第五十九話 『八本指』ヨギ
今回の話は長めです。(二話分くらいあります)
住宅街の行き止まりでの『八本指』ヨギとの戦い。
こちらの戦場もまた激しい戦闘の余波により、すでに元の原形を留めてはいない。
石畳の地面だけなく、周囲の家屋の崩れ落ちた瓦礫など。
足元が悪くなる一方で視覚的には開けたことで、行き止まりの閉塞感だけはなくなっている。
「――【生死光線】」
その一番の元凶であるヨギの指先から魔法が放たれた。
複数の属性攻撃とは違う、魔力が集束されただけのシンプルな攻撃。
白濁色の糸を引いたようなその魔力の光線には、微かに聞こえる若い男女たちの『嘲笑』が伴っている。
肝心の威力は周囲の破壊状況を見ても分かる通りだ。
指先一つで放たれただけのそれは、人体など造作もなく貫いてしまうだろう。
「ったく、幹部はどいつもこいつも……! 魔力にも変な個性出してんじゃねえよ!? 耳障りだぜ!」
そう悪態をつきつつ、ムウマが必死の形相で回避する。
本来は索敵担当ではあるが……モモヒメと違って完全に後方へは退いていない。
狙いは標的の分散だ。
十六本ある指先から味方に放たれる多重魔法攻撃を少しでも和らげるべく、前線に立って投げナイフ(パンドラ製)を何度も投擲している。
とはいえ、やはり撃ち出される手数はヨギの方が圧倒的に上だ。
高い連射力も兼ね備えており、体感したことのない短い間隔で殺人的な魔法が飛んでくる。
ゆえに見た目にはどうしても押されている感じは出てしまうが――決して防戦一方というわけではない。
「【迅雷矢】!」
同盟側の中では最後方に位置するヨシくんから電撃矢が放たれる。
標的であるヨギとの距離は四十メートルほど。
五十メートル以内であれば、【必中射撃】の有効射程距離だ。
結果、ヨギの周囲に浮かぶ【円岩遊装】を撃ち抜くことに成功。
下位魔法の中でも高い威力の魔法であるため、何とか粉砕することはできた。
――これでもう三つ目だ。
計六個あった球体状の浮遊岩は残り半分の状況となっている。
「……鬱陶しいですねえ。双子兄妹や重戦士の男を真っ先に潰すつもりでしたが……まずはあなたから静かになってもらいましょうか」
「う、うげ!?」
ここでついにヨギの憎悪がヨシくんに。
それに気づいて気圧されてしまうも……時すでに遅しである。
「【生死光線・柱】」
十六本中、半分となる八本もの骨の指がヨシくんに向く。
と同時に一斉に白濁色の魔力光線が放たれ、一本に纏まった極太のそれが『嘲笑』の声とともに飛んでくる。
対して、ヨシくんは横っ跳びで思いきり飛んだ。
ハンチング帽が脱げることなどお構いなしの必死の回避で、何とか直撃を避けることには成功するが――。
「しま……ッ!?」
回避した先にあった瓦礫に、左手に持っていた竹弓が激突し、バキィ! と。
派手な乾いた音を立てて――重要な武器が真っ二つに折れてしまう。
ヨシくんの雷魔法は武器がないと発動できない。
魔法の扱いは決して器用とは言えないため、媒介となるものがないと成立しないのだ。
……それはつまり、攻撃の手段がなくなることを意味していた。
「フン、まあいいでしょう。大人しくなるのなら充分で――」
「喋ってるヒマあるのか骨野郎っ!」
直後、勝ち誇った様子のヨギの背後からガガクの声がかかった。
ほんの数秒、ヨシくんに集中していた意識と攻撃――。
そこで自分への警戒が薄れたのを見逃さずに、魔法の発動の隙をついて接近していたのだ。
そして放たれる至近距離からの【竜巻の牙】。
もう完全に会得しているため、中距離から正確な狙いで撃てるも、ガガクは確実性を取って接近していた。
「喰らえっ!」
右腕に纏った風の中位魔法を拳ごと突き出す。
ヨギを守っている浮遊岩の一つを粉砕すると――勢いそのままに術者の体に到達する。
「チィ……ッ!」
その寸前、風の補助魔法によって滑るように回避行動を取っていたヨギ。
――だが完全には間に合わない。黄土色のローブの上からギャリギャリィ! と骨の体が削れる音が響いた。
ガガクの右腕に伝う手応え的にも、当たったのは間違いない。
ただ動きだけでなく反応の速さもあったことで、表面を少し削った程度に終わる。
「おのれ! 次から次へと……! 私に触れるなど許しませんよ!?」
と、ここまでずっと冷静だったヨギが突然、声を荒げた。
次に仕掛けてきたカグラの風の斬撃を鬱陶しそうに回避。
骸骨な顔のため分かりにくいが、戦闘中でも怒りの感情が伝わってくる。
「よほどお気に入りのローブだったってか? いやそれとも……かつては自分の商品だったガキから反撃を喰らったのが琴線に触れたか!」
ムウマが叫び、牽制程度でもしつこく投げナイフを見舞う。
『八本指』ヨギの生前は何を隠そう奴隷商人だ。
パンドラの住人から仕入れた情報で、貧しい家庭の子供を中心に売買していたと聞いている。
だからこその『不眠の呪い』――。
当時の法律では許されていたが、やはり人道的な観点から神は許さなかったようだ。
ただアンデッドゆえに、結果的にデメリットのない加護のようになってしまっている。
……だとしても、自由を奪われた者たちの怨念が消えることはないだろう。
「そんなヤツには負けないべ! 今度こそ本当の死をもって悔い改めるんだべな!」
ムウマに続いてヒュウガも叫ぶ。
全身鎧と左腕の腕盾を構えながら大きく前進。さらに鎚矛による攻撃が空振りに終わろうとも、愚直に突進を繰り返す。
「大丈夫だ任せろ! まだ俺がいるからな! ……と言ってみたいです!」
さらに南瓜頭族のドンチンも。
ヨシくんの援護射撃がなくなった分を補おうと、最前線に混じって頭突きでの邪魔を何度も試みる。
「――フン、小賢しいですね。群れれば『三大ファミリー』の幹部を落とせると思っているのなら甘いですよ! どこかの格落ち女とは違うのでねえ……ッ!」
口調こそ変わらないが怒りの感情が収まる気配はなし。
それでも魔法の精度が落ちないのは、やはり強者である幹部だからか。
『嘲笑』の声を伴う魔力光線を中心に、時折、複数属性の魔法の同時発動が襲い来る。
感情に比例するように魔法攻撃が激しくなる一方、回避や守りの補助魔法のかけ忘れはしてくれない。
「――たしかに、ベニムラサキのやつと比べればそうかもな。……けどっ!」
「ニゴマルやジンロウタと比べれば……! あなただって格落ちの幹部でしょう!」
「!? あ、あなたたち……! 今この私を虚仮にしましたね!?」
ガガクとカグラの痛烈な言葉による反撃。
それを受けたヨギに一瞬、動揺が走り――すぐに怒りで塗り潰された。
間違ってはいなくとも決して触れてはならない事実。
自尊心を傷つけられた幹部は、体を傷つけられた時の比ではない強烈な感情を纏った。
「……いいでしょう。少々、過剰だと思っていましたが……! 生意気な子供にはお仕置きが必要なようですねえ!」
怒りに骨の体を震わせながら、ヨギがこれまでにない構えを見せた。
十六本ある指のすべてを絡めるように掌を合わせると、その手を頭上に掲げたのだ。
発動前の込めた魔力からしても、本気の一撃。
同盟側は来る大技に備えるべく、それぞれが回避および防御の姿勢を取る中で――、
「【落情枝垂れ】」
満を持して指先から放たれた魔力光線。
白濁した色と伴う『嘲笑』の声は同じでも、一本一本に宿った魔力も光線の太さもこれまで以上だ。
――そして何よりも、
「な、どこに撃っているんだべ!?」
放たれた先は同盟側ではなく上空だった。
まるで花火を打ち上げるかのように、十六の魔力光線が戦場の空へと勢いよく昇っていく。
その数秒後、頂点まで達した十六の魔力光線が落ちてくる。
だが、それがそのまま普通に落ちてくるだけのはずもなく――。
十六から無数の魔力光線へ。
空中で細かく別れたそれらが、戦場すべてを覆い尽くすほどの本数となって落ちてくる。
「「「「!?」」」」
当然、回避する場所などほとんど存在しない。
落下攻撃から逃れる安全地帯を見つけるのは不可能に近く、迎撃するかガードするかの二択のみ。
――となれば最も危険に晒されるのはムウマとヨシくんである。
自慢の回避が封じられたムウマに防げる術はなく、ヨシくんもまた竹弓を失ったため迎撃はできない。
もし危険がなければ見入ってしまうだろう美しい一撃。
大物アンデッドの指先から放たれた奥義が――空から二人に確実な死を届けにくる。
◆
「二人とも! 私のところへ!」
その広範囲の魔法攻撃が着弾する前にカグラが叫んだ。
上空から凄まじい『嘲笑』の声も聞こえてくる中、仲間のその声を聞いたムウマとヨシくんは慌てて走り出す。
そうして、殺人的な魔力光線の雨が地上へと落ちてくる寸前。
「【五重ノ旋風】!」
ギリギリのタイミングでカグラが風魔法を発動する。
一瞬で生まれた暴風の奔流はカグラを中心に、逃げ込んだムウマとヨシくんの体も包み込む。
そこへ降り注いできた魔力光線の雨。
当たれば貫かれることを免れないそれを、頭上までしっかりと覆われた五重に重なった旋風が防ぐ。
「……ほう、子供のくせにやりますねえ! 情報にはありませんでしたが……新たな中位魔法を覚えていましたか!」
渦巻く暴風を貫通できず、標的に届く前に霧散した魔力光線。
自身の大技を九歳児に防がれたヨギは、怒り半分笑い半分のような声で叫んだ。
敵である大物アンデッドさえも感心せざるを得ない力。
もちろん才能に恵まれたのもあるが、ロッポウが見つけた木乃伊族の狩り場がなければ、まだ習得できていなかった魔法だ。
「――あっぶ、なかったぞ……っ!」
「まるで生きた心地がしなかったべな……!」
「地獄の殺人シャワーってか? まあオイラには問題ねえな! ……でも二回目は勘弁してほしいです」
――一方、そのカグラの周辺。
風の防壁に守られなかったほかの面々については――お聞きの通り、何とか凌ぐことには成功していた。
ガガクとヒュウガはそれぞれ風魔法と鎚矛での相殺を。
何度も重ねた早撃ちおよび一発の重撃によって、蜂の巣にされることは避けられていた。
またドンチンも自慢の頑丈な頭で耐え切ったことで、誰一人として戦場に倒れた者はいない。
そんな同盟側の状況を見て、さすがのヨギも驚いている様子だ。
恐ろしい骸骨な視線が一人一人に向けられる中で……とある者にその視線が止まった。
「……何と、こちらも想定外ですねえ。まさか『種族進化』していたとは知りませんでしたよ」
「……へ?」
まさかのドンチンである。
戦闘が始まってから頭突き攻撃という名の邪魔をしていた最弱戦力に、ここで初めてヨギの視線と注意が向けられた。
「しゅ、『種族進化』だと? ……ですか?」
「……おや、本人は気づいていなかったのですか。その南瓜頭のヘタ部分が星型になっているでしょう? それは南瓜頭族の上位種――南瓜頭王族の証ですよ」
一旦、双方の攻撃の手が止まって生まれた静の時間の中で。
急にヨギから指摘を受けたドンチンは、予想だにしない言葉に困惑してしまう。
「おかしいと思っていたのですよ。いくら頑丈なだけの種族とはいえ、私の攻撃を受け続けても穴が開かないのはあり得ないですから」
「お、おおう……?」
ヨギから淡々と告げられる自身についての情報。
ドンチン本人はまったく気づいていないが、数日前にも似たようなことをテンドウに言われたことを思い出す。
頭頂部のヘタ部分が星型に変化。
ヨギいわく、それはどうやら『種族進化』が原因だったらしい。
「……まあいいでしょう。別に大した支障にはならない――誤差の範囲内ですからねえ!」
と、思い出したようにヨギの怒りがまた沸いた。
そして再開された殺し合いにより、戦場では再び魔力光線を中心とした魔法攻撃が飛び交い始める。
「「「……ッ!」」」
――相変わらず隙らしい隙はない。
ガガク、カグラ、ヒュウガが接近すれば、すぐさま滑るような移動の風魔法で距離を離されてしまう。
とはいえ、接近しないという選択はあり得ない。
最大で十六発を同時に放てるヨギと中間距離以上で戦うなど、自ら勝利を捨てにいくようなものだ。
骨の指一本あれば、指先一つで敵を屠れる――。
この部分については、『不死の三傑』やニゴマルおよびジンロウタにも真似できない芸当である。
(どうするべか? ヨシくんの援護がなくなった今、強引に近づくわけにもいかないべよ……!)
周囲の家屋が壊れて戦場が広がってしまったのも同盟側にとっては痛い。
途切れない回避と防御の補助魔法に加えて、危険な魔法攻撃も止む気配はまったくない状況だ。
――ちなみに、相手の魔力切れを狙う作戦は論外である。
魔力量の一点に関しては、ヨギは幹部の中でも最も多いからだ。
そもそも相手も魔力回復薬くらいは準備している可能性は高く、魔力切れを起こすとしたら自分たちの方が先だろう。
(……けど、一発で必ず変わるべな。削られる前に当てられるかが勝負だべよ……!)
何本もの魔力光線を鎚矛で迎撃しつつ、ヒュウガは兜の下で考える。
ガガクの【竜巻の牙】か、己の重い一撃か。
どちらかがまともに直撃さえすれば、一気に畳みかけられる可能性は高い。
だから焦らずに機をうかがう。
隙らしい隙はほとんどないが、必ずその時は訪れると信じて。
「人間も大概しつこいですねえ! この私を相手にいつかチャンスが巡って来るとでもお思いですか!」
指先からとめどない魔法攻撃を連射しながらヨギが咆える。
ただヨギもまた怒りとは裏腹に、ペースを崩すほどの強引さは出してこない。
ヨシくんに攻撃を集中させた時にガガクから反撃を受けたこともあって、同じ過ちは二度と起こすつもりはないようだ。
またわざと足元を破壊するなど、同盟側が動きづらい状況を意図的に作り初めている。
「くっそ! ジジ臭い戦いするな本当にっ……!」
「それを言うなら老獪だよ、ガガク!」
――結果、戦いは完全に持久戦の様相となっている。
どちらも冷静に戦闘を進めているが、やはりどうしても焦りが生まれてしまうのは同盟側か。
魔力切れよりも先に自分たちの脚が重くなるのは確実だ。
ヨギとは比べものにならないほど動き回っているため、蓄積する疲労の差は歴然としている。
ここで回復担当のモモヒメに期待は……できない。
万能治癒士な彼女といえど、疲労だけは回復できないからだ。
そもそも安全が確保されないと出てこないため、回復を受けられるのは勝利を手にした後である。
「「「「……ッ……!」」」」
だからこそ、戦場にいる誰かがヨギの隙を作り出さなければならない。
それができなければ、このまま同じ状況が流れてジリ貧になっていくだけだ。
そう頭では分かっていてもリスクを冒せないまま――時間だけが過ぎていく。
飛び交う魔法や周囲の破壊状況は派手であっても、内容自体は極めて地味な戦いだ。
「――さて。もう一度、受けきれますかねえ!?」
そんな中でヨギが再び大技の【落情枝垂れ】の発動準備に入った。
同盟側との距離が少し離れたのを見て、すかさず広範囲魔法を繰り出そうとする。
そして二発目のそれが放たれる――寸前のことだった。
バシュン! と。
どこからともなく聞こえてきた、空気を切り裂くような音とほぼ同時。
ヨギを守るように浮かぶ【円岩遊装】の岩の一つが、予期せぬタイミングで砕け散った。
「何ッ!?」
その予想外な一撃にヨギの魔法の発動が止まる。
完全に意識外から飛んできた攻撃によって、初めて緻密な魔力操作に狂いが生まれたのだ。
……だがいったい誰が?
ヨギだけでなく同盟側にも同じ疑問が生まれた中で――最後方にて口を開いた者が一人。
「まさかこれでもイケるとはな! 弓っぽい形だけでいいとは……おっさんも驚きだぞ!」
援護射撃担当のおっさんこと、ヨシくんである。
いつの間にかハンチング帽を被り直していた彼は、崩れた家屋に隠れながら【迅雷矢】を放っていたのだ。
もちろん竹弓は壊れて使えないのですでに手離している。
その代わりに持っていたのが、木の棒の両端に麻紐を巻きつけただけの弓のようなものだった。
素材は瓦礫の中で見つけた適当なものだ。だから明らかに弓としての機能は有していない。
……はずなのだが、奇跡的に魔法の発動には問題なかったらしい。
武器を失い、もう戦闘に加われないと判断した者のまさかの戦線復帰。
対集団戦において、ヨギ側にこれ以上の隙が生まれるものもないだろう。
しかも、大技を発動するために両手を頭上に掲げていたのだから――。
(((今だ!)))
直後。ガガク、カグラ、ヒュウガの前衛組が一斉に動いた。
ここを逃せばまた戦いが長引き、やがて多重魔法攻撃の餌食になる可能性が高い。
「【風圧天井】!」
まずカグラが風の拘束魔法を発動。
その狙いは即座に反応したヨギに避けられてしまうも、これは想定内の動きだ。
「【烈風刺脚】!」
「くッ!?」
続けてガガクの風魔法、新たに覚えたもう一つの中位魔法が放たれた。
これまでずっと狙うタイミングを図っていたものを、ここぞとばかりに初披露する。
まるで投擲された槍のごとく、鋭利な風を纏った飛び膝蹴りが浮遊岩の一つを破壊。
凄まじい貫通力を有したガガクの膝は飛び込んだ勢いのまま、ヨギの左肩をローブの上から大きく削る。
「――ぬおおッ!」
そんな双子兄妹の連携に続いたのは、もう一人の主戦力であるヒュウガだ。
ガガクとカグラに比べれば速度に劣るはずなのに、なぜかほんの少し遅れただけ。
絶妙な時間差からのタイミングで――最も重い攻撃が襲い来る。
(なッ!?)
ヨギが驚いた理由はただ一つ。
襲い来る第三の攻撃に、全身鎧なヒュウガ本人の姿がなかったからだ。
――【鎚矛砲】。
先端が球体状の百五十キロもの重い武器だけが、投石のような速度で真っすぐ飛んでいく。
【重量無視】で重いものを軽々と振り回せるのなら、放り投げることもまた可能である。
その度肝を抜く武器砲撃が術者を守る浮遊岩と衝突。
重さと速度により高い威力を誇り、かつ魔力も纏わせて威力を底上げした一撃は、いとも簡単に岩を破壊すると――ヨギ本体のみぞおちに直撃した。
「ぐおぉゥ……ッ!」
これで守りの浮遊岩はすべてなくなった。
一時的に防御魔法を失い、骨までは砕けずとも明確なダメージを負ったヨギの体勢が大きく崩れる。
「【電電矢】!」
だが、まだ同盟側の追撃は終わらない。
今の流れを生み出したヨシくんの弓モドキから、即座に二発目の魔法が放たれた。
威力はなく、弓矢自体の速度も【迅雷矢】より遅い行動阻害の魔法。
この戦闘では一度も当たっていなかった攻撃が――ついにヨギの体を捉える。
相手が『三大ファミリー』の幹部だと考えれば、いくら脆くとも痺れる時間は一秒にも満たない。
それでも一瞬の時間さえあれば、同盟側の頼もしい戦力を考えれば充分だった。
「「フゥッ!」」
すでに打ち合う距離まで接近していたガガクとカグラが風の属性剣を何度も振るう。
これはダメージではなく体勢を崩すことが目的だ。
振るわれた猛攻撃によってヨギの体がよろめいていると、ついにヒュウガ本体も近接距離まで到達する。
……ただ当然、武器である鎚矛はさっき投げたので持っていない。
ヨギの足元に落ちているから拾うことは可能だが……追撃を成功させるべくそちらは無視だ。
「ぬおおお! だべ!」
丸腰のまま繰り出したのは体当たりだ。
普通なら大した威力は出ないその一発も、重すぎる全身鎧を装備していれば話は別である。
「ぐぬゥ……!」
その突進でヨギの華奢な体が軽々と吹き飛ばされた。
風の補助魔法での滑る回避は間に合わず、まともに受けた骨の体が瓦礫の山に背中から落ちる。
――が、まだまだ同盟側の攻撃は止まらない。
ヨギが背中から着地する前に、すでにガガクとカグラも離れた距離をまた詰めていた。
「ヒノモト王国軍、鬼上官の心得その二十五っ!」
「流れが来たら掴み取って一気に終わらせろ、だね!」
ガガクとカグラが腹の底から叫ぶ。
それは鬼上官から部下のテンドウとヒュウガへ、そしてガガクとカグラの二人へと伝わった言葉だ。
ここが勝負どころと判断し――訪れた最大の好機を掴むべく一気に攻める。
二人は揃って風の中位魔法を発動。
まずカグラが【五重ノ旋風】を、敵の大技から身を守るために使った防御魔法を――今度はヨギごと包み込むように生み出した。
絶対に標的を逃がさないために、防御ではなく出口のない檻として。
そうして外と隔たれた旋風の中で、兄のガガクがその右腕に小さな竜巻を纏う。
「――終わりだ。もう逃げ場はないぞ骨野郎っ!」
「ふ、ふざけるな! これで追い詰めたつもりですか!」
両者の間合いはわずか一メートル。
これまでにない超接近戦の距離で、ガガクとヨギが叫んだ瞬間、ぶつかり合う。
凄まじい風の奔流でほかの音は一切聞こえない。
戦闘中ずっと響いていたヨギの魔力に伴う『嘲笑』の声も、今は完全にかき消されている。
吹き荒ぶ大きな五重の旋風の中がどうなっているかは……外にいる者には確認すらできない。
「「「「…………、」」」」
ヒュウガもヨシくんもムウマもドンチンも。
残された戦場に立つ者たちは、ただ信じて見つめているだけ。
……この状況となってはもう待つことしかできない。
それでも残された仲間として、最悪の事態を想定して構えは解かずに、すぐ外側で待機する。
そんな手出し無用の状況となって――数十秒が経った頃。
地上から空へと伸びていた五重の旋風が一枚、また一枚とゆっくりと外側から剥がれていく。
それに伴い耳を支配していた風の轟音も収まっていき……ついに最後の一枚が剥がれて消えた。
「……ハハッ、いやもうマジでよ……。大人顔負け……立派な戦士の九歳児様だぜ」
信じてはいたが、やはり現実に目にするとムウマは苦笑してしまう。
才能および日々の努力を知ってはいても、彼らはまだ子供なのだから。
すべての風が止んだその中心に立っていたのは――見慣れた顔の赤毛の兄妹が二人。
そして、その二人の小さな体に吸い込まれるように。
膨大な魔力の残滓を放つ、倒れて動かぬ骨人族の姿があった。




