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不死ノ国XX記  作者: 三月坊主
第二章 騒乱の南エリア編
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第五十七話 怪しい雲行き

 異なる『三大ファミリー』の幹部二体との遭遇。

 どちらも初見となる大物アンデッドが現れたことで、テンドウたちに大きな緊張が走る。


 状況的には以前、ベニムラサキ戦の後にニゴマルと遭遇した時の方が悪くはあるが……単純な敵戦力だけで見れば、幹部二体がいる今回の方が厳しい。

 それこそ並の、いや上位の冒険者でも命を諦めてしまうだろう状況である。


(とはいえ、だ。今回に関してはおそらく……)


 が、冷静に考えればそこまで心配する必要はないかもしれない。

 テンドウは上にいる二体を視界に入れつつ、まだ鞘から抜刀はしない。


 なぜなら『三大ファミリー』は百年もいがみ合っている関係だ。

 かつヨギやタタリの発言からしても、首謀者であるローブの男を追ってきたことは判明している。


 ゆえに標的としての優先順位は人間ファミリーの方が低い。

 その事実はテンドウだけでなく、ほかの面々もすでに理解している。


 だから魔の手が自分たちに向けられることはない――。その甘い考えは見事に粉砕されることに。


「……やれやれ。せっかく同じ血の通った人間とゆっくり喋りたかったというのに……。こうなっては仕方ないな」


 一番に狙われるはずのローブの男が言うと同時。

 彼の足元に小さな魔法陣が現れ、淡い青い光で照らされ始めたのだ。


 一見、異形アンデッドを生み出した青い光に似てはいる。……ただ経験者のテンドウたちはすぐに違うと気づいた。


 ――転移陣である。

 かなり小規模で一人専用だと思われるそれが浮かび上がり、ローブの男の全身を包んでいく。


 だがその転移が完了する前に、二つの攻撃がローブの男を襲う。


 ヨギが放った魔力光線とタタリが放った魔力弾だ。

 どちらもシンプルな無属性ながらも、並の魔物では到底出せない火力の一発が殺到するが――バチィン! と。


 柔な人間の体が破壊されようとした寸前、見えない何かに弾かれた。


 ……ローブの男が防御系の魔法を発動した様子はない。

 転移陣以外の魔力も発動の動作もなかったのを見るに、何かの魔道具で攻撃を無効化したと思われる。


「最後にはなるが名乗っておこうか。――我が名はプリバトヤ。世界の深淵を探求し続ける者だ」


 ローブの男――プリバトヤがテンドウたちの方を見る。

 そして最後に「いずれまた会おう」と告げると、青い光に包まれてその体が転移していく。


「「「「……ッ!」」」」


 結果、住宅街の行き止まりに残されたのはテンドウたちだけに。

 左右の上から幹部二体に見下ろされる形は、まさに狩る者と狩られる者のような関係に見えてしまう。


(これは……ちょっとマズいか? いやだけど敵対ファミリー同士なら……!)


 テンドウの中に焦りが生まれる。

 状況的にはプリバトヤ一人がいなくなっただけだが……その一人が最も重要な人物だったのだ。

 ここから先、流れがどちらに転ぶかによっては――天地ほどに違う結果が待っているはずだ。


「……ふむ、どうしますかねえ。標的が逃げてしまった今、代わりにあなたを消してもいいのですが」

「あァ? やるか? こっちは別に構わねェぞ」


 やはり亡都ヤマトニアの覇権を争う『三大ファミリー』同士か。

 言葉も態度も敵対そのもので、両者の視線と魔力が空中でぶつかり合っている。


 今にも二体の間で戦いが始まりそうな空気と会話だ。

 勝手に潰し合ってくれるのならば、テンドウたちからすればこれ以上ない展開である。


「「だが、」」


 と、ここでまさかの二体の言葉がシンクロした。

 さらに視線までもが重なって――行き止まりの路上にいるテンドウたちに向けられる。


「ベニムラサキを討ち取った『炎の剣士』だけだと思っていましたが……。明らかにファミリーの力が上がっていますねえ。……あまり放置しても厄介ですか」

「何より、人間なんざに引っかき回されても困るしなァ」


 ……まだ結論は出ていない。

 だが、明らかに会話の流れは恐れていた方へと傾き始めている。


 それを黙って聞いていたテンドウたちの不安が加速度的に増していく。

 額と背中に嫌な汗をかき始めた中で――ついにヨギから明確な言葉が放たれてしまう。


「一つ提案なのですが……『飛猿(とびざる)』タタリ。ここは手を組みませんか?」

「なッ!?」


 そのヨギの言葉に、真っ先に反応したのはタタリではなくテンドウだった。

 会話の流れ的に怪しかったとはいえ、さすがに度肝を抜かれてヨギの方を凝視してしまう。


 ……実際に言葉として出ると衝撃的すぎた。

 長きに渡って覇権を争い、互いに数えきれないほど殺し合ってきた犬猿の仲なのだ。


 だからヨギの提案が拒否される可能性もある。そう一縷の望みを抱いていたのだが――。


「フハハハ! 別に構わねェぞ。どうせテメェはかしらから、俺らの南での動きを探れと言われてんだろォ? ……まずは人間どもを始末してから、力ずくで情報を聞き出してみろや」

「はああああ!?」


 続くタタリの言葉に、またもテンドウが先に反応してしまう。


 潰し合ってくれるどころか三つ巴の戦いですらない。

 どうやらヨギ側に関しては、南エリアに入った理由が敵幹部の監視だったらしいが……もはやそんなことはどうでもいい状況だ。


 ――今の狙いは人間ファミリー。しかも異なるファミリーの幹部二体ともが、だ。


(くそっ!? 犯人が逃げて罪をなすりつけられたような気分だぞ……!)


 考えうる限り最悪のシナリオである。

 どちらか片方だけなら今の戦力をもってすれば負けることはない。

 ただ幹部が二体同時となると……だいぶ話が変わってきてしまう。


「もとよりそのつもりですよ。そちらの企みは洗いざらい吐いてもらいますからね。――とにかく、まずは人間ファミリーを葬るまで一時休戦ということで」

「あァ、すぐに終わらせるとしようか」


 混乱するテンドウたちなど気にもせず、ヨギとタタリがニタァ、と笑う。


 ついさっきまで睨み合い、鍔迫り合いのように魔力をぶつけあっていたというのに。

 その魔力も敵意も人間、だけでなく一緒にいるドンチンとモモヒメにも向けられている。


「冗談でしょう? アナタたちは水と油――決して相容れない関係で……!」

「ちくしょう! それだけオイラたちが脅威だってか!? ……まさに大誤算です」


 同じ亡都の住人(アンデッド)にとっても予想外すぎる展開。

 二人の愕然とした表情は、テンドウたち人間と何ら変わりないものだった。


「「「「ッ――!」」」」


 一時的なものであっても、前代未聞の敵対ファミリー同士の共闘。

 しかも街の覇権を争う『三大ファミリー』同士となれば、その脅威度は弱小中堅の比ではない。


 それを迎え撃つことになるテンドウたちは――一気に混沌の中に叩き落とされたのだった。



  ◆



「じゃァ『炎の剣士』は俺がもらうぞ。残りは全部テメェに任せた」

「……やれやれ。何となくそうなると思っていましたよ。ここで言い争うのも面倒なのでそれでいいでしょう」


『三大ファミリー』の幹部の二体同時討伐。

 その想定外すぎる厳しい戦いは、アンデッド側によって勝手に組み分けまで決まってしまう。


 もうこうなってしまえは……テンドウたちには戦うしか選択肢はない。

 ニゴマルと遭遇したあの時と同じだ。相手の能力を考えても、遠く離れたカンナギ城まで逃げ切れる可能性は極めて低い。


 また廃病院の方も同様である。

 貴族街の外に構えたアンデッド不可侵の第三拠点も、距離的にはそこまで近くないのだ。


「……この狭い場所で乱戦、か。……だいぶシビアな戦いになりそうだな」

「ハッ、まさか。『八本指(はっぽんゆび)』の流れ弾に邪魔されたくはねェからな。一時休戦で共闘はするが――誰が骨野郎と一緒の戦場でやるかよォ!」


 ぽつりと呟いたテンドウの声にタタリが反応する。

 直後、革のジャケットとズボンを纏う腐った体が屋根から跳躍。人間ならば大ケガをする高さから飛び降りると、目にも止まらぬ速さで急接近してきて――。


「さァ、俺たちはあっちに行こうか!」

「ぐッ!?」


 タタリが両手に持つ武器、珍しい十手(じって)の一撃が襲い来る。

 対して、すでに抜刀していたテンドウは白い炎太刀で難なく受け止めた。


 ――殺傷力という点から見れば威力自体は大したことはない。

 だが、それとはまったく釣合わないカァアアアン! という特徴的な音と、不自然なほどの凄まじい衝撃によって。

 テンドウを乗せたクロちゃんの体が、地面を滑るように大きく後退してしまう。


 その距離およそ十メートル弱。

 クロちゃんのバランス力のおかげで落馬することは免れたものの、馬体の重さなどまるで関係なし。

 そんな特殊な攻撃がカンカァアン! と立て続けに数度、続けば――あっという間に行き止まりから大通りへと押し出されてしまう。


「くッ! これが噂の【はじき】ってやつか……!」

「へェ、俺の技を知ってるのか。……まァこの街に何カ月もいりゃ幹部の情報くれェ入ってくるわな!」


 結果、いとも簡単に仲間と分断されてしまった。

 ほとんど成す術なく場所を移されたテンドウは、ここでクロちゃんから降りると改めてタタリと対峙する。


「あァん? もう降りるのかよ。別に乗ったままでもいいんだぞ?」

「……お気づかいどうも。まあ正直、騎士スタイルの方が総合的に強くはあるけどな。……たださすがに、お前みたいな超スピードタイプ相手だと対応し切れないのさ」

「ハッ、何だ分かってんじゃねェか。急に顔つきも変わりやがったし……相当、自信があるってか?」


 クロちゃんを後方に下げさせて、テンドウはタタリと睨み合う。

 ヨギと戦うことになる仲間たちも心配ではあるが、まず心配すべきは自分の身だ。


 幸いタタリの方からわざわざ一対一を仕掛けてくれたのだ。

 最も避けたかった不測の事態が起こりやすい乱戦でないのは、テンドウたちからすればむしろ好都合である。


「フゥー……」


 テンドウは深くゆっくりと息を吐く。

 中段に構えた刀身からは、百二十回の付与を重ねた灼熱の業火とその魔力で溢れている。


 そこにタタリの膨大な魔力が混じり合うことで生まれた、あまりに重くて濃い空間。

 見通しのいい開けた通りであったとしても、息が詰まりそうな閉塞感すら覚えてしまう。


「さァ――始めようか『炎の剣士』!」


 そして始まる大きな戦い。開始の合図はやる気満々なタタリの声だ。


 テンドウにとってはこれで三度目。

 ベニムラサキとニゴマルに続き、『三大ファミリー』の幹部との本気の殺し合いが始まった。

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