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不死ノ国XX記  作者: 三月坊主
第二章 騒乱の南エリア編
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第五十六話 ローブの存在

「はあ!? 今度は何だって――」


 南エリアにあるエビス広場での異形アンデッドたちの誕生。

 首謀者であるローブの存在によって引き起こされたそれを、まだ完全には飲み込めていない中で――次なる異常事態が起きた。


 大広場の東側からの襲撃。

 すでに存在していた異形アンデッドたちではなく、まったく別のアンデッドの群れが突然、現れたのだ。


 大広場の最後方にいるテンドウたちから見れば左手側。

 謎の儀式で勝ち残った異形アンデッドたちの横っ腹を突くように、新手のアンデッドのファミリーが突っ込んでくる。


 その正体は参加しなかった南の弱小中堅ファミリー……ではない。

 全身が骨だけしかない姿を見れば、彼らが『三大ファミリー』の一つ、東エリアを統べる骨人族(スケルトン)ファミリーだと分かるだろう。


「しかもアイツらって……っ!」

「き、気持ち悪いかも……!」


 それを見たガガクとカグラが悲鳴のような声を上げた。


 東から突っ込んできた数はおよそ百数十体。

 一見、地を這うような動きも含めて巨大な蜘蛛のようにも見えるが――近づいてくればそれが巨大な骨の手だと分かる。


 猛々しい殺気と魔力をまき散らして進軍するその骨手(こつしゅ)の軍勢。

 見ているだけで鳥肌が立つ不気味なアンデッドたちを、先頭で率いて攻め込んできたのは――。


「本当に派手にやりましたねえ。我々のナワバリではないですが……一応、隣接しているのでね。あまり好き放題やられても困るのですよ」


 宙に浮かぶ小舟に乗った、黄土色の魔道士のローブを纏った骨人族(スケルトン)

 左右の手の指がそれぞれ八本あるという特徴を持ち、率いる配下たちとは比べものにならない魔力を放っている。


 彼こそ骨人族(スケルトン)ファミリーの幹部の一体――『八本指(はっぽんゆび)』ヨギだ。

 ここ最近、なぜか南で目撃情報のあった大物アンデッドである。


「……おやおや、幹部様がナワバリの外まで出てくるとは……。てっきりこっちには興味がないと思っていたんだがな?」


 一方、突然の襲撃を受けたというのに、ローブの存在に動じた様子はない。

 まだ拡声器の魔道具を使う余裕を見せているため、その声は離れているテンドウたちにも届いてきた。


「――なっ、冗談キツイぜ!? おいお前ら、右の方も見ろ……!」


 と、ここでムウマの焦った声が生まれる。

 その声を受けてテンドウたちが大広場の右側、反対の西に視線を向けた――数秒後。


 ドゴォオン! と、またも派手な破壊音が響き、激しい土埃が舞い上がった。

 つい今しがた東側で起きたものと同じことが、大広場の西側にも生まれたのだ。


「「「「ッ!?」」」」


 ――そして、急襲という形で登場したアンデッドたちの格も、数も、まったく同じ。

『三大ファミリー』の一つである腐肉族(グール)ファミリーがおよそ百数十体、大広場に殴り込んでくる。


「――ったく、どうなってやがんだァ? わざわざ潰しに来てやったら……まさか骨どもまで来てるたァな!」


 その軍勢を率いる者が、大物アンデッドという点もまったく同じだ。

 深緑色の腐った肉体の上に着用した、革のジャケットと革のズボン姿。

 どこか洒落た印象のこの個体こそ、『飛猿(とびざる)』の異名で恐れられる幹部のタタリだ。


 つい最近、ロッポウを奇襲して重傷を負わせた犯人である。

 ヨギと同じく噂通りに南エリアに出没していたらしく、やはりこの現場にも突入してきたようだ。


 そんな異なる『三大ファミリー』の幹部二体が現れたのを確認した直後。

 今回の首謀者であるローブの存在が選んだのは――やはり逃げの一手だった。


「私も命は大事なんでな。さすがに二体同時は付き合っていられないぞ」


 そう言い残して、強力な異形アンデッドたちが応戦する中で一人、混乱に紛れて逃げ出したのだ。


 ……状況からすれば当然の行動ではある。

 だが予想外だったのは、肝心の逃げた方向だった。


 てっきり街の外側、さらに南へ逃げると思いきや、

 反対となる大広場の北側、つまりテンドウたちの方へと逃げてきたのだ。


「な、こっちかよ!?」

「どうする、追うか? あのローブで魔力は感知できねえから、一度見失ったら探すのは困難だぜ」

「……うーむ、なら追ってみるか。ガガクとカグラの二人は俺と一緒にだ。ムウマはほかの皆と一緒に後からついてきてくれ!」


 ムウマからの問いに一瞬、悩むも、テンドウが選択したのは追跡だった。

 迅速に指示を出すと、数十メートル横を通り過ぎていったローブの存在の追跡を開始する。


 思った以上に脚が速く、目標はあっという間に大広場を抜けたが……問題はない。

 クロちゃんに騎乗したテンドウと、【追い風】を纏ったガガクとカグラ。

 彼ら自慢の脚力であれば、振り切られる心配はなさそうだ。


「――行け行けえ! ヤツを逃がすな! ……ただ事故は恐いから気をつけましょう」

「うおっ!? 何だ、いつの間に乗っていたんだよ、ドンチン!?」


 と、まさかの同乗者が発覚するも――今さら降ろしているヒマはない。

 テンドウは自身の外套をドンチンに掴ませて、引き続き逃走を図るローブの存在を追う。


 大量のアンデッドが大広場に集まっていたこともあって、相変わらず周辺はスカスカだ。

 東西から襲撃してきたヨギやタタリやその配下たちも交戦中のため、ローブの存在とテンドウたちだけの足音が響いている。


 その状況でしばらく静かな街中を走っていると、ローブの存在は路地裏の方へ。

 曲がり角を人の動きとは思えない直角かつ高速で曲がったのを見るに、向こうも移動系の魔法を使っているようだ。


 一方のテンドウたちは急な待ち伏せ攻撃も警戒しつつ、適切な距離を保ったまま後を追って路地裏へと入っていく。


「「「「――!」」」」


 すると突然、続いていた石畳の道が終わって行き止まりに。

 入り組んだ住宅街の先に続く道はなく、追っていたローブの存在がポツン、と背中を向けて立っていた。


「……ふむ。まあとりあえずここならいいか」


 そしてくるりと振り向いた。

 一切の魔力を遮断するローブを目深に被ったまま、追ってきたテンドウたちに向かい合う。


「必ずついてくると信じていたぞ。私も諸君と一度、話をしてみたくてな」

「……は? てことはお前まさか……ここに入り込んだのもわざとか?」


 クロちゃんに騎乗したままテンドウが問いかける。

 対してローブの存在は答える――ことはせずに、おもむろにフード部分をめくり上げた。


 互いの距離は十メートルほど。視界の邪魔になる霧も今日は出ていない。

 そこで初めて相手の顔や表情がハッキリと分かったのだが――。


「…………、え?」


 瞬間、テンドウもガガクもカグラもドンチンも一斉に目を見開いた。


 なぜなら、ついに露わになった謎の相手の姿が……想像していたものとは違ったからだ。


 少しウェーブがかった金色の長髪も、堀りの深い顔も、健康的な肌色の肌も。

 どれだけ目を凝らして見ても、不死なるアンデッドらしき要素は何一つない。


 最も人間に近い見た目の吸血鬼族(ヴァンパイア)どころの話ではない。

 唯一、左の目だけは義眼なのか普通な感じではないが……その部分も別にアンデッドとは関係がない。


 どこからどう見ても、アンデッドだと思っていたローブの存在は――生身の人間だった。



  ◆



 ローブを纏った謎の存在の正体は人間だった。

 わざわざ本人から説明されずとも、テンドウたちはこの数秒の間で理解した。


 また見た目だけではない。

 遮断効果のあるローブのフード部分をめくり上げたことで、男の魔力が初めて届いてきたのだが……魔物特有の禍々しさや刺々しさは微塵も感じない。


 亡都の重くて陰鬱な空気に溶け込まずに浮いている魔力――。それこそが人間の正銘でもあるのだ。


「やはり驚いているな。恐ろしきこの亡都に自分たち以外の人間がいたことに。……ただそれは私も同じだ。まさか同類がいるとは夢にも思わなかったぞ」


 ローブの男は滑らかな口調で言う。

 その声色や表情を見ても、戸惑いよりもどこか楽しそうな印象を与えてくる。


 そんなローブの男は西方の国の出身で間違いない。

 胸元まである長い金色の髪と義眼ではない右の青い瞳を見れば、ヒノモト王国やその周辺国にはいない外見だ。


 一方で口調や雰囲気からそれなりの年齢はいっているはずだが……髪の艶やシワのない肌を見ると年齢不詳な印象を受ける。


「まさか人間がいるとは……さすがに驚いたぞ。ただそうなると絶対にお前だよな? わざわざ矢文なんて送ってきたのは」

「その通り。面識はなかったがぜひ見てもらいたくてな。……実際に面白かっただろう?」

「いや面白いっていうより……ただただ衝撃だったぞ。ここ最近の異形アンデッドの騒ぎもお前が原因だったとはな」


 住宅街の行き止まりにて、テンドウとローブの男が言葉を交わす。


 そのやりとりの最中に、ムウマ、ヨシくん、ヒュウガ、モモヒメも遅れて合流してきた。

 そこですぐに四人もローブの男の存在と正体に気づき――同じく驚きのあまり硬直してしまう。


 自分たち以外の人間が存在している――。普通なら当り前のことでも、亡都ヤマトニアという人外魔境では決して普通のことではないのだ。


「……それでどうする若者よ? 話を聞くためだけに追ってきたのか……あるいはアンデッドのように私も狩るのか?」

「……いや別に。俺たちに害をなさないなら無駄な戦いをするつもりはないさ」


 ここまで警戒は解かずとも、テンドウたちは戦闘態勢には入っていない。

 ローブの男からは敵意らしきものはないため、今のところは同じ人間同士の会話だけに留まっている。


 おそらく直接的な危険は人間ファミリーにはないはずだ。

 リスクがあるとすれば、謎の儀式でポンポンと強力な異形アンデッドを生み出している点か。


(けど、それも全体的なアンデッドの数は減るからな……。脱出するならむしろ好都合なのか?)


 向かい合ったままテンドウが思考を巡らせる。

 この危険な土地で一人で活動しているのを見ても、内から漏れ出る魔力の強さを見ても、ただ者ではないのは明白だ。


 だからこそ下手に敵対はしたくない。

 勝手にアンデッドを弄くって楽しんでいるのなら、テンドウたちとしてはスルーすればいいだけだ。

 おかしな隣人がいたら関わらないのが吉。……それは王都でも亡都でも同じことだろう。


「見るものは見たしな。謎のローブの存在が人間だったことも分かったし、もう俺たちは帰らせてもら――」

「――そうですか。なら私がやらせてもらいましょう」

「いやァ俺だ。本来の仕事にはねェが、コイツが生み出した異形のせいでウチの下っ端どもも相当数、やられちまったからなァ」


 と、そんな結論に至った時だった。

 住宅街の行き止まりで、上の方から二つの見知らぬ声が響いてきた。


「なッ!?」


 と同時に流れ落ちるように下りてきた凄まじい魔力。

 テンドウたちやローブの男とは違う、明らかにアンデッドらしい禍々しい魔力が二つ、この場に混ざり合ってくる。


 ……どちらも質、量ともに下っ端構成員などとは比較にならない。

 となればその二体が誰なのか、この場にいる全員がすでに理解していた。


八本指(はっぽんゆび)』ヨギと『飛猿(とびざる)』タタリ。


 黄土色の魔道士のローブを纏った骨人族(スケルトン)は宙に浮かぶ小舟の上から、

 革のジャケットを纏った腐肉族(グール)は屋根の上から、それぞれテンドウたちを見下ろしている。


 離れた大広場の方からは、まだ戦闘音が微かに聞こえてきている状況――。

 つまりそちらは配下たちに任せて、より重大だと判断したこちら側を追ってきたというわけだ。


(おいさすがにキツすぎるだろ……! 脅威度で言ったら過去最大級じゃないか!)


 テンドウは心の中でぼやき、緊張から口の中が一気に渇く。

 だがその反応は無理もない。属する組織こそ違えど、最も警戒すべき『三大ファミリー』の幹部二体が、まさかの揃い踏みしたのだから。


 何の変哲もないただの住宅街の行き止まりは、瞬く間に混沌(カオス)な状況となるのだった。

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