第四十一話 第三拠点候補
犠牲を払うも勝利を収めた集合住宅での抗争。
その帰り道、行きと同じくアカツキ通りから一本外れた道を戻っていた一行は――また別の目標に向かって歩いていた。
「せっかく貴族街の外まで出たんだ。ついでに次の拠点候補を見ておこうぜ」
そう切り出したムウマの提案を了承した一同。
もちろん、貴族街の外が危険極まりない場所なのは全員が理解している。
ただムウマいわくそこまで遠くもないようなので、軽く現地を見てから帰ることとなったのだ。
「間違いなく普通の建物と比べりゃ頑丈だぜ。……何せたまに、荒くれ者どもが酒を飲んで暴れたりもしてたはずだからな」
「……酒を飲んだ荒くれ者ども? ――あっ、分かったぞ! 冒険者ギルドだなっ!?」
「――正解だ、ガガク。あれほどの建物もそうそうねえからな。さすがは元冒険者見習いだぜ」
……どうやら第三拠点の候補は冒険者ギルドだったようだ。
たしかにムウマの言う通り、街の規模を問わずほとんどの冒険者ギルドは堅牢な造りであることが多い。
それが『赫の大樹海』と北のダイセツ山脈に囲まれた亡都ヤマトニアなら言うまでもない。
小国といえど、かつて数十万もの国民全員が住んでいた世界有数の大都市なのだ。
であれば数ある冒険者ギルドの中でも、トップクラスに要塞じみた建物だと思われる。
「なるほどな。ちょうどいい候補って冒険者ギルドだったのか。……んで、肝心の位置は大丈夫なのか?」
「問題ねえ。そこもしっかりパンドラで聞いたからな。今度はアカツキ通り沿いを西に真っすぐ行けば見えてくるはずだぜ」
「へえ、冒険者ギルドか。面白いじゃねえか。……死んだ二人にも一度、見せてあげたかったです」
テンドウの問いにムウマが答え、隣を歩くドンチンが呟く。
南瓜頭ファミリーに関してはアンデッドとして長く街にはいるも、ずっと貴族街の中にいたため、冒険者ギルドを見たことはないようだ。
――というわけで、一路西を目指して進む一行。
大きな戦いの後なので慎重に慎重を重ねて、アンデッドとの遭遇を極力避けながら向かっていく。
「……どうやら運は俺たちにあるらしい。さすがにビビるほど数は多いが……上手いことルートは開いてるぜ」
「了解だ。じゃあ先導を頼む。……けど皆、ニゴマルだけは恐いから全方位の目視での確認を頼むぞ」
「「「「おう!」」」」
テンドウの声に気合いの入った返事をする仲間たち。
最大限の警戒をしながら、路地を通って貴族街の南門も通り過ぎ――初めて踏み入れたエリアをひたすら西へ。
――その途中、想定外な出来事が発生する。
路地から見えたアカツキ通りと交わる大きな交差点。角に面した建物が軒並み崩れていることで、さらに開けた空間にて――まさかの現在進行形の抗争が起きていたのだ。
(……ひえー。こりゃ凄まじい現場だな……)
交差点の中心で複数のファミリーが入り乱れて殺し合う状況。
包丁にエプロン姿という肉屋みたいな大型種も、浅黒い歯茎をした入れ歯のような姿の種族も、三つ目の狼人間な種族も。
知っているものから見知らぬものまで、それらアンデッドの群れが抗争を行っていたのだ。
ゆえに足元の石畳の道も、どこもかしこも返り血や流れた血で赤一色に染まっている。
……もはやこれ以上ない地獄絵図と化している状況だ。
怒声に悲鳴、肉を裂く音や骨が砕ける音まで。
ありとあらゆる不快で恐怖を煽る音が聞こえてくるが……これ幸いとテンドウたちは足早に通り過ぎていく。
――そうして、奇跡的に集合住宅から戦闘なしで目的の冒険者ギルド付近まで到達。
聞いた話では三階建ての一際高い建物らしいが――いまだその姿は見えてこない。
「あん? もうとっくに見えてきていい頃なのに……どうなってやがる?」
視界は開けて霧も出ておらず、遮るものは何もない。
にもかかわらず一向に見えてこない目的地に、ムウマが疑問の声を上げた。
一行は困惑したまま、ようやくアカツキ通りに出てさらに前進していくと――。
「「「「!?」」」」
右手に飛び込んできたその光景を見て、テンドウたちは驚愕してしまう。
正確にいえば少し前から見えていたが……まさか目的地だとは夢にも思わなかったからだ。
冒険者ギルドはあるにはあった。
だがそれは完全に予想外で、もうとても冒険者ギルドと呼べるものではない。
三階建ての堅牢な建物の成れの果て。
完全に破壊されて骨組すら残っていない――ただの瓦礫の山だった。
◆
第三拠点候補筆頭だった冒険者ギルドの変わり果てた姿。
それを見たテンドウたちは、全壊した現場の前で固まったように立ち止まってしまう。
冒険者ギルドの外壁は錆御影石だ。
主にヒノモト王国などの東方で採掘される、天然石の中では極めて頑丈な建材である。
それが見事なまでに破壊されていたのだ。
いったい誰の仕業なのか? 心底驚かされるテンドウたちであったが……驚いた理由は破壊されていたという点だけではない。
「百年前に破壊された……にしてはホヤホヤすぎるよな?」
崩れ落ちている瓦礫の山。その一つ一つに微かな魔力が残っていたのだ。
何らかの強烈な魔法攻撃による破壊――。少なくともここ数日中の出来事だと思われる。
「……マジかよ。ここまでの破壊ができるアンデッドがこのエリアにいるってことじゃねえか……」
「なあムウマっ、こんなのニゴマルが暴れたんじゃないのか?」
「違うよ、ガガク。……この感じは多分、火属性の魔法だと思うよ」
ガガクの問いをカグラが即座に否定する。
たしかにニゴマルならば、骨組すら残さない破壊など容易にできるだろう。
だが無数にある瓦礫の多くが、表面部分が酷く焼けて黒焦げになっていたのだ。
――加えて、瓦礫以外にも現場に残っていた存在が。
冒険者ギルドをナワバリとする邪戯道化族の死体が、まだ消失せずにちらほらと埋もれている。
こちらも重い火傷の痕が残っているため、ニゴマルの仕業でないのは明白だ。
「コイツらもかなり強い種族なはずだけど……。とにかく犯人はだいぶ強力なアンデッドなのは間違いないな」
堅牢な冒険者ギルドの破壊だけでなく、ファミリーの壊滅まで。
個人でやったのか、あるいはファミリー単位でやったのか。
そこら辺は一切不明だが、とにかく犯人はこの南エリアにおいて一、二を争う実力であることは間違いない。
「まだ少し焦げくせえ臭いも残ってるぞ。下手すりゃテンドウの白い炎に匹敵するんじゃねえか? ……もしそうなら勘弁です」
「うむぅ、さすがに今のテンドウ以上の火属性の使い手がいるとは思わないべ。……でも相当なレベルなのは確実だべな」
「……だな。おっさんの危機感がこの犯人はヤバイと叫んでいるぞ」
皆が揃って正体不明の火属性アンデッドに対しての脅威を口にする。
中立域パンドラで得た共有している情報の中で、『要注意アンデッドリスト』には入っていない個体だ。
だからこそ少し背筋が凍ってしまう。
可能性としては湧いて間もない『はぐれ』個体だろうか? パンドラや亡都新聞でも把握しきれていない強個体が、まだ亡都ヤマトニアには存在しているらしい。
(ここもそうだが……そういやヤツの反応もなかったな。まさかそっちも倒されやがったのか……?)
「――ん? どうした、ムウマ。何か気になることでもあるのか?」
と、考え込んでいる様子のムウマにテンドウが声をかける。
対してムウマは小さく頷くと、崩壊したギルドから来た道の方へと視線を向けた。
「ああ、じつはもう一つな。ここまで来た道のもう一本奥に、『裏路地の暴徒』がいるはずなんだが……。まったく反応がなくて消えてやがるんだよ」
「裏路地の……それってたしか、白目を向いた上裸の『はぐれ』だっけか?」
「そうだ。一人で裏路地で暴れ回る強個体だぜ。パンドラの情報では南エリアでも名の知れた個体のはずなんだが……」
何やら不穏で謎な状況に、ムウマが丸坊主な頭をボリボリ、とかく。
同じく有名なはぐれの『車椅子の老婆』と比べても、純粋な戦闘力では遥かに上回っている強力なアンデッド。
その個体がいないということは……ほぼ間違いなく何者かに倒されたということだ。
ニゴマルかタタリかヨギか。なぜか南エリアに出没する『三大ファミリー』の幹部の可能性はもちろんあるが……。
ギルドを完全に破壊した謎の火属性アンデッドもまた、犯人の線は充分にあるだろう。
「――まあ、とにかく何だ。……これで冒険者ギルドは完全に拠点候補から消えちまったぜ」
「……だな。また候補の絞り込みから始めないとだぞ」
改めて目の前の冒険者ギルドの現状を確認して、ムウマとテンドウがため息をつく。
せっかく大きな戦闘の後にリスクを冒して西へと足を伸ばしたが……こちらの方は期待とはほど遠い結果となった。
――こうして、テンドウたち一行は落胆して冒険者ギルド跡地を後にすることに。
脱出のために重要となる次の拠点探しは、結局、振り出しに戻ってしまうのだった。




