周囲が焦土と化した戦場でただ一人、消し飛んだちょんまげ風後ろ髪だけを除けば、開戦時と同じ姿を保って立っていた。


 ――勝者は人間。

 呪われし亡都ヤマトニアからまた一体、強力な大物アンデッドが成仏したのだった。

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